2020年に始まったコロナ禍は、なかなか終息の気配をみせません。コロナ禍の影響をもろに受けているのが旅行業界です。海外旅行はほぼなくなり、国内旅行も大幅に減りました。この間、本業以外の仕事に取り組んだり、社員の数を減らしたり、納める税金を減らすために減資をしたり、あの手この手で業績の回復をはかってきましたが、まだ回復には遠く及びません。現時点で業界が期待するのは、2020年末から中断している政府の観光支援策「GO TO トラベル」事業の再開です。「まん延防止等重点措置」が3月に全面解除されたことで5月の連休明けにも再開されるのではないかと期待を高めています。ただ、コロナ禍は第7波の兆しも見せており、再開できるかどうかは不透明です。業界としては、「Go To トラベル」の再開で業績悪化を防ぎ、コロナ禍の終息で海外旅行を含め爆発的に盛り上がるという楽観的シナリオを描きたいところですが、コロナ次第というのがつらいところです。業界最大手のJTBグループは2023年度入社から新卒採用を再開すると発表しています。業界の先行きは不透明ですが、これ以上新卒採用を手控えるわけにはいかないという決意がうかがえます。学情の調査によると、他の多くの旅行会社も2023年卒採用では前年より採用を増やす方針です。旅行業という仕事に魅力を感じる人は依然多いようで、旅行会社の就職人気に大きな陰りは見えません。
(写真は、まん延防止等重点措置が解除され旅行客らでにぎわう羽田空港=2022年3月26日、東京都大田区)
旅行の企画や販売をする会社
旅行業界とは、旅行業法に基づく「旅行業または旅行業者代理業」をする会社のことです。交通機関やホテル・旅館なども広い意味で旅行に関連する業界ですが、ここでいう旅行業界は団体旅行や個人旅行を企画したり、販売したりする会社を指します。業界団体として日本旅行業協会(JATA)があり、正会員は1111社です。数からいって中小企業が多い業界であることがわかります。旅行業専業の大手といえば、JTB、エイチ・アイ・エス、「近畿日本ツーリスト」などを展開するKNT-CTホールディングス、日本旅行などがあります。このほかにも全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)、JR各社などの交通機関が抱える旅行部門も大手に分類できます。
(写真は、JTBの店舗=2021年4月、東京都千代田区)
JTBと日本旅行は「中小企業」
ただ、大手とはいえJTBと日本旅行は昨年、税制上の扱いが「中小企業」になりました。JTBは資本金を23億円から1億円に、日本旅行は資本金を40億円から1億円に減資しました。資本金が1億円以下になると税制上は中小企業の扱いとなり、税負担が軽くなって経営が楽になるためです。JTBと日本旅行は上場企業ではないので、減資をすることができましたが、エイチ・アイ・エスとKNT-CTホールディングスは上場企業なので減資はしていません。
コロナ禍がオンライン化を後押し
旅行業界では、新興のインターネット専業旅行会社が存在感を増しています。楽天グループが運営する「楽天トラベル」、リクルートが運営する「じゃらんnet」、ヤフーが運営する「Yahoo!トラベル」、一休が運営する「一休.com」といったサイトです。短期の旅行や少人数の旅行の手配は、ネットですますという人が多くなっています。店舗を構えて対面で顧客とやり取りする既存の会社もその流れにおされて、オンライン販売に力を入れてきました。コロナ禍がその動きを加速させ、店舗の削減が進んでいます。また、旅行会社の「非旅行事業」の動きも活発になっています。ワクチン接種の事務局事業を請け負ったり、飲食業に乗り出したりしています。
国内旅行は徐々に増える
旅行業界の苦境は統計数字にはっきり表れています。まず、2021年の訪日外国人数は24万5900人で、コロナ禍前の2019年比で99.2%減です。2021年の日本人の出国者数は51万2000人で、2019年比で97.4%減です。日本人の国内旅行者数は延べ2億6711万人で2019年比54.5%減。国内旅行消費金額は9兆1215億円で2019年比58.4%減となっています。これらの数字からわかるのは、海外との人の行き来はほぼなくなり、国内旅行は半減しているということです。そのため、大手旅行業者のうちもっとも打撃が大きいのは、海外旅行に強いエイチ・アイ・エスで、2021年10月期の売上高は前年比72.4%減と3分の1以下になりました。比較的国内旅行の比率が高く、非旅行事業にも力を入れた日本旅行は2021年12月期の最終損益がわずかながら黒字になりました。2022年はここにきて県民割やブロック割という地域限定の旅行割引が広がっていて、国内旅行は徐々に増えています。さらに「GO TO トラベル」が始まると、国が旅行をしてもいいというお墨付きを与える印象があるため、一気に増えることが予想されます。
ブームまでいかに耐えるか
少し前まで、「日本の生きる道は観光立国」などと盛んに言われました。国内の観光地は外国人の旅行者であふれ、日本人も国内外の旅を楽しんでいました。大学にも観光や旅行といった言葉がついた学部や学科が増えました。しかし、コロナ禍で一変して、2年余が経ちます。旅行業界ならずとも「いいかげんにしてほしい」という気分になっています。コロナ禍が終息すると、開放感にあふれて爆発的な旅行ブームがきっとやってくると思います。いつになるかはまだわかりませんが、旅行業界はそこまでいかに耐えるかが試されているのだと思います。
(写真は、旅行会社の店先に貼り出された「Go To トラベル」のポスター=2021年7月、東京都杉並区)
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