東京や大阪などの大都市で街の再開発事業が盛んです。森ビルなどが再開発を進めている東京都港区の虎ノ門・麻布台地区では、建設中のビルが2022年4月に330メートルに達し、2023年の完成時には大阪市の「あべのハルカス」を抜いて日本一高いビルになります。JR東京駅の北東側では、三菱地所が2027年度の完成を目指して高さ390メートルの「トーチタワー」を建設しています。虎ノ門・麻布台地区ビルの「高さ日本一」は4年ほどで更新されそうです。こうした再開発事業は、ディベロッパーといわれる大手不動産会社が中心となっておこなっています。ビルの高さ規制が緩和されたり、耐震性や環境問題に対処する必要が出てきたりして、広い街区ごと新しい街に作り変える計画があちこちで進んでいるのです。こうした「街づくり」が活発になっていることもあって、大手不動産会社の業績は好調が続いています。ただ、長い目で見ると、人口減少による需要の頭打ちやリモートワークの定着によるオフィス需要の減少の可能性があり、克服すべき課題も浮かんでいます。
(写真は、高さ日本一になった「虎ノ門・麻布台プロジェクト」で森ビルなどが建設中のビル。手前は東京タワー=2022年4月21日、東京都港区、朝日新聞社ヘリから)
歴史の古い財閥系の会社が多い
不動産業界というと、街づくりをするディベロッパー事業だけでなく、マンションや住宅や土地の販売、仲介、管理などの事業をおこなう会社も含まれます。こうしたすべての会社を含めると全国で何万という会社数になります。今回は、ディベロッパー事業を手掛けている大手不動産会社に絞ります。直近の通期決算の売上高をみると、三井不動産、三菱地所、東急不動産ホールディングス(HD)、住友不動産、野村不動産、東京建物、森トラスト、森ビルが上位8社になります。ディベロッパー事業を手掛ける不動産会社は土地を持っていることが必要なので、三井、三菱、住友、安田(東京建物)といった歴史の古い財閥系の会社が多くなっています。戦後生まれはこのうち、野村証券から分かれた野村不動産、町の小さな不動産会社から始まった森トラスト、森ビルの3社です。
売上高は三井不動産、利益は三菱地所
大手不動産会社でもっとも売上高が大きいのは、三井不動産です。2022年3月期の売上高は2兆1008億円でした。2位は三菱地所で1兆3494億円、3位は東急不動産HDの9890億円、次いで住友不動産が9394億円と続いています。ただ、経常利益を見ると、三菱地所2537億円、住友不動産2251億円となっていて、2249億円の三井不動産を抜きます。三菱地所や住友不動産は、利益率の高い物件をたくさん持っているといえます。この4社以外の野村不動産、東京建物、森トラスト、森ビルなども業績は好調です。大都市のマンション価格が高騰しているのと同様、大都市の中心部のオフィス価格は上がっており、コロナ下でも好業績が続いています。
(写真は、東京駅の丸の内駅舎からの新しい景色をめざすトーチタワーの完成イメージ=三菱地所提供)
三井は日本橋、三菱は丸の内
大手不動産会社はそれぞれ強いエリアを持っています。三井不動産は東京・日本橋地区に強く、「日本橋再生計画」と名づけた新しい街づくりを主導しています。これまで日本橋三井タワーなど大きなビルをいくつも造り、今は街のにぎわいを取り戻す「水辺の再生」などの新しいステージに入っています。三菱地所が強いのは、東京のオフィス街丸の内・大手町や横浜のみなとみらい地区です。特に丸の内では、「丸の内の大家さん」とよばれるくらいの強みを持っています。現在、JR東京駅の北東側の大手町に「トウキョウトーチ街区」と名づけた大規模な街づくりを進めていて、2027年度には高さ390メートル地上63階建ての「トーチタワー」が完成する予定です。
(写真は、東京・日本橋地区の再開発後のイメージ。川沿いには低階層の飲食店や商業施設が並ぶ=三井不動産提供)
東急不動産は渋谷を開発
東急不動産HDが強いのは、東京・渋谷です。渋谷では大規模な再開発が進行中で、すでにいくつもの高層ビルができています。再開発事業は2027年まで目白押しです。その多くを東急不動産HDが手掛けています。住友不動産は東京の湾岸エリアである有明に約10.7ヘクタールの「有明ガーデン」という街を造り、2020年にオープンさせました。大型商業施設、ホール、ホテル、タワーマンションなどがあります。野村不動産は、東京・日本橋の大型商業施設や神奈川県相模原市の地域密着型商業施設を造っています。東京建物は東京・池袋で大規模再開発事業を手掛け、豊島区本庁舎とマンションを一体にした高層ビルを含む「ハレザ池袋」を造りました。森トラストはリゾート開発に力を入れていますが、大都市では「トラストタワー」と名づけた高層オフィスビルを展開しています。森ビルは、六本木ヒルズをはじめ、「ヒルズ」と名づけた大型複合ビルを造ってきました。現在の大型プロジェクトは、東京・港区の「虎ノ門・麻布台プロジェクト」です。1989年にスタートしたプロジェクトは30年の歳月をかけて着工にこぎつけ2023年には完成する予定です。高さ330メートルのビルを含む3本の高層ビルを中心にした新しい街ができます。
(写真は、再開発が進む東急の本拠地・渋谷駅周辺=2019年10月、朝日新聞社ヘリから)
海外進出を加速させる
好調な不動産業界ですが、将来の課題はあります。まず、日本の人口が減少していることです。働き手が減ればオフィス需要やマンション需要は減ると考えるのが普通で、今の好調がいつまでも続くとは思えません。空き家や空きマンションが増えることも確実で、大都市中心部を除けば不動産価格は下落する可能性があります。また、コロナ禍でリモートワークが定着しつつあることも不安材料です。オフィスに来る人数が減れば、広いオフィスは必要なくなり、オフィスの需給が緩むことになります。再開発事業も大都会の一等地でなければ採算が取れなくなり、そうした土地はすでに再開発されつくしているという事態にそのうちなるかもしれません。こんな将来不安もあって、大手不動産会社はアメリカやアジアなど海外への進出を加速させています。
日本と世界の人口変動についてはこちらも読んでみてください。
●世界の人口80億人、インドが世界一に 日本は?企業は?考えよう【時事まとめ】
コミュ力とタフな精神力
大手不動産会社となると、仕事は多岐にわたり、必要な資質や能力も多岐にわたります。中でもディベロッパーに特徴的なのは、たくさんの関係者の合意をつくったり利害を調整したりする仕事が多いことです。こうした仕事のためには、聞く力や説明する力、つまりコミュニケーション能力とタフな精神力が必要です。「街づくり」という夢のある仕事に関わることができて待遇も比較的いい業界なので志望する人は多いでしょうが、やりぬくための情熱と粘り強さが必要だということも理解しておくべきだと思います。
以下は、大手不動産会社の「人事のホンネ」です。かなり前のインタビューもあるので、採用状況などは変わっていますが、仕事のやりがいや社風などは今でも参考になると思います。
●2021シーズン【森ビル】〈前編〉「都市を創り、育む」を一気通貫で 理念知り社員に接して!
●2018シーズン【三井不動産】周りを巻き込んで成し遂げる仕事 粘り強さとやりきる力大事
●2015シーズン【三菱地所】チームで街をつくる、育てる仕事 自分の言葉で価値観伝えて
◆「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去記事検索、記事スクラップ、MYキーワードなど就活にとっても役立つ機能も使えます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから。