業界研究ニュース 略歴

2025年12月25日

半導体のように受託生産も始まった製薬業界【業界研究ニュース】

医薬品・医療機器・医療機関

 わたしたちが健康に生きていくうえで、薬は欠かせないものです。そうしたニーズにこたえて新しい分野の薬を生みだしている製薬会社はいま、新しい生産方法にも乗り出しています。医薬品分野に進出して成功している富士フイルムが「バイオ医薬品」の製造を富山市で始めます。そこでは自社工場を持たない製薬企業などから依頼を受けて、受託製造もするのです。

「バイオ医薬品」とは、遺伝子組み換えや細胞の培養などのバイオ技術を用いてつくるもので、がんや免疫疾患などの治療が難しい病気に使われます。需要が伸びている分野ですが、化学合成でつくる一般的な医薬品より作り方はむずかしくなります。そこで、技術のある富士フイルムが他社の製品も受託生産しようというビジネスモデルをつくりました。半導体では台湾積体電路製造(TSMC)のように受託生産に特化した会社が大きな存在感を示すようになっていますが、製薬でも似た手法で存在感を高めようとしているのです。長寿社会が進む世界で薬の市場規模は大きくなっています。もともと研究開発力と営業力が死命を制する業界でしたが、そこに製造力も加わりつつあるようです。製薬業界は将来性のある業界ですが、この業界独自の仕組みや特徴があります。志望する人は十分な研究が必要になります。
(写真・富士フイルムが開設したバイオCDMO事業の拠点。左半分が開設した新工場、右半分は建設中の別工場=富山市/朝日新聞社)

新薬メーカー、後発薬メーカー、一般向けメーカー

 製薬業界は、おもに医療用(病院向け)の薬を開発販売している会社とおもに市販(ドラッグストア向け)の薬( OTC医薬品)を開発販売している会社に大別されます。市場の規模は、医療用向けの薬のほうが圧倒的に大きくなっています。また、医療用製薬会社も、新しい薬を一から開発して特許を取って一定期間独占販売する新薬メーカーと、特許が切れた薬と同じ効き目がある安い薬=後発薬(ジェネリック医薬品)を製造販売する後発薬メーカーのふたつに分かれます。企業規模が大きいのは新薬メーカーで、後発薬メーカーはそれに比べて企業規模が小さくなります。
(写真はiStock)

武田の売上高が図抜けて大きい

 日本の新薬メーカーで売上高が大きいのは、武田薬品工業大塚ホールディングスアステラス製薬第一三共中外製薬で、この5社が1兆円を超える売上高になっています。中でも図抜けているのは武田薬品工業で、2024年度は4兆5千億円を超える売上高でした。2位の大塚ホールディングスの2024年度の売上高が約2兆3千億円なので、武田薬品工業はその倍くらいの売上高になります。一般向けの薬が主力の会社で売上高が大きいのは、大正製薬ホールディングスロート製薬参天製薬などです。また、後発薬メーカーで売上高が大きいのは、東和薬品、サワイグループホールディングスなどです。
(武田薬品工業のロゴ)

独占販売期間に大きな利益

 製薬会社はこれまで合併や統合を繰り返してきました。日本製薬工業協会によると、1975年には国内で1359の製薬会社がありましたが、今は300社ほどになっています。新薬の開発には長い年月と膨大な資金が必要なため、規模が小さい会社では負担ができず、合併・統合で規模を大きくするしかなかったのです。第一三共のホームページによると、新薬の開発期間は9~16年に及び、開発費用は数百億円~1千億円超に上ります。新薬となる化合物は2万5千にひとつだそうです。特許権は最長で25年ありますが、発売までの試験や審査期間もここに含まれるため実際の独占販売期間は8~10年だそうです。その間は大きな利益が得られますが、特許が切れると、価格の安いジェネリック医薬品にとってかわられ売り上げが激減してしまいます。新薬メーカーの売り上げや利益は画期的な新薬を発売できれば飛躍的に伸び、その薬の特許が切れれば落ちます。新薬メーカーの盛衰は画期的な新薬を開発できるかどうかにかかっているのです。

国際化が進む新薬メーカー

 新薬メーカーは国際化しています。薬は人類共通に役立つもので、輸送費もあまりかからず、世界を市場とすることができるためです。2024年の世界の医薬品市場は約262兆円(第一三共調べ)で、その規模は年々大きくなっています。中でも強いのは欧米の医薬品メーカーで、日本メーカーも外資と提携したり外国人経営者を起用したりして、国際化を進めています。武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長はフランス人で、2026年6月に退任しますが、後任の社長にはアメリカ人のジュリー・キム氏が就任することが公表されています。中外製薬はスイスの製薬会社ロシュが過半数の株式を保有している外資系企業です。アステラス製薬は世界70以上の国と地域で事業活動をしているグルーバル企業です。
(写真・2019年9月中間決算を発表する武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長=2019年10月/朝日新聞社)

研究開発を目指す人は根気強さを

 製薬会社を志望する人は研究開発や製造を志す理科系の人と、営業などを志す文科系の人に分かれるでしょう。研究開発を目指す人は、結果が出るまで長い年月がかかることを理解し、根気強く続けることのできる精神力が必要だと思います。営業などを目指す人は医療関係者への説明にあたるコミュニケーション能力や、外国人との交渉における英語力などが必要でしょう。志望する会社がどういうタイプの製薬会社であるか、どういう分野に強みを持っているか、国際化はどの程度まで進んでいるか、などをよく調べることが大切になります。

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