トラック運送業界はいま、「仕事は増えるのに運転手が足りない」という悲鳴を上げています。Amazonやメルカリといったネット通販・サービスの利用は衰えず、宅配便の個数は増え続けています。コロナ禍が明けたことで物流全体も活発になっています。仕事が増えるのは業界にとって基本的にいいことですが、ドライバーの不足が深刻になっていて、これまでのようにスムーズにモノを運べなくなる心配が出てきているのです。
ドライバーはもともと「きつい仕事なのに賃金が安い」とされていて不足がちでした。2024年4月から始まる労働時間規制によってますます不足感が強まり、野村総合研究所によると2030年には予測される国内の荷物量の35%が運べなくなるとしています。これを「物流の2024年問題」と呼んでいます。業界では、外国人ドライバーを採用できるように国に制度変更を求めたり、女性ドライバーが働きやすいような環境を作ったり、荷物の積み下ろしを楽にするロボットを開発したり、待ち時間に対価を発生させるようにしたりするなど、さまざまな対策を進めています。ただ、自動車メーカーが開発中の自動運転(無人運転)が実用化されるまでは、一朝一夕に解決しそうにはありません。2024年問題は、社会が今注目している問題ですが、それは社会が業界をますます必要としているということでもあります。
9割以上が中小企業の多重下請け構造
トラック運送業界は、ごく一部の大手企業と多数の中小事業者で成り立っています。国土交通省によると、日本には63251社(2022年3月末現在)もの事業者があり、その9割以上が中小企業です。大手は引き受けた仕事を下請けの中小企業におろし、下請けは孫請けにおろすという形の多重下請け構造があるのが特徴です。大手企業としては日本郵便(2023年3月期の売上高3兆4515億円)、NIPPON EXPRESSホールディングス(日本通運、2022年12月期の売上高2兆6197億円)、ヤマトホールディングス(ヤマト運輸、2023年3月期の売上高1兆8007億円)、SGホールディングス(佐川急便、2023年3月期の売上高1兆4346億円)、ロジスティード(旧日立物流、2023年3月期の売上高8143億円)、セイノーホールディングス(西濃運輸、2023年3月期の売上高6315億円)などがあります。
(写真・ヤマト運輸が導入したEVトラック=2023年9月)
宅配便や引っ越しなど各社に得意分野
大手各社にはそれぞれ、得意分野があります。宅配便はヤマト、佐川急便、日本郵便が大手3社で、この3社で日本全体の宅配便個数の9割以上を配達しています。日本通運は企業間の運送のほか、引っ越しや海外事業も展開しています。トラック運送だけでなく、飛行機や船を使った運送もおこなっていて、陸運、海運、空運にまたがる総合力が強みになっています。また、引っ越しに特化した運送会社もたくさんあり、サカイ引越センター、アート引越センターなどが大手です。
2024年度は前年度より輸送能力が14.3%落ちる
トラック運送業界の今の最大の課題は2024年問題をどう乗り切るかです。トラックドライバーは労働時間が長く、健康を壊す人が少なくありません。働きすぎを防ぐための新しいルールが2024年4月から業界に適用されます。新ルールではドライバーの年間拘束時間を原則3300時間までとし、それとは別の残業は年間960時間までとします。仮に毎日働くと1日あたり9時間働いて、残業は2時間以上という計算になり、これでも十分に長時間労働なのですが、これまではもっと働いていたというわけです。一方で、トラックドライバーが運ぶ荷物は年々増えています。たとえば、宅配便個数は2022年度に初めて50億個を超えました。赤ちゃんからお年寄りまで日本人1人当たりで40個を超える荷物を1年に受け取っている計算になります。荷物が増えるのにトラックドライバーの働く時間が短くなるのですから、輸送能力が落ちることになります。2024年度には2023年度の輸送能力より14.3%落ちるとみられています。荷物が届くのに時間がかかったり、送料が高くなったりすることが想定されます。
(写真・車内で休憩をとるドライバー=2023年5月)
経済対策に荷待ち削減などの具体策盛り込む
政府も、国民生活への影響が大きい「物流の2024年問題」を深刻に受け止めています。すでに関係閣僚会議で、「荷待ちや荷役時間を削減する」「高速道路のトラック速度の上限を引き上げる」「送料無料の表示を見直す」「再配達を削減する」などの対策をまとめており、具体策を10月中にまとめる経済対策に盛り込むことにしています。また、業界の要望を受けて、外国人運転手を特定技能の対象にすることなども検討しています。
増えるフリーランスの運転手どう守るか
業界のトラックドライバー不足は、フリーランスの運転手が増えることにつながっています。会社に所属しないで、アマゾンなどのネット通販会社から直接業務を請け負う形です。ただ、会社に所属していないため、自由裁量ではたらける一方、労働災害や雇用保険の適用、有給休暇や残業代、最低賃金の適用などが基本的にありません。ただ、配達中のフリーランスの運転手がけがをしたことについて、労働基準監督署が9月に労災と認定しました。スマホアプリを通じてアマゾンに管理されており、雇われている会社員と同じだと判断したもので、フリーランスの運転手の労災認定は初めてとみられています。増えるフリーランスの運転手をどう守るかが問われるようになっています。
志望者は2024年問題の解決方法を考えよう
ただ、業界の仕事はドライバーだけではありません。荷主である顧客を確保したり、顧客の要望を聞いたりする営業の仕事もあります。経営戦略や事業戦略を立てる企画の仕事もあります。また、荷主から預かった荷物の保管や物流の管理も大切な仕事です。もちろん、人事や総務などの事務仕事もあります。物流を管理するシステムの構築も重要です。海外展開している企業だと海外勤務の機会もあります。ドライバー不足が深刻であればあるほど、ドライバー以外の社員の仕事は重要になります。この業界を志望する人ならば、問題をどうやって解決すればいいのかをよく考えて、面接で聞かれたらしっかり答えられるようにしましょう。
(写真・PIXTA)
◆朝日新聞デジタルのベーシック会員(月額980円)になれば毎月50本の記事を読むことができ、スマホでも検索できます。スタンダード会員(月1980円)なら記事数無制限、「MYキーワード」登録で関連記事を見逃しません。大事な記事をとっておくスクラップ機能もあります。お申し込みはこちらから。