人事のホンネ

三菱地所株式会社

2015シーズン【第15回 三菱地所】
チームで街をつくる、育てる仕事 自分の言葉で価値観伝えて

三菱地所 人事部 副主事 伊藤高久(いとう・たかひさ)さん、副主事 山田由紀(やまだ・ゆき)さん

2014年02月27日

■三菱地所って?
 ――三菱地所は社名からは仕事内容がわかりにくいですよね。どういう会社で、何をしているのか、わかりやすく教えてもらえませんか。
 伊藤さん 当社は総合ディベロッパーといわれる業界に属しています。業務内容をひと言で言うと「街づくり」です。街には住宅・オフィスビル・商業施設・ホテル・リゾートなど、様々な建物や施設があります。それらの開発、運営管理を通じて、皆さんの生活の場である街をつくり、育てている。それが我々総合ディベロッパーの仕事です。

 ――スケールの大きな仕事ですね。建物をつくって終わりではないんですね。
 伊藤 当然、つくって終わりではありません。出来上がった建物は使用していただいて初めて意味を持つものです。分譲物件なら買ってくれる方を探す、賃貸物件なら借りて事業をしてもらうテナントを探す。また、建物というのは建てるまでより、建ってからの方がずっと長い。その長い期間にわたって、建物の快適な状況を保ち、価値を高めていく「運営管理」の仕事も非常に重要です。その中でも当社は、街全体を事業のフィールドと捉え、エリア全体としての価値向上を目指す「エリアマネジメント」を重視している点に特徴があると評価されています。

 ――東京・丸の内の開発が有名ですが、丸の内地区はもともと三菱地所の土地なんですか。
 伊藤 歴史を紐解いていくと、かつて丸の内は大名屋敷が立ち並ぶ街でした。明治維新後は陸軍が練兵場(れんぺいじょう)として使っていたようですが、1890年、明治政府が払い下げを行った際に当時の三菱社が購入し、その後、三菱社の不動産セクションが独立化して三菱地所という会社ができて、丸の内一帯の土地を譲り受け、街づくりを行ってきました。とはいえ、三菱地所が所有している土地建物は、丸の内全体の約3分の1ですので、他の地権者とも共同しながら一緒に街づくりを行っています。

 ――横浜・みなとみらい地区も三菱地所の開発ですね。
 伊藤 もともと三菱重工業の造船ドッグがあったエリアです。区画整理で現在の街区割りに整備された当地区を他の地権者や行政と共同しながら街をつくってきました。当社の開発した横浜ランドマークタワーが街づくりに与えた影響は非常に大きいでしょうし、その他の開発も含め、民間最大の地権者として主導的な役割を果たしてきたとは言えるかもしれませんね。

 ――開発した後のビジネスモデルは?
 伊藤 開発した建物を保有し続けて、入居テナントからの賃料収入で投資を回収するケース、開発した建物を売却して投資を回収するケース、大きく分けて二つのビジネスモデルがあります。どちらが良い、悪いというわけではなく、物件の立地や市況、ポートフォリオの状況などを見ながら、判断を行っていきます。

 ――三菱地所本体の社員数は670人ほどとあまり多くない一方、グループ会社がたくさんあって合わせると8000人規模ですね。どう役割分担しているんですか。
 伊藤 街づくりに関わる全てを三菱地所単独で行う訳ではありません。ある部分はグループ会社が担い、ある部分は三菱地所が、ある部分は一緒に、それぞれの専門性や特性を生かしながら仕事をしています。三菱地所本体で行っていた仕事が分社化されて誕生したグループ会社も多数あります。たとえばビルの運営管理をする「三菱地所プロパティマネジメント」という会社もそうですし、マンション分譲事業を担っている「三菱レジデンス」という会社は、三菱地所の住宅開発部門とM&A(買収、合併)した分譲マンション大手の藤和不動産などが一緒になって誕生した会社です。

 山田さん 不動産業界って裾野が広いんです。開発、管理、仲介などいろんな仕事がある。扱う不動産の種類もオフィスビル、マンション、ホテル、ゴルフ場などさまざま。それぞれ専業のグループ会社がそれぞれの業界で勝てる体質をつくっていく。当社の社員は少ないですが、グループとしての一体感をつくる役回りも担っています。

 ――すると、三菱地所本体の役回りはグループ会社を束ねて統括することですか。
 伊藤 機能が分かれている部分もあれば、三菱地所のみが担当している仕事もあるので単純に統括というわけではありません。現在当社が新卒で採用しているのは総合職なので、当社の携わるあらゆる仕事に関わる可能性があります。グループ会社に出向してそれぞれのプロフェッショナルとして働くケースもある。ある仕事で得た経験を、他のセクションに行って生かす。そういう横串的な役割があります。

 ――採用は、グループで一緒にしているのですか。
 伊藤 それぞれ別に行っています。三菱地所グループ内で様々な会社が新卒採用を行っていますので、ぜひ興味のある分野の会社について調べてみてほしいと思います。併せて、グループ内の繋がりも意識していただけると嬉しいです。

華やかな建物も地道な作業の積み重ね

■仕事内容
 ――三菱地所の社員の仕事を具体的に教えてください。
 山田 ホールディングカンパニーのように統括会社があってそれぞれの現場を束ねているわけではないので、簡単にこれですというのは難しいです。仕事の内容や立場は年次によってもキャリアによっても違います。開発や管理の現場に出て最前線で仕事することもあるし、本社のコーポレートスタッフ部門で経営企画や経理を担当することもある。グループ会社に出向して、マネジメントを担うこともあります。総合職である以上、いくつかの事業グループをまたいで異動して、いろんな役割を果たします。将来的には専門的な仕事をするかもしれないし、マネジメント的な仕事をするかもしれない。いずれにしても、こうした経験をもとにグループ全体を俯瞰(ふかん)しながら、違った視点で業務を捉え、世の中を見て、グループのリソース(資産)を活用できるようになるのではないかと思います。

 ――仕事の具体的なイメージを知りたいので、お二人の主な経歴を教えていただけませんか。
 伊藤 2002年に入社して最初に配属になったのは、三菱地所グループ全体の営業窓口を担う部署でした。企業の不動産に関する悩みに対して、三菱地所の様々な部署、様々なグループ会社のできることを組み合わせて解決策を提案する仕事。有効に使えていない土地があるとか、古くなった社宅をどうしようとか、不動産を持っている会社は何かしら悩みを持っています。グループ各社はそれぞれ単独でも営業活動していますが、一つの会社だけでは解決できない複合的なケースや、技術やノウハウを組み合わせることでよりよいソリューションを提供できるケースがある。お客様の悩みに応え、最終的に三菱地所グループのビジネスに繋げていくことが目指すゴールです。この部署には3年間いて4年目に札幌支店に転勤になりました。

 ――札幌ではどんな仕事を?
 伊藤 様々な建物の開発を担当しました。土地を購入して、どのような建物をつくるかをプランニングし、完成までプロジェクトを推進していく業務です。本社にいると、施設の用途ごとに担当部署が分かれていることが多いですが、支店は人数が少ないこともあってオフィスビルもマンションも商業施設も担当することができる環境でした。手に入れた土地情報について、ここならマンションがいい、この立地なら良いオフィスビルが建てられる、と検証しながら事業を組み立てていく。2人くらいのチームで動き、設計会社やゼネコンなど、社外のプロフェッショナルをまとめながら、マンションだと2年くらい、オフィスビルだと3年くらいの開発期間を経て建物を完成させる。扱う金額も責任も大きい仕事でしたが、その分やりがいも非常に大きかった。札幌支店では5年間仕事をして、東京に戻ると同時に人事部に配属になり、今年で4年目になります。

 ――山田さんの経歴を教えてください。
 山田 私は2003年入社で、4年間、資産開発事業部(当時)という部署で投資家向けのオフィスビルや商業施設の開発をしました。投資家というのは不動産ファンドやリート(不動産投資信託)です。開発をして、テナントに入居していただいてから、物件を売却するという流れです。担当した東京の住宅地の商業施設では、近所の方が毎日でも来られるような物件をつくろうという思いを持って担当していました。

 ――その後はどんな仕事を?
 山田 商品企画部(当時)に異動になりました。今では三菱地所レジデンスの中にある、住宅事業での技術的なサポートをするスタッフ系の部署です。マンションを買ってくださったお客様向けの満足度向上の事務局を3年間担当しました。モデルルームでお客様が物件購入の契約をするときには、マンションは出来上がっていないことが多い。間取りや内装は本来決められたものがあるのですが、工事のスケジュールによっては多少の変更は可能です。住み方は、お客様ごとに一軒一軒違うはずです。リビングが広い方がいい、収納は多くほしい、子どもがいるから部屋は二つに分けて……とライフスタイルや要望をヒアリングして、ゼネコンや設計担当と打ち合わせをしながら、こだわりを実現するお手伝いをしていました。2010年の4月に人事業務のグループ会社に出向して、人材育成の仕事を2年少し担当し、今は人事部で人材育成に加えて採用を担当しています。

 ――印象に残った仕事について聞かせてください。
 伊藤 「ものづくり」がしたいと思ってこの会社に入ったので、最初に自分が手がけた物件が印象に残っています。札幌で手掛けた分譲マンションの開発です。開発というのは、出来上がる建物は大きくて華やかですが、ものすごく地道な作業の積み重ね。土地を買う時のオーナー、地権者との調整に始まり、設計を細かく詰めたり、ゼネコンと工事費の見積もりを突き合わせたり……。様々な苦労の末に建物が完成したときは本当にうれしかったです。そして、自分の仕事の成果がお客様に届く瞬間を間近に見られたことも大きかった。
 我々がつくっているのはプラモデルではなく、人の生活する場所です。たとえば分譲マンションの場合、購入された方の住まう場所になるわけです。購入してくださったお客様が、完成したマンションに幸せそうに引っ越される場面に立ち合い、小さいお子さんがうれしそうに走り回り、家族で幸せそうに入っていく姿を見て、自分の仕事の先に何があるのか理解できましたし、この仕事を選んでよかったと心から感じました。

 山田 二つ目にお話しした住宅の仕事でしょうか。最初の部署での立場は、開発のプロジェクトマネジャーだったので、建物全体を何百億円単位で捉えていましたが、次の仕事はお客様のお宅一戸ずつに関する仕事。お客様にとっては、何千万円という大きな額の、一生に一回の大切な買い物です。インテリアコーディネーターがお客様のバックグラウンド、家族構成、ライフスタイルを踏まえてまとめてきた変更プランを、○○○号室○○様と書かれた個別の図面を見ながら、どのようにつくっていくか、関係者で検討していきます。技術的に対応できないこと、会社の基準で対応できないこともありますが、少しでもお客様の要望をかなえられるように、代替案も含めプランを考えていく。スケジュール的にチャレンジングなこともあるし、お客様の予算が十分でない場合もある中で、ベストの答えを一つ一つ考えていく。そのためにゼネコンも設計もインテリアコーディネーターも社内の人間も巻き込んでいく仕事でした。
 スケールの大きな仕事だと思って入社したディベロッパーで、こんな風に一人ひとりのお客様に向けて細やかに対応していく仕事が存在するんだ、実はヒューマンスケールな仕事ができる会社なんだって、仕事の捉え方が変わった出来事でした。たとえば商業施設がオープンした時の数万人単位の集客というのも、一人ひとりのお客様の気持ちが動いた積み重ねなんだと気づきました。すごく身近で、いい仕事だなって思います。

■求める人材
 ――どんな人材を求めていますか。
 伊藤 もちろん、ベースとしての誠実さや努力を重ねる力、コミュニケーションをとる能力は必要だと思いますが、定型的な求める人材像というのはありません。多様な個性があって組織は強くなると思っています。不動産業界・ディベロッパー業界というと、すごく積極的であったり、体育会的なパワフルな人が多い、というイメージを持たれがちかもしれませんが、そんな人ばかりではありません。みなさんそれぞれいいところがあると思うので、それを生かして仕事をしてほしい。ですから、求める人材像は特に設けていません。

 ――内定する人のカラーというのはありますか。
 伊藤 共通しているのはチームで仕事をするのが好きで、そこに価値を感じてくれる方でしょうか。ディベロッパーの仕事は社内・社外の関係者をまとめ、チームとしてよりよい街をつくる仕事。1人でバリバリ仕事をするのが好きというよりも、チームとして最大限の成果を発揮することに心を砕く、そんな方が多いような気がします。

アルバイト、サークル…どう人と関わり、動かしたのか

■採用選考の流れ
 ――会社説明会には特徴がありますか。
 山田 12月の採用広報スタートで外部の説明会に出て、12月中旬から自社開催のセミナー。3月上旬までの間、より深く三菱地所のことを理解してもらう目的でいくつか用意しています。三菱地所全体のことを知ってもらうセミナー、キャリアイメージを持ってもらうセミナー、その後はビジネスモデルにフォーカスして具体的に仕事の中身を説明するもの、実際の開発のプロジェクトを体感するもの、社員と身近に交流するものと、5種類あります。

 ――参加者は1回あたり何人くらいですか。
 山田 説明会だと多くて300名くらい、質問会だと1ブース10名くらいの小規模です。説明会は必須ではありませんが、できるだけたくさんの方に来てもらえるように計40~50回開きます。OB訪問など会社について知る方法はさまざまありますが、説明会はこちらから効率的にお伝えできる機会なので、参加していただくと理解は進むと思います。東京で多く開きますが、支店がある札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡でも開催しています。

 ――OB・OGを人事部で学生に紹介していますか。
 山田 紹介はしていません。大学のOB・OGなど身近に社員がいなくても、社員質問会を活用していただくようにしています。

 ――エントリーシート(ES)には特徴がありますか。
 山田 ESは3月上旬から受け付けて、締め切りは中旬。WEBエントリーです。できるだけ自分の言葉で、自分のイメージを伝えてもらえるように、事実だけでなく自分の考えや経験が出てくるような質問にしたいと思ってつくっています。内容はオーソドックスです。

 ――WEBテスト、適性検査などは?
 山田 ES提出と併せてWEBで受検してもらいます。適性検査と簡単なテストです。

■昨年の採用実績、職種
 ――2014年度入社予定の採用実績を教えてください。
 山田 総合職のみで33名です。エリア限定の職種はありません。男性が19名で女性が14名。理系は5名程度、院卒が3名ですね。

 ――面接では何を見ていますか。
 山田 面接では基本的にじっくりお話を聞きたいと考えています。限られた時間ではありますが、大事にしてきたこと、どんな経験をしてきて、今後どんなことをやってみたいのか、ベーシック過ぎるように聞こえるかもしれませんが、しっかりとその人のことを知りたいと思っています。

 ――面接で不利になる、ありがちな志望理由はありますか。
 山田 個人的には、ありがちだからダメとは思っていません。ありがちな事柄をどう自分なりに説明するか、自分としてどう捉えているかが語れればいいと思っています。特に当社の仕事は多岐にわたり、なかなかわかりにくいので、大きなことをやってみたい、チームで仕事をしてみたい、海外に出てみたい……などいろんな観点があっていい。ただ裏付けとして、なぜ自分はこの価値観を大事にしているのか、なぜチームでする仕事に惹かれているのか、自分がどう仕事に生かせるのか、を自分の経験から語れるといい。こちらが何回「なぜそう思うの?」と聞いても答えが出てくるくらい、きちんと考えて。別に特殊な経験を求めているわけではなくて、一つの出来事、一つの経験を本人がどう捉えているかが一番大事だと思っています。自分の頭で考えて、自分の言葉で話してくれたらいいと思います。

 ――街への感度や建物に対する興味度は面接では問いますか。
 山田 聞くケースもあります。ただ、必ずしも熱烈に建物好きでなくてもいい。興味の対象も人それぞれだと思いますし。ハードが好き、ソフトが好き、単純にいろんな街に行ってみるのが好き……など。街づくりの仕事への共感が全くないのは寂しいですが。住宅の仕事・ビルの仕事、開発・管理・売買、人事や広報といったスタッフ部門も含め、私たちの仕事は、いろいろな側面から街に関わっています。街に興味があれば、いかなる観点から関わっても面白いと感じられるのでは。「自分はビルがすごく好きで、どうしてもビルを建てる仕事がやりたい。ビルを建てる仕事にしか興味はない」という人は、専業の会社に行けばいい。当社はいろいろなことができる会社です。10年後、何十年後の仕事を自分でつくれる広さがある会社だと思います。
 
 ――内定する学生の「学生時代に打ち込んだこと」に特別な体験を期待しますか。
 山田 他の人には真似できないような、特別な経験をしている人も何人かはいますが、普通に居酒屋でアルバイトをして、ゼミやサークルを頑張っていましたという学生ももちろんたくさんいます。繰り返しになりますが、大切なのは、そこから何を感じ、学んだかだと思います。

 ――山田さんが面接で見るポイントは?
 山田 私が見ている観点は、人と話す時にどれくらい一生懸命になれるかというところです。自分が一つの単語を発して伝わったと思うのは最低限のレベル。それでは伝わっていないかもしれないと相手を見て確認し、分かっていなさそうなら、言葉を変えて伝える。伝えることを諦めないことが大事です。
 学生は、「塾講師のリーダーをやっていました」「サークルでこういう立場でした」という話はします。でも私が聞きたいのは、どういう風に人と関わって、自分でどんな工夫したのか、どういう風に人を動かしたのか、得意なところ、もっとこうすれば良かったと思うところは……といった物事への関わり方、捉え方です。必ずしも声の大きなリーダーシップを求めているわけではない。人への関わり方はいろいろあっていいと思います。人に関わっていくことに関心があり、自分なりの方法を模索、工夫している、そんな姿勢だと思います。

 ――チームワークが必要な仕事なんですね。
 山田 チームワークと言っても、単に「仲良し」ということではありません。様々な立場の人をまとめていくので、相手の懐に一歩入れるコミュニケーションが必要なんです。相手が何を考えて何を大事にしているか、そこまで踏み込んで考えて、全員にとって100点じゃなくても、皆でつくる最高のものを目指して、何とか調整していくリーダーシップです。ただ、絶対的な権力や正解で引っ張っていくだけではなく、細やかに気配りをしたり、いろんなやり方がありますだから、「リーダーシップがある」と言う学生には、具体的にどんな行動や考え方のことを言っているのかを聞いています。

数年がかりでつくり、自分の寿命を超えて成果が残る仕事

■近年力を入れていること
 ――海外で働きたいという学生は多いですか。
 山田 近年、海外志向の応募者が増えているように感じます。当社の海外事業は、長い間アメリカやイギリスでの開発やビルの運営管理がメーンでした。ただ、近年では、自分たちが海外に出て行く「アウトバウンド」のグローバル化だけでなく、海外から日本へ人を呼び込む「インバウンド」のグローバル化も同じくらい重視するようになってきています。「インバウンド」のグローバル化に向けて我々が行っている取り組みを紹介すると、強い興味をもってくれる学生がたくさんいます。

 ――三菱地所のインバウンド事業についてもう少し説明してください。
 山田 たとえば欧米の企業がアジアにヘッドオフィスを設けるとしたら、選ばれるのはシンガポールや香港、上海かもしれません。私たちは、世界の都市間競争の中で勝ち残っていける日本・東京を目指し、海外の方々にとっても魅力的な街をつくることを通じて、海外から需要を呼び込む様々な取り組みを行っています。
 たとえば、外国語で診察が受けられるメディカルモールを大手町につくったり、海外の成長企業の日本進出を支援する施設を丸の内で展開したり。単にオフィススペースをお貸しするだけではなく、丸の内に立地する日本を代表する企業群と海外成長企業のマッチングを図り、成長を促進する取り組みも行っています。
 日本国内をみると、少子高齢化や人口減少といったネガティブな要素は確かにありますが、海外に市場を求めて出ていくだけではなく、日本の魅力を高め、発信していくことで、海外から需要を呼び込むことにつなげていく、これが当社の「インバウンド」でのグローバル事業です。

■研修
 ――入社後の研修について教えてください。
 山田 内定後は、入社してから必要な宅建(宅地建物取引主任者)の資格を取るための試験を受けてもらいます。そのための講習も実施しています。取れなくても内定取り消しはありませんが。入社後は4月からほぼ1カ月、新入社員研修があり、一部グループ会社と合同でグループ理解や当社の事業理解を深め、基本的なマナーや社会人としてのスタンスを身につけます。スキル的なものでは1年目に不動産に関する基礎知識の研修があります。新入社員の配属先は様々ですが、共通して知っておいてほしい基礎で、開発プロジェクトや建物運営管理の基本的な流れを押さえます。その後も2、3年目の研修のほか、スキルや自己啓発など多数の研修があります。

 ――宅建の他に不動産会社ならではの資格はありますか。
 山田 配属される部署やキャリアによって勉強すべき分野も違うので、仕事に応じて、ビル経営管理士、不動産証券化マスター、マンション管理士などいろんな資格に対して、会社が費用補助しています。

 ――新人の配属は?
 山田 三菱地所は半分以上の社員がグループ会社に出向している会社で、1年目でも出向があります。だいたい10年間で内容の違う三つの部署を経験するのが原則。その後は人によって違います。適材適所で、会社の状況に応じて変わります。海外には、本社社員670人のうち30人くらいが欧米とシンガポール、上海に駐在しています。早くて入社4年目で行っている人がいます。

 ――英語力はどの程度重視しますか。
 山田 採用では重視していません。あればプラスアルファということですね。

 ――配属の希望は聞くのですか。
 山田 内定後に配属希望面談をして、どんなことをやりたいか聞きます。もちろん希望を全部反映できるわけではないし、育成を考えると経験する仕事の順序も大事だと思うので、各部署のニーズ、適性、育成順を考えながら決めていきます。入社後は年1回、全社員と人事部員が1対1で面談します。現状の職場、仕事やこれからやってみたいことなどを聞き、異動に反映する仕組みです。

■やりがいと厳しさ
 ――三菱地所の仕事のやりがいについて教えてください。
 山田 数多くの地道な調整をして、いろんなことを考えてつくってきたものが、数年がかりで出来上がり、実際に施設を使ってくれている人を見ることができます。しかも、3年経っても5年経っても、そこで楽しそうに過ごしている人たちを見ることができる。誰かの記憶に残る場所を作ることができた、そういう実感が、ものすごく大きなやりがいであり面白さだと実感しています。

 ――厳しさは?
 山田 自分としてはこういう開発プランが理想だと思っても、その通りにはいかないところ。一番大変なところです。まずは、こういうものをつくりたい、こういうものが必要だ、将来使ってくれる人にとって役に立つのかどうか、とことんまで考える。それを、関係者へ言葉で伝えていく。そして、自分の考え方だけではなく、いろんな人がもっている考えやアイデア、情報をまとめていくところが難しさだと思います。
 たとえば、同じ会社の中でも、コストとスケジュールに責任を持つ開発チームと、テナントの誘致をするチームで、方針やスケジュール感で意見が対立することはたくさんある。時間もお金も知恵もいくらでもあるなら、理想を実現できる。自己実現という意味ではいいんでしょうが、現実には必要なスケジュール、コストの中で関係者をまとめながらつくっていかなければならない。議論や調整は入社前には想像もしていないほどでした。ただ、私はその過程にフラストレーションを感じたことは一度もないし、プロセス自体を面白いと感じています。

 ――2020年東京五輪は、業界に追い風ですね。
 伊藤 先ほど申し上げたとおり、街づくりを通じて東京の国際競争力を上げるのが不動産業界の役割と考えています。三菱地所が競技場を建てるわけではないし、直接オリンピックに関わる仕事は少ないかもしれませんが、世界中の人が注目する2020年に東京をどういう街にしていくか。東京を、日本を知ってもらうという意味ではすごくいいきっかけですよね。

■自分の就活
 ――伊藤さんは、なぜこの業界、会社を選んだのでしょう?
 伊藤 もともと世の中の人々に自分の仕事を見てもらえる、評価してもらえる仕事をしたいと思い、マスコミや広告代理店といった業界に興味を持っていました。しかし、就活をスタートしてディベロッパーという業界があるのを知り、「この仕事をしたい」と強く感じました。足を運びさえすれば、自分の仕事の成果を目にすることが出来て、お客様にどんな評価をされているのか、まさに目で見て、感じることができる。加えて、自分が携わったものが形に残っていく、この点が一番惹かれた点でした。自分の仕事の成果が、もしかしたら自分の寿命を超えて、人の生活の場や、笑顔を生み出す場所として世の中に残り、影響を与え続けていく。働くからには、そんな仕事をしてみたいと心から思いました。

 ――山田さんはどんな就活でしたか。
 山田 仕事を考えるうえで重視したのは、チームワークという働き方です。学生時代は、学外の友人と雑誌づくり、クラブイベント、ケータリングといろんなことをやっていました。私自身が絵や文章を書けるわけではなく、たとえば美大の友達にデザインしてもらい、文章の上手な人に記事をつくってもらうなど、いろんな人ができることが一つにまとまっていくのがとても楽しかった。そういうプロセスを仕事にしたいと思いました。もう一つのポイントは、建物や街を扱っていることです。もともと建物や街、人の集まる場が好きで、空間や場には人の気持ちに影響を与える、前向きにしていく力があるように感じていました。チームで働く、空間や人の集まる場をつくる、そんな仕事って何だろうと考えていたときに不動産業に出会った。不動産業って、人が生活する場、働く場、遊ぶ場をつくる仕事です。自分がどこかに遊びにいったり、暮らしたり、生活する中での発見や思いを生かせる仕事です。楽しいじゃないですか。

 ――なぜ三菱地所だったのですか。
 山田 大学ではブランドマネジメントを勉強していました。そのころ三菱地所が「街ブランド」に関する部署をつくって丸の内の街のブランド向上に取り組んでいくと発信していた。ここなら建物を開発するだけではなく、ソフト面の街づくり、つまり人の集まる、ずっと愛される場づくりに価値をおいてやっていけそうだと感じて決めました。

みなさんに一言!

 伊藤 就職活動はホントに貴重な機会だと思います。人生の中で、自分は何をしたいのか、自分はどういう人間なのか、こんなに考えることはないし、これから先もないと思うので、そこを突き詰めて考えてみてほしい。いまは転職も選択肢として一般化していますが、それでも、新卒でどこに入の会社に入社するかはすごく大きな決断、判断だと思います。必ず自分のためになるので、自身のこと、自分のやりたいことを突き詰めて考えてみてほしい。こんなにたくさんの企業を見ることができて、自分の会社、業界ってこうなんだよと丁寧に説明してくれる機会は金輪際(こんりんざい)ありません。知らなかった業界、知らない会社を見ているうちに、今まで気づかなかった自分の興味が見つかることもあると思います。就活は自分の成長のきっかけとして大きなターニングポイントになりうる貴重な機会、思い込みで視野を狭めず、ぜひいろんな会社を見てください。

 山田 学生時代に知っていることはものすごく少ないんです。世の中にある仕事もほんの一部しか知らないし、世の中がこれからどうなっていくかも見えていない。だから、できるだけいろんな人に会って、少しでも興味がある仕事について情報を集めたうえで、やりたいことを考えた方がいい。知っていることの中だけで判断するのは性急です。自分はどういう瞬間に喜びを得られるのかを考え、いろんな人の話を聞き、自分のことも聞いてもらって、「こういう観点もある」「こういう仕事もあるよ」とアドバイスを受けてください。
 この間、ある学生から「好きなことは仕事にしない方がいいんですか。嫌いになっちゃうかもしれないから」という質問を受けました。でも、仕事は自分の時間とエネルギーを使うものだし、好きなことには一生懸命になれるから、できることなら好きなことを仕事にした方がいいと思う。ただ、今知っている範囲で考えるのではもったいない。世の中のこと、自分のことを真摯に考えて、好きで一生懸命になれるものを探してみてください。

三菱地所株式会社

【建設・不動産・住宅】

 三菱地所は総合不動産会社として、ビル、住宅、商業施設、ホテルなどの開発・運営管理等を通じて、国内外各所において「まちづくり」を展開しています。これまで100年以上にわたる歴史の中で、東京・丸の内、横浜・みなとみらいなど、まちをつくり、育てる様々なプロジェクトを手掛けてきました。「私たちはまちづくりを通じて社会に貢献します」という基本使命を掲げ、住み・働き・憩う方々に満足いただける、地球環境にも配慮したまちづくりを通じて、真に価値ある社会の実現に貢献します。