2024年に日本を訪れた外国人(インバウンド)は前年比47.1%増の3686万人で過去最多になりました。コロナ禍がおさまって訪日客の増加傾向は続いており、政府は2030年には6千万人とすることを目標にしています。訪日客数の増加を見越し、国土交通省は成田空港の年間発着枠の上限を現在の30万回から34万回に拡大する方針だと伝えられています。発着枠が増えることは航空業界(エアライン)にとって追い風で、特に日本のエアラインである全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)には増収要因になります。
ただ、日本から出国する日本人(アウトバウンド)の数は1300万人で、コロナ前の2019年に比べて約65%と、インバウンドに比べて回復が遅くなっています。円安などにより海外旅行を控える動きが続いているためで、日本の航空会社にとっては出国日本人数の回復がカギになっています。また、燃料費や人件費の高騰など費用面での課題もあり、日本の航空会社が訪日客の増加という追い風をどこまで生かし切れるかはまだ不透明です。
ANAグループとJALグループに大別
国土交通省によると、日本の航空会社は現在25社あります。多くの国内線と国際線を持っているのがANAとJALの2社です。そのほか、第3極を目指しているスカイマーク、限られた地域で運航している AIRDO 、ソラシドエア、スターフライヤーなどの地域航空会社、安さを売りにしているピーチ・アビエーション、ジェットスター・ジャパン、スプリング・ジャパンなどの格安航空会社(LCC)などがあります。国内の航空会社の多くがANAかJALのどちらかと提携関係にあり、日本の航空会社はANAグループとJALグループに大別できます。
(写真・日本航空(手前)と全日空の機体=羽田空港/写真はすべて朝日新聞社)
訪日客増の恩恵を十分に享受できず
ANAもJALも増収減益の傾向にあります。訪日外国人客の増加や国内旅行・出張の回復により、売上高はANAもJALも2024年度上半期で前年同期に比べ10%程度増えています。しかし、税引き前利益は両社とも前年同期比で10%を超す減益になっています。ウクライナや中東での戦闘による原油価格の上昇で燃料費が増えたことや、人手不足により人件費が上がっていることが要因です。訪日外国人客の増加は追い風ですが、外国人は訪日や離日の際には外国の航空会社を使う傾向が強いことや成田空港などの国際空港に発着枠の上限があることなどから、日本の航空会社は訪日外国人客増加の恩恵を十分に享受できていない状況です。
(インバウンドのにぎわいが戻った関西空港の国際線出発ロビー=2023年12月)
力を入れているのは国際線
ANAとJALは国際線の強化に力を入れています。両社とも国際線の収入が国内線を上回る傾向が出ているためです。ANAは2024年12月のイタリア・ミラノを皮切りに2025年1月にスウェーデン・ストックホルム、2月にトルコ・イスタンブールに新規就航をします。いずれも日本人観光客に人気のある都市です。JALも2024年10月から成田空港出発の中国・上海便を毎日1便増やすなど、夏ダイヤで週80便だった中国線を冬ダイヤでは週93便に増やしました。ただ、国際線には戦争や世界経済の減速などのリスクがあり、慎重さも求められます。
持続可能な新燃料を開発中
航空会社が抱えている課題はほかにもあります。ひとつは、環境問題に対応した新燃料の開発です。今の燃料は原油を精製して得られるジェット燃料ですが、これはたくさんの二酸化炭素を排出することから、廃油となる食用油などから燃料をつくろうとしているのです。本来は捨てられて燃やされるものを燃料に変えるということで、持続可能な燃料(Sustainable Aviation Fuel=SAF)としています。2030年以降に本格的に実用化することを目指して、航空会社が中心になって開発しています。
(写真・コスモ石油のSAF製造プラントの建設現場=2024年9月、堺市西区)
空港の人手不足の解消にも取り組む
もうひとつの課題は、空港で働く人の不足です。空港では飛行機を誘導したり荷物の積み下ろしをしたりするグランドハンドリング(グラハン)とよばれる作業員や手荷物の検査などをする保安検査要員が必要です。しかし、コロナ禍でこうした仕事から離れた人が多く、そうした人が戻っていないという現実があります。こうした人が不足すると、増便がむずかしくなったり発着時間の遅れがひんぱんに起こったりするということになります。ANAとJALはグラハン資格の共通化や作業の自動化をおこなうなどして、空港の人手不足の解消にも取り組んでいます。
(写真・到着したJAL機を誘導する担当者=2024年5月、仙台空港)
入って何をしたいのかを明確に
航空会社の仕事はいくつかに分かれています。飛行機に乗り込んで仕事をするのはパイロットとキャビンアテンダント(客室乗務員)で、空港で乗客の対応をするのがグランドスタッフです。そのほか、本社や支店で営業や企画や管理の仕事をするスタッフもいます。飛行機の整備などを担当する技術職もあります。旅行会社やホテルなどのグループ会社で仕事をすることもあります。採用がそれぞれ別だったりしますので、志望する人は入って何をしたいのかを明確にさせて臨むことが必要です。
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