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2023年09月07日

活況を呈する半導体業界、採用増だが人手不足は深刻【業界研究ニュース】

精密機器・電子機器

 次世代半導体の国産化を目指す共同出資会社「ラピダス」が9月1日、北海道千歳市で新工場の起工式をおこないました。ラピダスは、トヨタ自動車NTTなど国内大手8社が出資し、国も補助金を出し、高性能半導体の量産を目指す会社です。熊本県では、世界最大の半導体受託製造会社、台湾積体電路製造(TSMC)が新工場の建設を進めています。こちらにも国の資金が投じられています。

 20世紀後半には日本のお家芸とされた半導体の製造ですが、今は台湾、アメリカ、韓国などに追い越され、日本のシェアは1割以下に低迷しています。しかし、半導体は今後、AI(人工知能)や5Gといったデジタル化が進展することにより需要が急増していきそうです。そのため、遅ればせながら日本も官民挙げて挽回に動き出しているわけです。そこでネックになっているのが、半導体技術者の不足。今は業界を離れている中高年の技術者を再雇用したり大学に半導体を学ぶ過程を新設したりする動きが目立っていますが、それでも不足が懸念されています。採用増は技術者以外にも及び、半導体業界は就職戦線で注目される存在になりつつあります。

(写真・ラピダスの新工場「IIM-1」の模型を手にする東哲郎会長、小池淳義社長、鈴木直道知事、横田隆一・千歳市長(左から)=2023年9月1日)

世界の半導体市場は今後10年で2倍か

 半導体は、電気を通す「導体」と通さない「絶縁体」の中間的な性質を持つ物質のことですが、広い意味では、このような物質を材料にした集積回路(IC)も半導体と呼ばれます。様々な電化製品や自動車などに使われていて、社会のデジタル化を支えています。処理する情報が増え、行きかうデータが増えることで、世界の半導体市場は2030年に1兆ドル規模に拡大するという予測が出ています。半導体の発明から75年間で市場は約5500億ドルに成長しましたが、今後わずか10年足らずでその2倍近くに急成長するとみられているわけです。

国内工場新設で活気づく投資

 日本でも半導体関連の国内投資が活発になっています。経済産業省は4月、2030年までに半導体関連産業の国内売上高を今の3倍となる15兆円に引き上げる目標を発表しました。約5兆円を投資するラピダスは、トヨタとNTTのほか、デンソーソニー グループ、NEC ,ソフトバンク 、キオクシア、三菱UFJ銀行が出資しています。TSMCは約1.2兆円を投資しますが、ソニーグループとデンソーはこちらにも出資しています。ほかにも最近発表された投資としては、フラッシュメモリに強いキオクシアが三重県で約1兆円、アメリカのマイクロン・テクノロジーが広島県で約5千億円、ハードディスクドライブ(HDD)に強い東芝デバイス&ストレージが石川県で約2千億円、三菱電機が熊本県で約1千億円などの案件があります。いずれも、工場の新設に使われます。

ロジック半導体で最先端めざすラピダス

 半導体関連にはいろいろな分野があります。デジタル機器の頭脳にあたるのが「ロジック半導体」ですが、日本は韓国のサムスン電子やTSMCなどから大きく遅れてしまっています。ラピダスはその遅れを取り戻して一気に世界の最先端に立つことを目指しており、世界でもまだ成功例のない回路幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)級の高速半導体を製造する計画を立てています。また、日本が今でも強みを発揮している分野はあります。スマホのカメラやクルマの自動運転などに欠かせないイメージセンサーはソニーグループが世界の5割近いシェアを持ち、ルネサスエレクトロニクス は車載用マイコンに強みを持っています。

製造装置や材料では世界トップクラス

 また、半導体製造装置や半導体材料の分野では世界のトップクラスにある企業がいくつもあります。半導体製造装置では東京エレクトロン アドバンテストなどが世界の上位に入っており、半導体の基板になるシリコンウェハーでは信越化学工業が世界のトップで、SUMCOが2位で続いています。また、回路のパターンをシリコン基板に投影するために必要なフォトレジスト(感光材)は日本メーカーが世界シェアの約9割を握っていて、なかでもJSR東京応化工業が大きなシェアを占めています。

官製ファンドがJSRを買収

 政府が旗を振っていることもあり、半導体業界は活況を呈しています。ラピダスやTSMCに国のおカネが注ぎ込まれるだけでなく、佐賀県に新設するSUMCO のシリコンウェハー工場にも最大750億円が補助されます。政府は海外企業にも補助金を活用して日本に投資するよう呼び掛けています。また、官製ファンド「産業革新投資機構(JIC)」は、フォトレジストで世界トップのJSRを買収することを発表しました。JICが大規模な投資をして業界再編につなげ、さらに国際競争力を高めようという考えです。ただ、政府主導の業界再編には失敗例があります。NEC、日立製作所、三菱電機の半導体メモリー事業を統合したエルピーダメモリは多額の公的資金が注ぎ込まれましたが、2012年に倒産し、アメリカ企業に買収されました。また、東芝、ソニー、日立の中小型液晶事業を統合して発足したジャパンディスプレイも2023年3月期決算が9年連続の純損失となるなど経営難が続いています。政府の旗振りが功を奏するかどうかは今後の注目点です。

(写真・産業革新投資機構(JIC)による買収について記者会見で発表するJSRのエリック・ジョンソン社長=2023年6月26日)

若い人材を強く求めている時期

 一方で、業界の人材不足は深刻になっています。経済産業省の統計によると、半導体を含む電子部品・デバイス産業従事者は2002年の48万人が2020年には41万人に減りました。縮小していた業界が一気に活況になったため、人材を増やそうとしてもなかなか増やせない状況になっています。このため、半導体技術者としての経験がある中高年が引っ張りだこになっていたり、自治体が半導体についての学び直し(リスキリング)のためのセンターを作ったりする動きが出ています。また、半導体分野に特化した人材派遣会社が設立されたり、大学にデバイス工学やデータサイエンスの課程が新設されたりもしています。半導体業界は若い人材を強く求めている時期ですので、半導体に興味のある人は関連する会社を調べてみるといいと思います。

(写真・福岡市の天神地下街にある半導体エンジニアを募集するソニーの広告=2023年5月)

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