人事のホンネ

株式会社朝日新聞社

2015シーズン【第1回 朝日新聞社】
まじめから粘着質まで多様な人材求む 地方の学生も挑戦を

朝日新聞社 人事部採用担当部長 岡本峰子(おかもと・みねこ)さん

2013年07月08日

■昨年の採用実績
 ――昨年度の採用実績を教えてください。
 2013年4月入社の採用人数は、4月前の早期入社も含めて66人でした。部門別の内訳は、記者部門48人、ビジネス部門16人、技術部門2人です。
 朝日新聞社は、記者、ビジネス、技術の3部門に分けて採用しています。ビジネス部門には、販売、広告、企画事業、デジタル事業、管理・財務の仕事があります。技術部門は、ITシステムエンジニアと生産管理エンジニアです。いずれも一括して採用し、希望と適性を踏まえて入社後に配属を決めます。

 ――新入社員の男女の割合は?
 66人のうち、男子が41人、女子は25人、およそ6対4の割合です。男女別に枠があるわけでなく、評価の高かった人を採用した結果です。

 ――選考の際、大学名は関係ありますか。
 大学名で選ぶことは全くありません。あとから見てみると、いわゆるMARCHクラス以上の大学が多いのは事実ですが、首都圏や京阪神地域以外の大学からも数人入社しました。大学院修了者も2桁います。

 ――満足のいく採用ができましたか。
 とてもいい人材を採用できました。ただ、もっといろんな人に来てほしいと思っています。その一つとして、地方出身者への働きかけも大事にしており、地方の国立大などに積極的に出向いて会社や仕事の説明をしています。東京での面接に来てもらう学生に、最終面接に限らず最初から交通費をお渡しするのもこのためです。ところが、1次面接を突破できないケースが多く、内定までいく人は少ないのが現状です。大学の方にうかがうと、自分を過小評価している学生が少なくないそうです。首都圏の学生に比べて、キャリア形成への意識づけを始める時期がやや遅いようです。残念ですし、もったいないと思いますね。

 ――マスコミ人気は昔より落ちていると言われますが、本当ですか。
 十数年前に比べると、応募者数は格段に減っています。ネット掲示板などの「マスゴミ」という表現に代表されるマスコミ批判の影響もあると思います。でも、社員と直接話した学生の多くは「本当に目をキラキラさせて仕事の話をしてくれた」と感動してくれます。新聞社の意義や仕事の魅力が伝わるんですね。そこで、自社主催の会社説明会では社員をできるだけ多く参加させ、直接学生と話す機会を設けています。合同企業説明会や学内説明会に赴くだけでなく、自社主催説明会を、札幌、仙台、名古屋、福岡など各地で開いています。

 ――2014年度以降の採用も同じ規模の予定ですか。
 14年4月入社の採用数は、13年よりかなり増やす予定です。

突破力+調整力 再挑戦も大歓迎

■朝日の採用試験と求める人材
 ――どんな学生を求めていますか。
 勉強ができる優等生タイプがほしいという会社もあるかもしれませんが、朝日新聞社は多様な人材を求めています。なぜなら、新聞社の仕事は多種多様で、幅広い能力が必要だからです。実際、記者部門でいうと、まじめ、やんちゃ、体育会系、粘着質系、一見ネクラな人など、いろんなタイプがいます。取材する相手も、追いかけるテーマもさまざまですから、多彩なバックグラウンドを持った人に来てほしいのです。 
 メディア環境が変化している今はとくに、常に新しいことにチャレンジしなければなりません。既存のやり方、決まりを変えて取り組む突破力を持っているか。今はチーム取材が多いので、周りを巻き込んでその気にさせる力も必要です。他人がやっていないことに常に挑戦していく、突破力をもちつつ、調整する力もある。こんな方に来てほしいですね。

 ――朝日新聞社の採用試験の特徴を教えてください。
 まずは筆記試験があることです。報道機関ですから、仕事をする際、世の中への関心と一定レベルの知識は必要です。幸い、社内に時事問題の専門家である記者が大勢いるので、試験問題作成、小論文の採点を自前でできます。記者はインタビューのプロなので面接も得意です。筆記試験は、一般的な知識、教養を問う問題です。英語の問題もあります。難問、奇問にならないように注意しているので、7割は正解してほしいですね。
 筆記試験会場は、地方の学生も受けられるよう毎年、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の全国5カ所に設けています。

 ――記者部門の小論文では何を見るのですか。
 論理的思考を見ています。いかに文章を組み立てるか。残念ながら、身の回りの出来事を書く、単なるエッセーになっている文章が多く見られます。

 ――新卒でなくてもよいし、何度も受けられるんですよね。
 個人的には、日本の新卒一括採用には疑問を感じています。欧米のように、各企業が随時採用選考をすればいいと思います。だからというわけではありませんが、朝日新聞社は春採用に加え秋採用も行っていますし、入社時に30歳未満なら何回でも受けられます。新卒でなくても不利にはなりませんし、大学卒業後に就学も就職もしていない期間が数年あっても、何かに打ち込んでいたのなら大丈夫です。
 よく「一度落ちてもまた受けていいのですか」と聞かれますが、たまたま面接官が合わなかったのかもしれません。逆に内定者には「面接ブースが一つ違えば不合格だったかもしれないよ」と言っています。実際、何度もチャレンジして内定する人もいます。

ESは自分の索引、目次 面接で落とすケースは…

■ES、面接はここを見ている
 ――ずばり採用試験では何を見ていますか。
 筆記試験では基礎能力、面接試験では熱意や人柄、対人能力を見ています。エントリーシート(ES)はとてもいいのに、面接をしたら期待はずれという学生もいて、がっかりすることがあります。

 ――では、ESはどう書けばいいのでしょう?
 ESのポイントは二つ。どれだけ自分を鍛えているかと、それをESや面接試験でどれだけ言語化できるか、です。ESに具体的なエピソードを書けといわれますが、スペースは限られているのですべては書ききれません。自分をアピールするポイントを絞って書く。ESを読んだ面接官に「もっとこの人のことを知りたい」と思わせる。その戦術を組み立てるのが就活のポイントです。
 ESは大切なコミュニケーションのツールです。自分の目次、索引ですから、魅力的な見出しを書き出してください。それを元に面接官がインタビューします。ESに書くことがないという学生がいますが、それは、体験が貧弱なのではなく、自分の体験をきちんと認識できない、中身を整理して言語化することができていないということだと思います。

 ――ESは誰が読むのですか。
 私たち人事部と、面接をする社員です。人事部では、記者部門については私が、ビジネス部門については担当次長が、すべてのESに目を通します。面接官を務める社員は、事前にESを蛍光ペンや赤ペンでマークしながら読み込み、面接に真剣に臨んでいます。朝日新聞社の選考は面接重視ですが、ESはその人を知る索引であり、手がかりになるもの。自分の良さが出るように工夫して書いてほしいですね。

 ――正直、読みたくないESは?
 余白が目立つESからはやる気を感じません。字は上手でなくてもいいのですが、雑なESは読みたくないですね。

 ――面接で見るポイントは?
 どんな仕事にも好奇心をもって、当事者意識を持って取り組めるか、人の話をきちんと聞いて、理解して、相手の意図をつかんで取り組めるか、を見ます。チャレンジ精神があるかどうかも大事ですね。
 質問されて、ESに書いてあることをそのまま繰り返すようではだめ。その一つ先、二つ先のQ&Aがスムーズに運べば、面接官は「この人のことをもっと知りたい」と思う。ES以上の話が出てくるとがぜん興味がわいてきますね。

 ――落とそうと思うポイントってありますか。
 噓がわかったとき。書いてあることが本心じゃないと確信できたとき。本音と建前の使い分けはいいが、噓はだめです。あと、緊張しすぎてカチコチになっている人や面接途中に泣き出す人も敬遠されると思います。これで大きな仕事を任せられるのかな、と不安になりますから。決して流暢に話す必要はなく、一つひとつ自分の言葉で語れればいいのです。リラックスして自分らしさを出せる度胸を培ってください。

 ――就活生の服装、身だしなみ、着こなしについて思うことはありますか。
 みんな黒か紺のリクルートスーツを着ていて、まるで軍隊のよう。とても違和感を持っています。不潔だったり、だらしなく着たりするのは論外ですが、スーツの色は採用に関係ありません。実際、オールバックの髪形をした学生が今春の最終面接に進んだんですよ。大事なのはTPOをわきまえて人に不快感を与えないことです。

志望度上げるインターンシップ強化 記者は3年で育成

■インターンシップについて
 ――これまで以上にインターンシップに力を入れるそうですね。
 はい。記者とビジネス、技術の3部門で今年、計250人を迎えます。記者部門は、1日体験研修も含めると前年の10倍の規模です。インターンシップを通して、マスコミ、新聞業界に対するイメージを具体化し、仕事内容を理解して、朝日新聞社への志望度を高めてほしいのです。過去の例をみると、インターンシップを経験した学生は志望度が高く、どんな仕事なのかの意識が高くなっています。他の新聞社のインターンシップでも構いません。朝日でも、他社でも、インターンシップを受けた学生は、志望度がアップしているようです。インターンシップを通じて社員と直接話をして、魅力を知ってほしいですね。

 ――インターンシップ参加者は内定率が高いのですか。
 2013年の新入社員でみると2割がインターン経験者でした。採用とインターンは関係ありませんが、インターン体験によって朝日新聞のことをよく知って面接試験でスムーズに話せたり、参加した学生が集まって一緒に勉強をしたりと事前準備が整ったのだろうと思います。

■朝日新聞社の人材育成は
 ――入社後の教育制度を教えてください。
 記者部門は、かつては獅子が子どもを谷底に突き落とすように、いきなり現場でOJT(オンザジョブトレーニング)のみでしたが、2006年に社内にジャーナリスト学校ができてから変わりました。今は、入社後3年間は広い意味で新人ととらえて継続的に研修しています。入社後1カ月間で座学や実地研修をした後は、半年後、1年目、2年目、3年目の区切りに数日間~1週間の研修があります。半年から1年ごとに同期と会うことで、体験を振り返ったり共有したりすることを大切にしています。また、ベテラン・中堅の記者の取材スキルを、きちんと講義で伝えようとしています。昔は「先輩の背中を見て覚えろ」でしたが、今は取材の工夫を共有し、次世代につなぐことが大事です。
 ビジネス部門は入社後3カ月間、販売、広告など5つの部署を経験します。OJTと先輩社員と関わりを持つ目的です。さらに、4年目、7年目、10年目に一堂に会しての数日間の研修があります。
 技術部門の研修は入社後半年間。IT系の仕事が主なので、数学などの基礎を学んでもらいます。

 ――配属先の希望は聞いてもらえるのですか。
 新人記者の配属では、希望は聞きません。ただ、最初から地方の小都市には配属しません。学生は、社会人になったことと、縁もゆかりもない町で働くことで、二重のショックを受けます。そこで、初任地は札幌、仙台、千葉、東京、横浜、静岡、滋賀、京都、大阪、神戸、広島、岡山、高松、福岡――という拠点で記者という仕事に慣れてもらい、2年目から地方の県庁所在地の総局へ。その後、もう1カ所経験して、3カ所5~6年の勤務でどこかの本社(東京、大阪、西部、名古屋)に上がります。原則として、生まれ育った地域ではないところに配属します。知らない土地で新たな文化・慣習を学び、ゼロから人脈を築くことこそ、取材の原点だからです。東京以外には行きたくない、という人は務まりません。
 ビジネス、技術の両部門は研修を受けてもらい、希望と適性を判断して配属を決めます。

 ――作文が苦手な人は記者になれませんか。
 作文と新聞記事は似て非なるものです。作文はエッセーやコラムの能力。記事は伝えるべき情報を取捨選択して言語化する作業。トレーニングを積めば一定レベルに達するので安心してください。

■岡本さんの仕事について
 ――岡本さん自身はなぜ記者を目指したのですか。
 小さいころから新聞に慣れ親しんでいて、高校時代に元朝日記者の本多勝一さんの本を読んで影響を受けました。大学時代には、アジアをバックパッカーとして放浪し、団塊の世代と侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をしていました。中国・チベット自治区のラサに滞在しているときに独立を求める暴動が起こり、AP通信の記者から毎日定期的に電話で取材を受けたのが直接報道に興味をもったきっかけです。

 ――今までで特に印象に残っている仕事は?
 夏の戦争に関する連載企画で、今まで語らなかった戦争体験者に加害体験を語ってもらいました。加害者としての日本を問い直そうという企画です。意に反して人を殺したという50年も胸の内に抱えてきた心の傷、痛み、苦しみを打ち明けてもらうので、取材する私もそれを引き受けなければならない辛い取材でした。でも、800通もの手紙やファクスが届き、大きな反響を呼びました。

 ――岡本さんにとって仕事とは?
 記者という働き方は私の生き方そのもの。ですから、仕事とプライベートを分けられないし、毎日9時から5時までという仕事は私には無理ですね。

みなさんに一言!

 この何カ月かを、あなたの人生の目的にしないでください。就活は、あなたがもっともあなたらしく生きるための一つの手段です。就活のために就活をしている学生には、魅力を感じません。できれば高校生のときから、あるいは大学1年生のときから、今からでもいいので、何をやりたいのか、どう働きたいのか、どう生きたいのか、考えてほしい。やりがいや本当に何をやりたいのか、何を楽しいと思うのか、就活シーズンが始まるまでに考えておいてほしいですね。

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 朝日新聞社は創刊以来130年余、朝刊約760万部、夕刊約300万部の新聞を発行する日本を代表する報道機関です。さらに「朝日新聞デジタル」での各種コンテンツの配信、文化・スポーツ、教育事業などを展開する「総合メディア企業」でもあります。特に世の中の隠された事実を掘り起こす「調査報道」に注力し、正確で信頼できる情報を発信しています。記者だけでなく、ビジネス、技術と仕事は多彩で「職種のデパート」とも呼ばれます。感動を伝えたい方、世の中の問題を一緒に考えたい方、そして活躍の舞台を全国、世界に求める方をお待ちしています。