社会人野球のパナソニック野球部が、来シーズン限りで休部することになりました。パナソニック野球部は70年以上の歴史を持ち、社会人日本選手権で2度優勝した名門チームです。しかし、親会社の電機大手のパナソニックはテレビなどの不採算事業を抱え、抜本的な構造改革を迫られています。2026年度末までに国内外で約1万人の人員削減を実施すると発表しており、野球部の休部もこうした構造改革の一環とみられます。
日本の電機業界は20世紀終盤には家電や半導体などの分野で世界トップの競争力を誇っていました。しかしその後、韓国、中国、台湾などに追い上げられ、追い抜かれ、苦戦が続いています。一方、同じ電機業界でもソニーグループのようにゲームや映画などのソフト関連分野に重点を移した会社や、日立製作所や三菱電機のように企業や公共団体向けの仕事が多い会社の業績は好調です。パナソニックは創業者の松下幸之助氏の哲学を大切にし、家電事業に力を入れてきましたが、それが時代にあわなくなったといえます。電機業界には多くの大企業があり、人気のある業界ですが、最近は新卒一括採用にこだわらず、中途採用に力を入れる傾向にあります。各企業がどういう人材を求めているかをしっかり研究して志望先を決める必要があります。
(写真・パナソニックホールディングス本社=大阪府門真市/写真はすべて朝日新聞社)
ソニーグループはソフト分野を切り開く
日本の電機メーカーは少し前まで、①主に個人向けに家電や音響・映像機器をつくる会社②主に企業や公共団体向けに発電機やエレベーターなどをつくる会社③主にIT関連の機器やソフトをつくる会社の3つに分かれていました。①の代表的な会社はパナソニック、ソニーグループ、シャープなど、②の代表的な会社は日立製作所や三菱電機など、③の代表的な会社はNECや富士通などでした。ただ近年、ソニーグループは映画やゲームや音楽などのソフト分野に力を入れて独自の変化を遂げています。また、シャープは液晶への重点投資が裏目に出て台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の子会社になりましたが、最近はパソコン事業が好調になっています。日立製作所や三菱電機は人工知能(AI)の発達で需要が高まっているデータセンター関連の事業が好調です。NECや富士通も急速に伸びているAI関連の事業の追い風を受けています。
(写真・ソニーグループ本社前のロゴ=東京都港区)
薄型テレビの販売台数は中国系が5割以上に
家電事業は年々厳しくなっています。戦後の高度成長期には家電の需要が高まり、人件費が安く技術力の高い日本の家電メーカーは欧米メーカーを追い抜き、世界を席巻しました。その代表格がパナソニック(当時は松下電器産業)でした。日本の電気機器の貿易収支は1991年には約8兆円の黒字となっています。しかし、より人件費の安い韓国、中国、台湾のメーカーが台頭し、今度は日本が抜かれる番になりました。2023年の電気機器の貿易収支は約1兆円の赤字になっています。この間、日本メーカーの中には白物家電(冷蔵庫、洗濯機など)事業やテレビ事業やパソコン事業などを中国や台湾の企業に売り渡す例が相次ぎました。かつて家電メーカーの旗艦商品と言える位置づけだった薄型テレビ事業をみると、2024年の国内販売台数はハイセンスやTCLなどの中国系メーカーが5割以上を占めています。ソニーもパナソニックも1割を切り、大きく差をつけられています。日中の技術の差はなくなり、価格競争力で中国系にかなわなくなっているのです。
(写真・ハイセンス参加のTVS REGZA新商品の発表会=2023年4月7日)
データセンター、EV、半導体に期待
ただ、家電以外の分野では成長が期待できる分野があります。データセンター、電気自動車(EV)、半導体などで、いずれもAIやIT技術の活用が進むことと関係しています。データセンターは各種のコンピューターやIT機器を集中的に管理運用する専用施設です。AIの発達に必要不可欠な施設として建設が進んでいて、それに伴い電機メーカーの仕事が増えています。EVの普及は予想よりはゆっくりしていますが、着実に進んでいます。ソニーグループはホンダと共同でEVそのものの開発を進めています。カメラ、センサー、モーター、電池などのEVの部品は電機メーカーが得意とする分野です。半導体分野も台湾や韓国に後れをとっている分野ですが、国を挙げて力を入れています。台湾の台湾積体電路製造(TSMC)の工場を熊本に誘致し、北海道千歳市には国策会社のラピダスを建設し、最先端の半導体を製造しようとしています。ソニーグループなど既存の電機メーカーもこうしたプロジェクトに関わっています。
即戦力の中途採用を増やす
電機大手は採用方法を見直しています。富士通は2025年度から新卒一括採用をやめると宣言しました。代わりに各職場が必要なポジションの数を定め、最長で半年間の有償インターンシップをへて採用します。また、日立製作所やNECや三菱電機は中途採用を大幅に増やしています。日立は2025年度に930人を中途で採用する計画を立てましたが、これは新卒採用予定数815人を上回ります。NECは2021年度に新卒と中途の割合を1対1にする方針を掲げており、2025年度は600人を中途採用する意向です。三菱電機は2022年度から新卒と中途の割合をほぼ同じにして毎年それぞれ約1千人ずつ採用しています。電機メーカーは事業の組み換えが激しいので、事業に見合った人材をタイミングよく採りたいという意向があり、即戦力の中途採用を増やしているのです。
(写真・日立製作所の中途入社社員向け研修。付せんに社のイメージを書き込み、意見交換した=2025年8月、東京都台東区)
時代の変化や技術の進歩を知ることが必要
電機メーカーは世界を市場としており、海外売上高比率の高い会社が多くなっています。ソニーグループは8割を超え、日立製作所やパナソニックは約6割、三菱電機は約5割などとなっています。海外での仕事や海外向けの仕事が多く、海外に駐在したり外国語を使ったりする仕事に就く可能性があるのです。理科系人材の採用が比較的多いため、女性比率はやや少なめになっています。IT関係などの技術は日々進化することから、時代の変化や技術の進歩に対応する勉強も必須です。こうした業界環境や個別の企業の特徴などをよく研究して、志望先を決めるようにしましょう。
◆朝日新聞デジタルのベーシック会員(月額980円)になれば毎月50本の記事を読むことができ、スマホでも検索できます。スタンダード会員(月1980円)なら記事数無制限、「MYキーワード」登録で関連記事を見逃しません。大事な記事をとっておくスクラップ機能もあります。お申し込みはこちらから。