人が一生のうちでするもっとも大きな買い物は住宅だと言われます。かつて「夢のマイホーム」という言葉がありましたが、今でも戸建て住宅を買う夢をみる人は少なくないと思います。住宅メーカーはそうした人の夢にこたえる業界であり、満足のいく住宅を提供できれば大きな達成感を得られる仕事といえるでしょう。
ただ、住宅メーカー業界には逆風も吹いています。大きな要因は、少子高齢化に伴う新設住宅着工戸数の減少傾向です。若い人の数が減れば住宅を購入する人も減るわけで、少子化が止まる気配はなく、減少傾向は今後も長く続くと考えられています。また、建設に携わる人の不足、建築資材の高騰、住宅ローン金利の上昇傾向なども逆風になっています。一方で古くなった住宅を手直しする需要は増える見込みで、建て替えに近いリノベーションや模様替えにあたるリフォームは増加が期待できます。業界ではさらにアメリカなどに進出して、日本メーカーならではのきめ細かい気配りをした設計や木を使ったぬくもりのある家を供給することにも力を入れています。仕事の範囲をマンションやショッピングセンターなどの大型の建築物や不動産開発に広げる動きもみられます。
(写真はiStock)
住宅着工戸数はバブル期の半分程度に
日本の2024年の新設住宅着工戸数は79万2098戸で、前年に比べて3.4%のマイナスとなりました。コロナ禍で減った着工戸数は2021年から増えたのですが、2023年、2024年と2年連続で前年から減少しています。1990年前後のバブル期には160万戸程度の着工戸数があったので、今はその頃の半分程度になっていることになります。野村総合研究所が2024年に公表した推計では、2030年度には77万戸、2040年度には58万戸にまで減るとしています。一方でリフォーム市場は拡大し、市場規模は2022年の8.1兆円から、2040年には8.9兆円に増えるとしています。
地域の工務店から売上高1兆円超の会社まで
住宅を建設する会社は全国にたくさんあります。その土地ごとに求める住宅の形や機能が違っていることなどから、土地ごとに古くからの工務店や大工さんが存在するためです。ほぼ全国を対象にしてさまざまな基本設計を持ち、工場で部材を生産して現場で組み立てる方式をとっているようなメーカーのなかには、売上高が1兆円を超える大企業もあります。大和ハウス工業、積水ハウス、旭化成ホームズ(へーベルハウス)、住友林業 、飯田グループホールディングス、オープンハウスグループ、積水化学工業(セキスイハイム)、プライムライフテクノロジーズ(トヨタホーム、パナソニックホームズ、ミサワホーム)などが売上高の大きいメーカーとしてあげられます。
(写真・2025年4月1日付で大和ハウス工業の新社長に就任する大友浩嗣氏(右)と新会長になる芳井敬一氏=2025年2月13日/朝日新聞社)
セキスイハイムは積水ハウスとは別会社
大手企業それぞれの特徴をあげます。大和ハウス工業は戸建て住宅以外の事業にも力を入れていて、注文住宅や分譲住宅のほかにマンション、ショッピングセンター、工場などの大規模施設戸建てなど幅広い建物をつくっています。積水ハウスは戸建て住宅の販売戸数でトップの会社です。中でも高級住宅に強みを持っています。旭化成ホームズのへーベルハウスは耐震性や耐火性に優れていると言われます。住友林業は会社名の通り、木の良さを感じられる住宅に特徴があります。飯田グループホールディングスは、住宅の建売事業をおこなうパワービルダーといわれる会社です。比較的安価な住宅を提供する会社で、建築戸数の多さが特徴です。セキスイハイムは積水ハウスと同じ積水化学工業を母体としていますが積水ハウスとは別会社で、家の部分の多くを工場で作るのが特徴です。オープンハウスグループは、不動産事業と住宅建設をあわせた形態の会社で、利便性の高い都市部で土地の取得から住宅販売までを自社でおこなっています。プライムライフテクノロジーズは3つの住宅メーカーが統合して「街づくり」をおこなう会社です。
住友林業は海外の売上高が国内より多い
少子高齢化が進む日本では戸建て需要が減ることが予想されるため、海外事業に力を入れる会社が増えています。積水ハウスは2024年にアメリカの住宅会社MDCホールディングスを約49億ドル(約7200億円)で買収しました。これにともなって、積水ハウスグループはアメリカでの住宅の引き渡し数が年1万5千戸にまで増え、アメリカで5位に相当する大手の一角に入りました。住友林業の海外事業はさらに進んでいます。アメリカやオーストラリアの住宅会社などを次々に買収し、今では海外の売上高の方が国内より多く、利益の約8割を海外で稼ぐほどになっています。大和ハウスも海外事業の強化を掲げており、海外事業の売上高1兆円達成を眼前の目標にしています。
(写真・積水ハウスが、米国で展開する木造住宅ブランド「シャーウッド」=2024年9月、米カリフォルニア州/朝日新聞社)
大和ハウスは年収10%引き上げ
人材確保も住宅メーカーの大きな課題となっています。社会全体が人手不足になっており、特に海外人材やIT人材は他業界と取り合いになっています。また、営業をする人材も足りていません。大和ハウス工業は2025年4月1日から正社員約1.6万人の年収を平均10%引き上げることにしています。新卒者の初任給も10万円増やし、33万2千円~36万2千円に引き上げます。また、社員が希望すれば定年を65歳から67歳に延ばせる制度も4月から導入します。こうした制度変更は労働力不足が深刻化しているためで、若手からシニア人材まで選ばれる会社を目指しています。
住宅展示場で会社のイメージを
住宅メーカーの仕事には設計、施工管理、営業、事務などの仕事があります。中でも大切なのは顧客に対応する営業の仕事で、コミュニケーション力や提案力が求められます。住宅はとても大きな買い物なので、顧客の注文は厳しいのが当たり前で、トラブルも起こりがちです。顧客の不安な気持ちに寄り添い、さまざまな提案をしながら、引き渡しまで持っていくことが大切です。最終的に顧客が喜べば、仕事のやりがいを感じられるはずです。住宅メーカーの仕事や会社のイメージを得るのにいい場所は住宅展示場です。多くの住宅メーカーが出展している展示場に行き、見て回ることで感じることがあるはずです。展示場にはその会社の人がいるはずで、聞きたいことがあれば聞くこともできます。
(写真はiStock)
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