コロナ禍の自粛生活が終わり、旅行会社の就職人気が回復しています。学情の就職人気企業ランキングを見ると、2025年卒対象(2023年11月発表)ではJTBグループが11位、日本旅行が48位、エイチ・アイ・エス(HIS)が95位にランクインしています。コロナ禍前の2019年12月に発表した2021年卒対象では、JTBグループが2位、HISが5位、近畿日本ツーリスト(KNT-CTホールディングス)が22位、日本旅行が43位だったので、そのころには及びません。しかし、コロナ禍真っ最中の2021年11月に発表した2023年卒対象ではJTBグループが31位、日本旅行が95位に入っていただけでしたので、人気は回復に向かっているといえます。
まだ日本人の海外旅行が低調なままであることや中国人観光客が少ないことなどの課題がありますが、そうした課題は徐々に解消されていくと思われ、旅行業界はこれからも回復傾向が続くとみられます。ただ、コロナ禍を通じてHISや近畿日本ツーリストなどの大手は、業績や企業イメージにかなり大きなダメージを受けました。コロナ禍を通じて業界地図が変わってきていることも押さえておきましょう。
(写真・羽田空港の国際線カウンターで中国への帰国便の手続きを待つ旅行客ら=2023年10月/写真はすべて朝日新聞社)
1000社を超え、中小企業が多い業界
旅行業を監督する法律には、旅行業法があります。旅行業をする者はそれに基づく観光庁長官または都道府県知事への登録が必要です。旅行業をおこなえる業者には二つのタイプがあります。旅行の企画から販売まですべておこなえるのが旅行業者で、旅行業者に委託されて販売だけできるのが旅行業代理業者です。旅行業界の団体としては日本旅行業協会(JATA)があります。正会員は2023年12月15日現在1138社、協力会員は318社となっています。このように旅行業を営む会社の数は多く、中小企業が多い業界といえます。
長い伝統のあるJTBが群を抜いて大きい
旅行業には、対面販売を主にする伝統的な会社と、ネット専業の新興の会社があります。対面販売を主とする大手としては、JTB、近畿日本ツーリスト、HIS、阪急交通社、日本旅行、東武トップツアーズなどがあります。このうち売上高が9799億円(2023年3月期)と群を抜いて大きいのが、JTBです。1912年に外国人に日本の実情を見てもらう目的で設立され、戦後しばらくは財団法人の形で日本交通公社という名称でした。長い伝統やかつての名称から日本を代表する旅行会社と認識されています。ネット専業としては、楽天グループの楽天トラベル、リクルートグループのじゃらんnet、LINEヤフーのYAHOO!トラベルなどがあります。近年はネット販売の伸びが大きく、対面販売を主としてきた会社も店舗数を減らしてネット販売に力を入れるようになっています。
(写真・JTBの店舗=2021年)
コロナ禍によりダメージを受ける
コロナ禍は旅行業界に様々な形で試練を与えました。旅行業の売り上げが激減したことに伴い、自治体の新型コロナウイルス関連業務などを請け負ってきたのですが、近畿日本ツーリストがワクチン接種の委託料などを過大に請求していたことが明るみに出ました。2023年11月には公正取引委員会が近畿日本ツーリストなど5社の青森市にある支店に、コロナ業務の談合の疑いで立ち入り検査に入りました。こうした問題が重なり、事件に関係した会社はイメージが悪化しています。また、HISは創業者の沢田秀雄・取締役最高顧問が2024年1月25日に退任しました。HISは安く海外に行ける旅行会社として急成長し、大手の一角を占めましたが、コロナ禍で海外旅行が低調になり、業績悪化に苦しんできました。このほか、JTBと日本旅行が資本金を1億円に減資したのもコロナ禍が背景にあります。資本金が1億円以下になると税法上は中小企業とみなされ、税金が軽くなります。この2社の実態は大企業ですが、非上場企業なので減資という道をとることができ、大企業の名を捨て経営を楽にすることにしました。
(写真・HISの取締役を退任した創業者の沢田秀雄氏=2023年12月)
切望するのは日本人の海外旅行が増えること
日本を訪れる外国人の数は順調に増えています。日本政府観光局(JNTO)の調べでは、2023年は2506万人が訪れたと推計しています。これはこれまで最多だった2019年の約8割です。月別で見ると、2023年10月からは2019年の同月を上回る月が続いています。このため、2024年は2019年を上回る数の訪日外国人数となる可能性があります。しかも中国からの2023年の訪日客は2019年の半分にも満たず、これから中国からの訪日客が増えると2024年の訪日外国人数は過去最多になる可能性が高まります。また、国内旅行客はコロナ禍前の水準をほぼ回復したとみられます。残った課題は、日本人の出国者数です。2023年の出国者数は962万人と2022年の約3.5倍になりましたが、それでも2019年の半分にも届いていません。円安により海外旅行の値段が高くなっていることが最大の理由とみられます。旅行業界としては日本人の海外旅行が増えることを切望しています。
(写真・大谷翔平選手目当ての観光客でにぎわうアナハイムのエンゼルスタジアム=米カリフォルニア州、2023年1月)
社会情勢による浮き沈みのある業界
旅行業界の業績は、感染症、戦争、飛行機事故、為替の変動などに左右されてきました。ただ、これまでは時間が立てば回復し、需要はそれ以前より強くなってきました。社会が豊かになれば、余暇が生まれ、旅行に行きたいという人々の気持ちは強まります。長い目で見れば、旅行業は成長産業だと考えられます。旅行が好きな人は大学生にも多く、そうした旅行を企画する旅行会社への就職を志望する人は少なくないと思います。ただ、社会情勢による浮き沈みのある業界であることや人を楽しませるサービス業であることをしっかり認識しておくことが大切だと思います。
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