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2022年07月15日

ワクチン、高齢化…製薬は成長産業 日本企業の課題は?【業界研究ニュース】

医薬品・医療機器・医療機関

 新型コロナの感染が拡大しています。2020年春からの感染の波はこれで第7波になります。製薬業界はこの間、ワクチンや治療薬の開発に取り組んできました。日本で先行しているのが塩野義製薬で、ワクチンも治療薬も緊急承認される一歩手前まで来ています。しかし、いずれも実用化の時期は不透明です。一方、ファイザーなどの海外メーカーは世界にワクチンを供給し、大きな利益をあげています。日本の製薬企業が海外企業に後れをとっているのは、企業規模に差があることが一因です。新しいワクチンや薬を開発して製造するには、巨額の資金が必要です。アメリカやヨーロッパの大手に比べると、日本企業は資金力で劣っています。また、国の財政が厳しいことから薬価引き下げが続いていることも日本企業には逆風となっています。そのため、日本の製薬企業は合併や買収などで企業規模の拡大やグローバル化を進め、世界市場で勝負する体制をつくろうとしています。世界的にも高齢化が進んでいて医薬品の需要は高まり、製薬は成長産業とみられていますので、海外の需要をどこまで取り込めるかが日本の製薬企業の成長のカギとなっています。

(写真は、米ファイザーの新型コロナワクチン=同社提供)

世界トップはファイザー、日本トップは武田

 厚生労働省の調べでは、日本の2020年の医薬品生産額は約9兆3000億円です。比較的大きな業界ですが、世界全体の医薬品生産額に占める日本の割合は7%程度(第一三共ホームページより)とみられます。国内メーカーの2021年度の売上高を見ると、最も大きいのは武田薬品工業で3兆5690億円、次いで大塚ホールディングス(HD)の1兆4982億円、3位がアステラス製薬1兆2961億円、4位は第一三共1兆448億円、5位が中外製薬9997億円と続きます。ただ、世界で見ると、アメリカのファイザーの2021年の売上高は約9兆円、スイスのロシュは約7兆6000億円、アメリカのアッヴィが約6兆2000億円と、日本企業よりもずっと大きいメーカーがあります。

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(写真は、武田薬品工業のグローバル本社=東京都中央区、同社提供)

医療用、大衆用、新薬、ジェネリック

 製薬業界は販売先で大きく二つに分かれます。ひとつは病院を販売先とする医療用医薬品メーカーで、もう一つは薬局などで販売する大衆用医薬品(OTC医薬品)メーカーです。売上高上位の会社の多くは医療用医薬品を主体とするメーカーですが、大正製薬ロート製薬小林製薬など大衆用医薬品を主体とするメーカーはテレビCMなどを通じて高い知名度があるのが特徴です。医療用医薬品メーカーはさらに二つに分かれます。新薬を開発製造する新薬メーカーと特許が切れた薬を安価で製造販売する後発医薬品(ジェネリック医薬品)メーカーです。売上高上位の会社は新薬メーカーですが、後発医薬品メーカーでも東和薬品日医工、サワイグループHDなど売上高が1000億円を超える企業があります。ただ、後発医薬品メーカーは一昨年来、製造過程での不正が相次ぎ、37社でつくる日本ジェネリック製薬協会の会員企業5社が業務停止などの行政処分を受けました。その影響で医薬品の品薄状態が今も続いていて、後発医薬品メーカーは不正防止と増産の対策を迫られています。

(写真は、ジェネリック薬製造「日医工」の本社=2021年3月、富山市)

画期的新薬を常に迫られる

 医療用医薬品の新薬メーカーの課題は、資金力です。画期的な新薬の研究開発には、長い期間と多くの人手が必要です。つまり巨額の資金が必要になります。いったん画期的な新薬を市場に出すことができれば、特許が有効な期間(出願から20年)は独占販売となるので、大きな利益をあげることができます。逆に言えば、特許期間が切れれば売り上げが激減するわけで、画期的な新薬の開発を常に迫られている状態です。日本の新薬メーカーの多くが近年、合併、提携、買収などを盛んに行っているのは、企業規模を大きくして新薬開発の資金力をつけようとしているためです。

従業員の9割が外国人

 医薬品は世界で同じように通用する商品で、運送コストもかからないため、市場は世界に広がります。そのため日本の大手製薬メーカーもグローバル化を進めています。最大手の武田薬品工業は2014年にフランス人のクリストフ・ウェバー社長(写真)が就任し、2019年にはアイルランドの製薬大手シャイアーを約6兆円で買収しました。今や世界で5万人いる従業員の約9割が外国人になっています。中外製薬は2002年にロシュと合併し、ロシュグループに入りました。ほかの製薬会社も海外展開を進めていて、2021年度の売上高に占める海外比率は、武田が81.5%、アステラスが80%、大塚HDが56.8%、第一三共が46.6%、中外製薬が47.8%などとなっています。

国内市場の魅力薄れる

 新薬メーカーがグローバル化を進めるのは、国内市場が大きくなりそうにないことがあります。政府は医療費削減のために薬の公定価格である薬価を毎年引き下げています。また、特許が切れた薬についてはジェネリック医薬品を使うよう求めています。国内も高齢化社会が進むため薬の需要自体は増えるとみられますが、価格低下とジェネリックへの置き換わりにより、新薬メーカーにとっては国内市場の魅力が薄れています。

研究、開発、営業の仕事

  新薬メーカーでの仕事は大きく分けて三つあります、ひとつは研究です。化学や薬学などを学んだ人が新薬を生むために地道な研究をします。二つ目は開発です。臨床試験や国の審査のための準備など、新薬を市場に出すための仕事です。三つめはMR(医薬情報担当者)とよばれる営業の仕事です。病院や医師に薬や情報を届けたり、医療側の要求を聞いて開発や研究部門にフィードバックしたりします。この研究、開発、営業が製薬会社の特徴的な仕事になります。製薬会社を志望する人は、どういう仕事したいのかをはっきり決めておく必要があります。加えて、グローバル化はこれからさらに進むでしょうから、英語がある程度話せることや海外勤務にも対応できることが必要だと思います。

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