新潟県にある東京電力柏崎刈羽原子力発電所が今年度中にも再稼働する見通しになりました。花角英世新潟県知事が再稼働を容認すると表明し、あとは県議会の信任が得られれば、再稼働となります。福島第一原発事故を起こした東京電力にとって原発の再稼働は初めてです。また、北海道電力が再稼働を目指す泊原発でも北海道知事が再稼働の容認を示す方針が報道されており、再稼働の可能性が高まっています。中部電力の浜岡原発は原子力規制委員会の安全審査が続いていますが、審査をパスすれば再稼働を急ぎたい考えを強調しています。
ここにきて原発再稼働の流れが明らかに強まっていますが、その背景には人工知能(AI)の活用などにより電力需要が増えるとの予測があります。一方で、地球温暖化対策のためには二酸化炭素(CO₂)の排出を抑えなければならず、CO₂を出さない原発の重要性が高まっているということなのです。原発の再稼働は電力会社にとってはコストダウンにつながり、収益が改善することになります。福島第一原発事故以来沈滞気味だった電力業界は、原発とともに活気が戻りつつあるようです。
(写真・東京電力柏崎刈羽原発=2023年6月18日、新潟県柏崎市/写真、図版はすべて朝日新聞社)
発電と小売りは10電力と多数の小規模会社
電力業界は発電会社、送配電会社、小売り会社に分かれます。かつては東京電力、関西電力、中部電力、九州電力、東北電力、中国電力、北海道電力、四国電力、北陸電力、沖縄電力の10電力が地域ごとに電力事業を独占し、発電から小売りまでおこなっていました。しかし、競争がおこなわれず地域の「殿様」のような存在になっているとして、20世紀終盤から21世紀にかけて「電力自由化」が進みました。その結果、発電、送配電、小売りの3つの分野で新しい事業者の参入が認められまるようになったのです。資源エネルギー庁に2025年11月現在で登録している発電事業者は1324社、小売り事業者は790社に上っています。送配電は基本的に10電力の関係会社がおこなっていますが、発電と小売りについては小規模な会社がたくさん参入しました。
発電部門に参入した会社の多くは太陽光発電や風力発電の再生可能エネルギーを扱う会社で、小売りに参入した会社の多くは特定の地域に密着した会社です。10電力はいまも中心的存在ですが、東京電力と中部電力が折半出資して誕生したJERAのような規模の大きい発電部門の会社もあります。また、戦後の電力不足解消のために法律に基づいて設立された電源開発株式会社を改名したJ-POWERも大きな電力会社です。
(写真・JERA碧南火力発電所=2024年3月13日、愛知県碧南市)
再稼働している原発は14基
原子力発電所を持っているのは、10電力のうち沖縄電力を除く9電力と日本原子力発電です。全国には震災前に54基の原発がありましたが、そのうち21基は廃炉が決まっています。残る33基のうち14基はすでに再稼働し、原子力規制委員会に審査を申請しているのが8基あります。原子炉には沸騰水型と加圧水型があり、関西電力、九州電力、四国電力、北海道電力は加圧水型を採用しています。事故を起こした東京電力は沸騰水型だったため、安全審査においては沸騰水型をより慎重に審査しているようで、これまで再稼働が認められているのは加圧水型が多くなっています。柏崎刈羽原発が再稼働に向かって進み始めたことから、これからは沸騰水型の再稼働も進むとみられます。
原発は動かせば動かすほどコスト安に
原発は建設費が高いのが特徴です。かつては1基で数千億円といわれましたが、今では1兆円を大きく超えるといわれます。ただ、いったん出来上がるとそんなにお金はかかりません。化石燃料を大量に使う火力発電と比べで、燃料のウランが少量ですむため、ランニングコストは安くなるのです。こうしたことから、原発は長く動かせば動かすほど、電力を作り出すコストが安くなります。一方、動かさない期間が長くなればなるほど建設費の負担が重くなってきます。つまり、動かない原発を持っているのは、経営面から見ると「宝の持ち腐れ」となるわけで、再稼働すれば生産コストが下がり、業績にプラスになるというわけです。
(写真・北海道電力泊原発。右から3号機、2号機、1号機=2025年3月22日)
洋上風力は壁にぶつかる
原発の再稼働のほかに業界が力を入れているのが、洋上風力発電です。国の計画では2040年度のエネルギーの割合を再生可能エネルギーが4~5割程度、火力が3~4割程度、原発が2割程度としています。再生可能エネルギーの中心として期待されているのが、洋上風力発電なのです。しかし、ここにきて資材費や人件費の高騰による建設コストの上昇という逆風に見舞われ、コスト高で利益が見込めないことから千葉県沖と秋田県沖での建設計画から事業者である三菱商事などが撤退を発表しました。洋上風力は海に囲まれた日本に適した発電と考えられていますが、現在は壁にぶつかっている状態です。
(写真・石狩湾新港の「港湾区域」には、2024年1月に商業運転を始めた国内2例目の大規模な洋上風力発電所がある=2025年8月、北海道石狩市)
ペロブスカイトはゲームチェンジャーか
太陽光発電で期待されるのはペロブスカイト太陽電池です。この電池は軽くて曲げることができ、弱い光でも発電することができます。太陽光発電はこれまで広い遊休地や住宅の屋根などにパネルを設置して発電していましたが、ペロブスカイト太陽電池はビルの壁面などにも設置することができ、都市でも電気を作って貯めることができる画期的な製品です。耐久性を上げることやコストを下げることが課題としてまだ残っていますが、太陽光発電のゲームチェンジャーになるのではないかと期待されています。
(写真・ペロブスカイト太陽電池が取りつけられた店=2025年10月17日、神奈川県真鶴町)
社会のインフラを支える意識必要
電力会社は公共性の高い会社です。電気が止まれば、現代の生活は成り立ちません。一方で、原子力発電のようにいったん事故が起これば地域住民に甚大な被害を与えます。もちろん会社は存続が危ぶまれるほどのダメージを受けます。民間企業なので利益を求めなければなりませんが、ほかの業界に比べれば、その優先順位は低くなり、社会のインフラを支えるという意識が必要になります。AIの活用が進むと、電力を多く使うデータセンター や半導体工場がもっと必要になり、電力は今より必要とされると予測されるようになっています。社会のインフラを担うという意識がさらに求められると思います。
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