東京などの大都市では、あちこちで大きなビルを建設している光景が見られます。地方でも工場などを建設する工事が目につきます。ということは建設業界はさぞ潤っているだろうと思いきや、実はそうでもありません。木材や鉄などの資材の価格は高くなっていますし、少子高齢化やきつい仕事というイメージの影響もあって人手不足が深刻で、工期も長くなっています。人手不足に関しては2024年4月からは建設業でも残業規制が厳しくなる、いわゆる「2024年問題」があり、さらに深刻になる心配があります。
2025年に開催予定の大阪・関西万博のパビリオン建設が開幕に間に合うかどうか心配されているのも、人手不足の影響です。こうしたことから、大型工事を請け負うゼネコンといわれる大手建設会社の業績は下降気味です。人手不足に対応するには、賃金を上げて職場環境をよくすることや最新鋭の機械を導入して省力化することなどが必要になっています。建築や土木に興味がある人は、志望する会社がどれだけ本気で人に投資しようとしているかをよく見ることが大切です。
(写真・大阪・関西万博の会場予定地で建設が進む「大屋根」=2023年12月19日/写真はすべて朝日新聞社)
日本にはスーパーゼネコンが5社ある
建設業を営むためには国土交通大臣の許可が必要です。許可を得ている業者数は全国で約47万業者(2022年度末)あります。業者数がピークだった2000年度末に比べると約21%減っています。建設業ではたらく人は約479万人(2022年)で、産業全体に占める割合は7.1%です。数字をみると建設業は全国にたくさんの業者がいて、たくさんの人が働いている業界といえます。
小規模な会社が大多数ですが、「ゼネコン」とよばれる大きな会社もあります。ゼネラルコントラクターの略で、設計、施工、研究のすべてをおこなっている建設会社です。中でも大きなゼネコンをスーパーゼネコンと呼び、日本では鹿島建設、大林組、清水建設、大成建設、竹中工務店の5社がそれにあたります。
資材コストは3年間で29%上がる
スーパーゼネコン5社の業績をみると、竹中工務店を除く4社の2023年4月~12月期、竹中工務店の2023年1~6月期は前年同期に比べていずれも減益か、赤字になっています。各社とも売り上げは増えているのですが、資材費や人件費というコストがそれ以上に増え、利益が圧縮されているのです。建設業の業界団体である日本建設業連合会は2024年1月に「建設工事を発注する民間事業者・施主の皆様に対するお願い」と題したパンフレットを作成しました。それによると、この3年間で資材コストは建設全体で29%上がり、労務費は2年余りで10%上がったとしています。そのうえで、「適正な価格・適正な工期での建設工事の実施につき、御理解御協力をお願いします」としています。2024年4月からは建設業で働く人の残業時間を1カ月100時間未満、1年720時間以内とする規制が始まります。それにより、建設業界では労務費をさらに上げて人を集める必要が出てくるため、そうしたコスト増を受注価格に転嫁できるようにお願いしているわけです。
(写真・日本建設業連合会の会長をつとめる宮本洋一・清水建設会長=2023年10月)
5社には有名建造物の実績がある
スーパーゼネコン5社には、それぞれ特徴があります。鹿島建設は江戸時代の1840年に創業した伝統のある企業です。土木では青函トンネルや瀬戸大橋建設にたずさわり、建物では日本初の超高層ビルとなった霞が関ビルを造ったことで知られています。大林組は東京のスカイツリーを建設した会社です。さらに高いところに向かう建築物として地球と静止衛星をエレベーターで結んで人や物資を行き来させる宇宙エレベーター構想を打ち出しています。太陽光発電所建設など再生可能エネルギー分野に力を入れていることや海外売上高が大きいことも特徴です。清水建設は、江戸時代の1804年に創業した伝統ある会社で、土木よりも建設に強いのが特徴です。世界遺産になった国立西洋美術館や特徴的なデザインの国立代々木競技場 などを造っています。大成建設はスーパーゼネコンの中で唯一の非同族会社です。最近の建築物では、2019年にできた新国立競技場が有名です。竹中工務店は、江戸時代が始まったばかりの1610年に創業したとても古い会社です。大阪に本社があり、関西に強みを持っています。スーパーゼネコンの中で唯一の非上場会社です。最近では、大阪の超高層ビルあべのハルカスを建設しました。
(写真・建設中の東京スカイツリー=2011年5月)
春闘で大幅な賃上げと初任給アップ
建設業界は独創的なものづくりができる夢のある仕事です。大きな建造物に関われば、自分の仕事が長く残り、子孫に誇ることができます。そうした仕事ですが、業界が抱える目下の最大の課題は人手不足です。「きつい、汚い、危険」の3K職場のイメージが残っていることもあり、若者の参入が足りていません。全国の建設業従事者の6分の1は65歳以上となっています。また、円安の影響があり日本の賃金が相対的に低くなっていることから海外の労働者もあまり来てくれない状況になっています。これに残業規制が加わるため、人手不足はますます深刻になることが考えられます。建設業界は、目の前に仕事は山ほどあるのにそれをこなせないという歯がゆい状況に陥っています。ゼネコン各社は春闘で大幅な賃上げと初任給アップをする方針です。女性の採用にも積極的になっています。建設業界は今、大学生に選ばれる会社になろうとしているので、調べてみてはどうでしょう。
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