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2024年02月29日

史上最高値更新で沸く証券業界、課題は若年層の取り込み【業界研究ニュース】

銀行・証券・保険

 2024年2月22日、東京株式市場の日経平均株価は史上最高値を超えました。バブル経済期の1989年末につけた3万8915円を約34年ぶりに上回ったのです。株価が上がることは日本の景気を押し上げる効果があり、株式を保有している人だけでなく日本全体にいい影響を与えます。もちろん、株の売買を仲介する証券会社は、売買手数料が増えて業績が上がります。

 今年1月から新しいNISA(少額投資非課税制度)が始まり、若年層などこれまで株の世界に縁のなかった人が参入したことも株高に寄与しています。証券会社からは「株価はまだまだ上がる」といった威勢のいい言葉が聞かれますが、かつて日本はバブル経済が崩壊したあと、その後遺症に長く苦しんだ経験があります。バブルの教訓として、「今の株価は実態に見あった株価なのか」ということに注意を払うことが大事です。その教訓を忘れなければ、証券業界の成長はしばらく続くでしょう。

(写真・2月22日の終値を示す証券会社の株価ボード=2024年2月22日午後4時21分、東京都中央区日本橋兜町/写真はすべて朝日新聞社)

東京中心だが全国各地にも証券会社はある

 証券会社は金融庁を通じて内閣総理大臣の登録を受けた株式会社です。お金を扱う仕事のため、厳しい監督が必要なためです。日本証券業協会によると、日本には272社の証券会社があります。大半は東京にありますが(205社)、名古屋に19社、大阪に18社など全国にあります。証券取引所は現在、東京、名古屋、福岡、札幌にあり、少し前まで大阪などにもありました。証券会社が全国に散らばっているのは、取引所が全国各地にあったためです。

SBIと楽天は口座数トップを争う

 日本の証券会社で売上高(営業収益、2022年度)の大きいのは、野村證券大和証券みずほ証券三菱UFJモルガンスタンレー証券 SMBC日興証券の順になります。一方、口座数の多いのは、 SBI証券楽天証券、野村證券、SMBC日興証券、大和証券の順になります。SBI証券と楽天証券はネット専業の証券会社で、両社とも現在、国内株式の売買手数料が無料のコースを展開しています。そのため、若年層を中心に口座数が急激に増えています。野村証券やSMBC日興証券、大和証券などは窓口や電話での対応もしており、高齢の資産家の顧客を抱えています。ただ、売買手数料を下げて口座数獲得の競争をするためにはネットでの取引にシフトする必要があり、こうした伝統のある証券会社もネット取引に力を入れるようになっています。

(写真・野村ホールディングス本社=東京都千代田区)

株や債券の売買から調査研究まで

 証券会社の仕事の内容はいろいろあります。ひとつは、株や債券などの金融商品の売買を仲介する仕事です。また、自社の資金運用として独自に株や債券の売買をする仕事もあります。企業が株式を公開したい、つまり証券取引所に上場(IPO)したいというときにその手続きをサポートする仕事もあります。ほかにも、企業自体を売買するM&Aの仲介業務もあります。経済や企業の分析をする調査研究部門もあります。大きな会社になると、世界各地で株や債券の取引をしていますので、海外支店もあちこちにあります。

コンプライアンスに触れる問題もたびたび

 株や債券の売買はギャンブル的な要素があり、法令順守(コンプライアンス)に触れる問題もたびたび起きています。最近でも、SMBC日興証券で株価操作事件があり、元副社長や元部長が金融商品取引法違反で起訴されたり、SBI証券が株価を不適切に操作しようとしたとして、金融庁から金融商品取引法に基づく一部業務停止命令をうけたりしました。ほかにもみずほ証券が公正取引委員会から注意を受けたり、ちば銀証券は日本証券業協会から過怠金を科される処分を受けたりもしています。

「貯蓄から投資へ」と政府が後押し

 政府は「貯蓄から投資へ」というかけ声のもと、株や債券による資産運用をすすめる政策をとっています。1月から始まった新NISAがそれです。NISAは売買益に税金がかからない口座ですが、新NISAでは年間投資の上限がこれまでより200万円上がって360万円(「つみたて投資枠」が120万円、「成長投資枠」が240万円)になり、非課税期間は無期限になりました。100円からでも投資ができるため、若者の利用が期待されています。新NISAは、年明けからの株高の一因になっていて、これからも当分は株価の下支えになりそうです。こうした政府の方針は証券会社にとって追い風で、景気のいい話がこれからも聞こえてきそうな業界です。

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