
■記者、ビジネス、技術3部門の特徴
――改めてエントリーシート(ES)の特徴を教えてください。
ESは記者、ビジネス、技術の3部門で内容が異なります。記者は、朝日新聞社を志望する前に「記者」という職業を志すと思います。社会において極めてまれな職業だと思います。社の利益のためではなく公益のために仕事をしているので、会社を超えて連帯意識がある。記者という職業をどういう風に考えて志望動機を形成しているのか、その中でなぜ朝日新聞か、媒体の違いや企業の違いを理解しているか、その理解力と表現力を見たい。突き詰めると、今のESの質問項目になっていく。
記者はどの会社ということに関わらず、プロフェッショナルで形成されている職種なので、その志望度をまず聞きます。そして朝日新聞社に対する志望度と理解度ですね。
――朝日のESにもある「つらかったことをどうやって乗り越えたか」の質問の狙いは?
自分という人間を相対化できているかと、成長する可能性があるかを聞きたい。「相対化」というのは、自分の感情を人に伝わる言葉や聞いた人が納得できる言葉で定義できるか、自分のことを表現できるかです。
社会に出て仕事するというのはそういうことだと思います。「あれ、これ、それ」という指示語だけでわかってくれるのはすごく楽ですが、それは特殊な関係です。普通は何も知らない人に対して失礼がないよう、気持ちよく働いてもらうために、相手のことをよく理解してウィンウィンの関係になれるようにもっていく。記者は、相手のことを調べたうえで、あなたにこんなに気をつかっていますとアピールできてなんぼの世界。ビジネスも一緒で、そういう表現力や相手の状況を理解して折衷案を持っていける、調整できる能力を見る。
ES、面接、筆記を総合して、そういう能力があるか、あるいは能力を伸ばしてうちで活躍してくれるか、を見る。今はなくても将来こういうところがもっと伸びるんじゃないかと期待できる人を採用しています。
――ビジネス部門のESには自由記述欄がありますね。学生からは「何を書いたらいいかわからない」という声をよく聞きますが、ここは何を求めているのでしょう?
自由な発想や発想力です。一番個性が表れますから。自由記述欄は最近、他の会社でも多いですね。でも、「立体はやめて」って言っているのに、折り紙とかを付けてくる人がいます。コピーできないから困りますので、指定は守ってくださいね。
――どういう内容が多いのでしょう?
作文を書いてくる人、写真を貼ってくる人、いろいろですね。写真デコの人もいるし、やっぱり絵と文字の組み合わせが多いかな。
――技術部門は何を見ていますか。スキルですか?
技術部門は、新聞の工程、生産管理、ITシステムの開発とかメンテナンス、パートナー企業と合同での開発、グループ調整といった仕事です。理系出身者が多いのは事実ですが、いわゆるITスキルを求めているわけではありません。
たとえば、まったくITとは関係ない、生物学や化学出身者もいます。スキルより、新聞やメディアに対する考え方、愛着といったところを重視しています。何のために働くのか、何のために自分の仕事があり、それを人生でどう位置づけていくのか、といったことを考えることの方が大切だと思います。
ただし部門の併願はできず、どれか一つを選んでもらいます。文系で技術部門に入社する人もいるし、記者やビジネス部門に理系の人もいます。理系・文系にはこだわっていません。
――では、理系の学生に求めるものは?
理系って何だと思います? 論理的思考力は文系でも求めていますから。法科学、社会科学とかはそうですよね。大事なのはビジネスでいう「PDCAサイクル」(業務管理の手法の一つで、Plan=計画、Do=実行、Check=確認、Action=行動を繰り返すプロセス)がちゃんとできるかどうか。理系だから、文系だから、ではありません。
■学生を見るポイント
――そのほかに学生を見るポイントはありますか。
同じ大学に通っている友人は、お互いユニークだと思っていてもやはり育ってきた背景が似通っていると思います。でも社会で働くと、いろんな人と付き合わなきゃいけない。とくに記者職は、自分とは人生の背景がまったく違う人に、施しでも同情でもなく、話を聞いて相手に受け入れられなければなりません。その素養があるか、ですね。
だから、大人と話ができるかは大事です。世の中には日本語を話していても、思いを言葉にできない人が非常に多い。そういう人たちとどうコミュニケーションし、その人のために考えることができるか。これはビジネスの上でも取材の上でも大事なコミュニケーション能力だと思う。
コミュニケーションというと、単に「誰とでも仲良くなれます」とか「親しみやすいと言われます」と言う人が多いが、そうではありません。人にとってつらいことをうまく伝えられるか、嫌なことをいかにしてやってもらえるかがビジネスのうえでのコミュニケーション能力だと思う。そういう能力の土台を私たちは見たい。「私はできます!」と言葉で言ってもだめ。いろんな体験に裏付けられていると説得力があって、「あ、そうだよね。こういう人だったらこういう仕事もできそうだよね」と納得できるんです。
――面接の回数形式は?
3回です。ほかにグループディスカッション(GD)があります。
――学生の見た目や印象は、選考に影響しますか。
逆にね、外見には騙されないように意識しています。記者や外回りの営業の仕事は外の人と出会う職ですから、人当たりとか、感じ、第一印象が仕事を左右することも多くあり、外見を無視するわけではありません。でも、仕事をやり遂げるにあたって大事なのは中身です。
――かつては一般記者と別に行っていた「写真記者採用」がなくなったんですね?
今年の採用からです。写真記者の採用をやめた理由は、これからのメディアにおいては写真だけで表現できる人の役割は非常に小さくなるだろうということです。すでにスチール写真だけで生きている人はいなくて、今は「スチール+動画」ですが、これからはプラスして文章による表現もきちんとできる人が必要です。だから、総合力のある記者、つまり「記者総合職」を採ろうということにしました。
今年の記者内定者から将来的にカメラマンになる記者が出ます。入社後4年間くらい地方勤務でさまざまな経験を積むんですが、4年後に政治部、経済部、社会部など本社の専門部に上がる段階で写真記者の候補者を決めます。今までも「素人だけど写真が好き」という人を写真記者として採用していたので、そういう意味では同じだろうと。記者部門のESを見ると、カメラマンになりたいという人もいる。いずれは本人の希望と適性で配属されます。校閲記者は今も1人採っています。
――岡本さん自身は、数年後にどういう仕事をしていたいですか。
現場で取材する記者に戻りたいですね。学生と会うのも刺激はありますが、私は飽きっぽいので、やはり外の世界に出たい。採用は1~2年やったら十分って感じ(笑)。記者としては、ここ15年くらい医療や福祉の現場を取材してきたので、その現場に戻りたいと思っています。
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