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2024年09月26日

コロナ禍前に戻りつつあるが、安全対策などに課題が残る鉄道業界【業界研究ニュース】

運輸

 新型コロナウイルスにより旅客数が減少していた鉄道業界ですが、新型コロナウイルスの5類移行を受けて2023年度にコロナ禍前の運輸収入に近づき、業績はおおむね好調に推移しています。一方、最近目立つのが事故や不祥事です。JR東日本では東北新幹線で走行中に連結がはずれて車両が分離する事故がありました。JR貨物では列車の検査データを改ざんする不正が発覚し、ほかの鉄道会社でも点検するとデータ改ざんが見つかりました。また、JR九州の子会社が日本と韓国を結ぶ高速船の浸水を隠して運航をしていたことも発覚し、国土交通省から管理者解任命令を出されました。いずれも死傷者に直接つながってはいませんが、大きな事故につながりかねない出来事です。

 コロナ禍からの回復という明るい流れの中で、鉄道業界には「安全対策をしっかり講じる」という基本的課題が突きつけられている状況です。鉄道事業は社会のインフラとしてなくてはならないものですが、コロナ禍で設備投資が落ち込んでいました。これからは安全対策を含めた設備投資に力を入れ、「安全で快適で環境にやさしい移動手段」をよりいっそうアピールしていく必要がありそうです。

(写真・連結がはずれ、線路上に停止する「こまち」(左手前)と「はやぶさ」の車両(奥)。下りの新幹線が横に停車していた=2024年9月19日/写真はすべて朝日新聞社)

JRが7社、大手私鉄が16社

 日本には208の鉄道会社(事業者)があります。そのうち、旧国鉄が民営化されたJRが7社、それ以外の民鉄(私鉄)の中で大手といわれるのが16社あります。JRは、JR東日本、JR東海JR西日本、JR九州、JR北海道JR四国の6社が旅客輸送を中心とする会社で、貨物輸送に特化しているのがJR貨物です。株式を上場しているのはJR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州の4社で、それ以外の3社は独立して採算がとれないため、上場していません。私鉄の16社は近畿日本鉄道東急電鉄阪急電鉄阪神電気鉄道名古屋鉄道東武鉄道西武鉄道小田急電鉄京王電鉄京成電鉄京浜急行電鉄相模鉄道南海電気鉄道京阪電気鉄道 西日本鉄道東京地下鉄です。

(写真・JRグループ最大の売り上げがあるJR東日本)

乗客数はコロナ禍を経て回復傾向

 国土交通省の鉄道輸送統計によると、日本国内の鉄道旅客数の2023年度の延べ人数は約226億人で、これは2022年度に比べて6.8%増えています。2020年度、2021年度とコロナ禍で大きく落ち込んだ鉄道旅客数ですが、回復に向かいつつあります。2024年度も外国人観光客の増加という要因もあり、順調に推移しています。また貨物輸送については、トラック輸送がドライバーの残業規制強化(いわゆる2024年問題)により減少すると見込まれ、その減少分を補うことが期待されています。コロナ禍後に運賃を値上げした会社も多く、値上げも寄与して鉄道大手の業績は堅調です。こうしたことから、各社の設備投資意欲は強まっています。

(写真・貨物輸送に使われる鉄道コンテナ/札幌貨物ターミナル駅、2022年10月7日)

JR九州の売上高の約7割は非鉄道事業

 ただ、長期的にみると、人口が減っていく日本での鉄道事業の伸びには限界があります。このため、各社とも非鉄道事業に力を入れています。特に駅を中心とした周辺の不動産開発は鉄道会社ならではの事業です。東急電鉄が渋谷駅周辺の再開発に中心的に関わっていたり、大阪駅周辺の開発には阪急電鉄などが関わったりしています。また、JR九州は博多駅周辺のオフィス開発に関わるほか、ホテルや外食などの経営にも力を入れていて、グループの売上高は鉄道以外の事業が約7割を占めています。

JR東海はアメリカの新幹線事業ねらう

 海外事業に力を入れている会社もあります。代表的なのがJR東海で、新幹線やリニアモーターカーの技術を海外で展開しようとしています。具体的には、アメリカ・テキサス州のダラスとヒューストンを結ぶ新幹線、アメリカ東海岸のワシントンD.C.とニューヨークを結ぶリニア新幹線の受注をねらっています。JR東海は日本国内でリニア中央新幹線の建設に着工していますが、自治体との交渉が難航するなどして計画が後ろ倒しになっています。国内外で意欲的な展開をしていますが、その成果が出るかどうか注目されています。日本政府はインフラ輸出に力を入れていて、日本の鉄道技術をその代表として後押ししています。

赤字ローカル線の議論始まる

 一方、地方の中小の鉄道会社やJRのローカル線は苦しい経営を強いられています。過疎化が進み、乗客数が減り続けているためです。赤字ローカル線を抱えるJR各社は、自力で維持することの難しさを訴え、地元自治体は存続を求める訴えを続けている状況です。国はその間に入って「再構築協議会」をつくり、議論をまとめようとしています。先陣を切ってJR西日本の芸備線(広島県、岡山県)についての議論が始まっています。国鉄の流れをくむJRは公共性を無視できず、かといって営利を無視することもできず、どういう結論になるのか注目されています。
(写真・再構築協議会の対象となった芸備線の区間を走るJR西日本の車両=2023年10月)

仕事の中身をよく調べよう

 鉄道の仕事というと、乗務員や駅員をイメージする人が多いと思いますが、それは一部にすぎません。営業や販売促進を担当する人、旅行や物品販売などのサービス開発を担当する人などもいますし、オフィスやホテルなどの不動産開発を担当する人もいます。鉄道会社を志望する人には鉄道が好きな人が多いのではないかと思いますが、それは必要条件ではないと思います。JR九州のように非鉄道事業のほうが今や大きいという会社もあります。就職を志望している人は、希望する鉄道会社の仕事の中身をホームページなどでよく調べてみてください。

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