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2024年10月10日

「100年に1度」の再開発ラッシュに沸く不動産ディベロッパー業界【業界研究ニュース】

建設・不動産・住宅

 東京では今、「100年に1度」といわれるほど、大規模な再開発があちこちで進んでいます。渋谷、八重洲、晴海などでは現在進行中で、明治神宮外苑地区、池袋、芝浦、築地などでも計画が動き出しています。都内の都市計画決定件数は増えており、今後少なくとも10~20年は、新しい巨大建物の誕生が続きそうです。また、大阪でも同様に再開発計画は目白押しです。

 開発ラッシュの背景には、戦後から高度成長期までに建設されたビルなどが更新時期を迎えることがあります。また、東日本大震災などにより、災害を見据えた街づくりの必要性が高まったことも影響しています。こうした再開発を推し進める中心的存在が大手不動産会社で、一般的にディベロッパーとよばれます。計画が増えていることから、大手不動産会社の業績はおおむね好調に推移しています。ひとつの再開発には長いもので計画段階から完成まで数十年かかるとされる息の長い仕事ですが、街づくりというスケールの大きな夢のある仕事であり、志望する人も少なくない業界です。
(写真・渋谷アクシュをはじめ、再開発が進む渋谷駅東口周辺=2024年7月/写真はすべて朝日新聞社)

大手は三井不動産や三菱地所など6社

 不動産会社といえば、住むところをさがすときにお世話になる会社というイメージが強いかもしれません。そうした不動産の仲介や管理をする会社は全国に数万の規模であります。一方、大手不動産会社は街の再開発を担うディベロッパーとしての仕事が中心になります。一般に大手6社といわれるのが、三井不動産三菱地所東急不動産ホールディングス住友不動産野村不動産森ビル(2024年3月期の営業収益の多い順)です。こうした会社に次ぐ規模の準大手として、ヒューリック東京建物、日鉄興和不動産、森トラスト NTT都市開発(2024年3月期の営業収益の多い順)などがあります。

土地が必要なので歴史のある会社ばかり

 ディベロッパー事業を手がけるには、土地が必要です。古くから土地を持っていたり、長い年月をかけて土地を取得しなければなりません。そのため、三井、三菱、住友など、戦前から財閥系として活動してきた企業に強みがあります。また、土地だけでなく過去のノウハウを持っていたり信用があったりする必要もあり、新興企業が参入するのはむずかしい業界です。森ビルは1959年設立と比較的新しい会社ですが、米穀店を営んでいた森家は戦前から西新橋周辺の土地をたくさん買って持っていたので、やはり歴史のある会社ということができます。

(写真・森ビルの六本木ヒルズ森タワー=2024年5月)

 

三井は神宮外苑や築地市場跡の再開発へ

 大手不動産会社は現在進行中の大規模再開発事業をそれぞれ抱えています。三井不動産は、東京・日本橋、日比谷、豊洲などの再開発を終え、今は晴海などを手がけています。また、明治神宮外苑地区や築地市場跡の再開発計画でも中心になっています。三菱地所は東京・八重洲地区の再開発を進めています。2027年度には、日本一高い「トーチタワー」がこの地区に完成する予定です。ほかにも池袋駅西口やJR大阪駅近くの「うめきた」地区などの最開発も三菱地所が中心になっています。東急不動産は東京・渋谷地区の大がかりな再開発が、2027年には 完成する予定です。住友不動産は東京・六本木や西新宿で実績があり、東池袋の再開発を進めています。野村不動産は東京・芝浦や中野での再開発事業を進めています。森ビルは住友不動産とタッグを組んで、六本木交差点に面するエリアの再開発に動き出しており、今ある六本木ヒルズ森タワーを超える高さのビルを核とした計画を立てています。
(写真・築地市場跡地の再開発について記者会見した三井不動産の植田俊社長(中央)ら=2024年5月)

コロナ禍終わり、オフィス需要増える

 コロナ禍でオフィス需要が減りましたが、コロナ禍が終わると、オフィス需要は増えています。対面で仕事をする重要性が再認識されるようになったり、スペースをゆったり使う傾向が出てきたりするなどしたためです。また、外国人観光客の増加でホテル需要が増したり、タワーマンション人気が一段と高まったりしていることなども大手不動産会社の追い風となっています。こうした追い風はまだしばらく吹き続けるものとみられています。

海外ではインド市場に注目

 ただ一方でもっと長期的にみると、人口が減り続ける日本ではマンション需要やオフィス需要はそのうち減少に転じることが予想されます。そうした長期見通しもあり、海外進出にも力を入れています。今人気になっているのがインドです。中国を抜いて人口が世界一になったとみられるインドは経済発展も著しく、オフィスビル需要を満たすために再開発の機運が高まっています。住友不動産はムンバイで2030年代に複数の超高層ビルを開業する予定です。三菱地所もインド南部のチェンナイでオフィスビルの建設に参加しています。また、三井不動産は南部のベンガロールでオフィスビルの建設などの再開発事業に参加しています。ほかにも大手不動産会社はアメリカ、インドネシア、中国などにも進出しています。

問題を乗り切る苦労があることも理解しよう

 街を造るというディベロッパーの仕事は夢のある仕事です。ただ、大きな再開発事業になればなるほど、また価値のある場所であればあるほど実現するまでにはいろいろな問題が起こります。たとえば、三井不動産が計画中の明治神宮外苑の再開発では、樹木の伐採などの環境問題について周辺住民などの強い反対を招いています。こうした反対に向き合い、説得したり計画変更したりしながら乗り越えていかなければなりません。計画から完成まで長い時間がかかるのは当たり前で、その間の苦労も小さいものではないと思われます。志望する人はそうした面も理解しておくことが大切です。
(写真・伐採予定の樹木について現地で報道陣に説明する三井不動産の担当者=2024年9月9日)

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