業界研究ニュース 略歴

2023年10月19日

本業は縮小しても、周辺技術を生かして成長するカメラ業界【業界研究ニュース】

精密機器・電子機器

 20世紀後半から21世紀にかけてカメラは大きく変わりました。かつてカメラといえば、フィルムを装填して撮影するフィルムカメラばかりでした。しかし20世紀終盤にフィルムのいらないデジタルカメラが登場し、あっという間に主流となりました。何枚とってもフィルムを消費しないのでおカネはかからず、現像焼き付けの時間も必要ないデジカメは飛ぶように売れましたが、その栄華も長くは続きませんでした。2010年ごろからスマートフォンが普及しはじめ、手軽に写真を撮る機器の主流はスマホになったのです。今では、国内で生産されるデジカメの台数はピーク時の1割にも満たなくなっています。

 こうした流れのなかで、カメラ関連メーカーはそれぞれが厳しい生き残りを迫られました。フィルムメーカーとして知られた富士写真フイルム(現・富士フイルム)やコニカ(現・コニカミノルタ)はフィルム製造の技術を生かし、ヘルスケア分野や電子材料分野などに向かいました。キヤノンニコンといったカメラメーカーは、半導体製造に使う露光装置やプリンターなどに力を入れ、カメラの売り上げの落ち込みをカバーしてさらに成長しています。社会の変化により、主力商品が売れなくなることはあちこちの業界でありますが、それまでに培った技術やノウハウを別の分野に応用することはできます。カメラ業界はそうした生き残りに成功した柔軟で強い業界です。

(写真・PIXTA)

よく売れているのはミラーレスカメラ

 現在、日本の主なカメラメーカーとしては、キヤノン、ソニー、ニコン、富士フイルム、パナソニックがあります。かつて有名なカメラメーカーだったオリンパスミノルタ(現・コニカミノルタ)は、今はカメラ製造をやめています(「オリンパス」ブランドのカメラは別会社のOMデジタルが引き継ぎ、ブランド名は「OMシステム」に変更予定)。今のカメラメーカーが製造しているのはほとんどがデジタルカメラで、フィルムカメラはプロ用としてごく一部製造されているだけです。デジタルカメラは、コンパクトカメラレンズ交換式カメラの二つに分かれます。コンパクトカメラはスマホと競合するため、売れ行きは激減しています。本格的な写真を撮れるレンズ交換式カメラはさらに一眼レフカメラミラーレスカメラに分かれますが、今よく売れているのはミラーがないためコンパクトで軽くなるミラーレスカメラです。

(写真・PIXTA)

デジカメの出荷台数は12年で93%も減る

 業界団体のカメラ映像機器工業会によると、国内のデジタルカメラの2022年の出荷台数は801万台です。デジタルカメラの出荷台数がピークだったのはスマホが広がり始めた2010年で、1億2146万台です。この12年ほどの間に、デジカメの出荷は93%も減ったことになります。あっという間に写真はスマホで撮るという社会の変化が起こったということです。かろうじて売れているミラーレスカメラについては、パナソニックやソニーが先行したのですが、キャノンやニコンも参入して激しいシェア争いをしています。

防犯カメラ・監視カメラの分野が伸びる

 カメラ分野で伸びているのは、防犯カメラ・監視カメラの分野です。防犯のためにカメラの設置が有効という意識が広まり、世界中で需要が伸びています。こちらは中国やヨーロッパの企業が強いのですが、キヤノンは2015年に3300億円で世界最大手だったスウェーデンの会社を買収し、世界トップに躍り出ました。ただ、その後、中国企業の2社やパナソニックも伸びており、こうした企業によるトップ争いが続いています。

カメラやフィルムの技術を発展させ「脱カメラ」進める

 カメラ分野の縮小に伴って、各社ともカメラ以外の分野に力を入れています。キヤノンの2022年12月期決算をみると、今やもっとも売り上げの大きいのは、プリンターなどのプリンティング部門で、カメラなどのイメージング部門の3倍近くになっています。医療機器などのメディカル部門は売り上げ、利益ともに過去最高になりました。ニコンの2023年3月期決算をみると、カメラなどの映像事業は全体の売り上げの3分の1強で、半導体製造の露光装置などの精機事業の売り上げと同じくらいです。また、医療機器などのヘルスケア事業も分野別では3番目の売り上げになっています。2023年3月期の富士フイルムホールディングスの決算を見ると、売上高がもっとも大きい分野は医療機器や医薬品などのヘルスケア、次に電子材料などのマテリアルズ、デジタルサポートなどのビジネスイノベーション、そして4番目がデジカメなどのイメージングと続いています。各社ともカメラやフィルムの技術を発展させる形で着々と「脱カメラ」を進めています。

海外勤務の可能性のあるグローバル企業

 カメラメーカーの特徴として、海外売上高比率が高いことが挙げられます。キヤノンの海外売上高比率は79%、ニコンは80%、富士フイルムは64%となっています。どこも国内の売上高よりも海外の方がずっと多いということです。日本人は小さくて精密な製品をつくることが得意といわれ、戦後、品質のいいカメラやフィルムを次々に開発しました。キヤノンは1960年代後半に「右手にカメラ、左手に事務機」というスローガンを掲げ、多角化と国際化を進めました。そのうち強かったドイツメーカーも日本メーカーのカメラにおされて衰退し、世界のカメラ市場で日本は圧倒的に強い存在になりました。今でも訪日外国人観光客の多くが日本メーカーのカメラを持っているはずです。こうしたカメラメーカーを志望する人は、海外勤務の可能性のあるグローバル企業だということを知っておきましょう。

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