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2023年09月21日

ビッグモーター、談合、自然災害…… 逆風の損保業界に将来性はあるか【業界研究ニュース】

銀行・証券・保険

 自動車保険火災保険を主力商品にする損害保険(損保)業界は比較的業績が安定して好待遇とされ、就職人気が高い業界です。しかし、最近は業界にいくつかの逆風が吹いています。中古車販売大手のビッグモーターによる保険金の不正請求について、持ちつ持たれつの関係にあった損害保険ジャパンの社長が辞意を表明しました。不正に目をつむって利益を優先する姿勢が見え、損保業界全体への不信感にもつながっています。また、企業向け保険の保険料を大手4社が事前に談合で決めることが常態化していた疑いがあり、金融庁公正取引委員会が調査をしています。さらに、最近は大雨、ひょう、台風などの自然災害による被害が想定より多く、業績も芳しくありません。

 一方で、業界はサイバーリスク、自転車、いじめ、ペットなどの新しい分野で保険を開発しています。また、クルマの自動運転時代に対応した保険の研究や開発も進めています。時代の変化に伴い、リスクの種類や大小は変わります。ただ、どんな時代になっても「リスクを減らす」という損保の存在意義は変わりません。今の逆風をきちんと乗り越えれば、業界はまた順風の時代に戻る可能性があります。

(写真・日本損害保険協会の入る損保会館=東京都千代田区)

3グループで約9割のシェア

 金融庁から免許を得て日本で活動している損保会社は55社あり、このうち外資系が22社です。業界は21世紀に入ってから、規模の利益を求めてグループ化を進めました。今は、東京海上日動火災保険日新火災海上保険、イ―デザイン損害保険などを傘下に持つ東京海上ホールディングス(HD)、三井住友海上火災保険あいおいニッセイ同和損害保険、三井ダイレクト損保などを傘下に持つ MS&ADホールディングス(HD)、損害保険ジャパンなどを傘下に持つ SOMPOホールディングス(HD)の3グループに集約されていて、この3グループで約9割のシェアを持っています。また、グループ内の単体の会社としては、東京海上日動火災保険、損保ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険を大手4社とよんでいます。

(写真・損保最大手の東京海上日動火災保険本店=東京都千代田区)

損保ジャパンは社長が辞任へ

 最近、大きなニュースになっているのがビッグモーター(BM)事件ですが、損保業界はこの事件に深くかかわっています。中古車販売大手のBMは事故車の修理もしていましたが、修理の際にわざと傷をつけるなどして不正な保険金を損保会社に請求していました。BMは保険を販売する代理店でもあり、中古車販売の際にどの損保会社の保険を売るかを差配する力を持っていました。このため、損保ジャパン、東京海上日動火災、三井住友海上火災の大手損保3社はBMに社員を派遣し、BMの仕事の一部を担っていました。3社は不正請求の情報を知ってBMに事故車を紹介することを止めましたが、損保ジャパンだけがすぐに取引を再開しました。取引を止めていると他社に保険を振り分けられてしまう、と恐れたようです。損保ジャパンは、不正の追及より自社の利益を優先させたとして批判され、社長が辞任することになりました。

金融庁と公取委が保険料の談合で調査

 損保業界が直面しているもうひとつの問題が談合問題です。金融庁は6月、東京海上日動火災など損保大手4社が、私鉄大手の東急グループ向けの火災保険料を事前に調整した疑いがあるとして、報告を求める命令を出しました。金融庁はさらに8月、京成電鉄や千葉都市モノレール向けの保険、石油や鉄鋼業界向けの保険でも事前調整の疑いがあるとして追加の報告を求める命令を出しました。こうした談合については公正取引委員会も独占禁止法(不当な取引制限)の疑いで本格的な調査に乗り出しています。各社が事前調整することで顧客は高い保険料を払わされていた可能性があります。

地球温暖化により保険金支払いが増加か

 こうした損保業界の問題の背景には、業績の悪化があります。損保大手3グループの2023年3月期決算は約10~60%の減益でした。国内の自然災害が「想定の1.5倍の規模だった」(SOMPO役員)ため、建物被害などの際に支払う保険金が増えたことが影響しました。自然災害の増加は地球温暖化に関係しているとみられ、今後も増えることが想定されます。MS&ADHDは2025年度末までに国内の生損保事業会社の従業員の2割弱にあたる6300人を減らすことにしています。

(写真・土砂崩れによる大きな被害のあった福岡県久留米市=2023年7月11日)

自転車、サイバー、いじめなどの保険にも注力

 損害保険会社の主な収入源は自動車保険と火災・地震保険です。ただ、国内の自動車の保有台数は頭打ちになっていて市場規模は大きくなりそうにありません。今後は自動運転のクルマが走る時代になるとみられていて、自動運転が事故を起こした場合の責任が誰にあるのかということも含めて自動運転に対応した保険の開発が課題になります。ほかにも、自転車保険への加入を義務付ける自治体が増えているため、自転車保険の販売にも力を入れています。また、サイバーリスクに対応した企業向けの保険やいじめを受けた子どもに対して転校費用やカウンセリング費用などを負担する保険も新しい分野として売られています。

利益の半分以上を稼ぐグローバル企業

 損保業界はグローバルに展開している業界でもあります。たとえば、東京海上グループは世界46の国・地域に展開していて、グループ全体の利益の54%(2022年度年初予想ベース)を海外で稼いでいます。損害保険の市場が最も大きいのはアメリカで、次いで中国、3番目がドイツで日本は4位です。人口が減っている日本の市場は大きな成長が見込めず、必然的に海外展開に力が入ります。ビッグモーターの事件などを見ると国内で営業展開する会社というイメージが強くなりますが、グローバル企業であることも知っておいてください。

(写真・PIXTA)

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