業界研究ニュース 略歴

2021年03月19日

攻める、あきらめる、様子見…3極化するホテル業界【業界研究ニュース】

旅行・ホテル

 コロナ禍で苦境のホテル業界ですが、コロナ後を見越して新しいホテルを開業したり、計画したりする動きが出ています。コロナ禍は1年を超えましたが、ワクチンの普及などで遠くないうちに利用客は再び増えると見込み、一部の企業は投資の手を休めないという決断をしているわけです。一方で、老舗ホテルの中には大がかりな老朽化対策にかける費用を捻出する見込みがたたないという理由で営業終了に踏み切るホテルも少なくありません。また、空いている部屋を何とか活用したいとテレワーク専用に貸し出したり、お得な料金で連泊サービスを始めたりするホテルも増えています。東京オリンピック・パラリンピックでの外国人観光客も期待できなくなった今、攻めるホテル、あきらめるホテル、様子を見るホテルと戦略は分かれています。ホテル業界に関心のある就活生は、志望する企業が将来をどう見ていて今どういう手を打っているのか、調べるといいと思います。

(写真は、東京都港区の虎ノ門・麻布台の再開発地区のイメージ=森ビル提供)

ホテル増え一時は供給過剰の心配も

 日本には5万軒を超すホテル・旅館があります。広い部屋やサービスが売りでレストランや結婚式場などもあるシティーホテル、部屋は狭くサービスもあまりないが値段が比較的安いビジネスホテル、郊外や観光地に立地して長期宿泊もできるリゾートホテルなどに分かれています。訪日外国人観光客が増え、2020オリンピックが東京で開かれることが決まってからは、ホテルの開業が増え、オリンピック後には供給過剰になるのではないかと一時は心配されるくらいでした。

(写真は、開業したアパホテル&リゾート博多駅東=2021年3月9日、福岡市博多区)

客室稼働率が20%台に

 ホテルの繁盛ぶりは客室の稼働率で表されます。2019年までは東京で客室稼働率が80%を超えるなど、供給が足りない状態が続いていました。それがコロナ禍で一変。観光庁によると、2021年1月の客室稼働率はビジネスホテルで33.7%、シティーホテルで20.7%、リゾートホテルで15.0%などとなり、宿泊施設全体の平均は23.7%でした。これは需要がまったく足りない状態を表しています。

(写真は、マカロンをはじめとするフォションのスイーツをそろえるフォションホテル京都の1階売店「ペストリー&ブティック」=2021年3月9日、京都市下京区)

帝国ホテルの建て替えも話題に

 しかし、こんな状況でもホテルの開業の発表が相次いでいます。大阪市では3月16日、米ホテル大手マリオット・インターナショナル積水ハウスが「W Osaka」という高級ホテルを開業しました。京都市でも16日、パリの高級食材店の名を冠した「フォションホテル京都」が開業しました。このブランドのホテルはパリに次いで世界で2カ所目。こちらも高級ホテルです。星野リゾートも16日、京都に今秋までにホテルを3カ所で開業すると発表しました。都市観光客に特化したホテル「OMO(おも)」です。星野リゾートは大阪市新今宮駅前で建設中の大型ホテル「OMO7」についても2022年春に開業する予定です。福岡市では3月15日に「ホテルJALシティ福岡天神」が開業しました。アパグループもJR博多駅近くに2棟のホテルを開業しました。東京では、森ビルが港区の虎ノ門・麻布台の再開発地区に最高級ホテル「アマン」の新ブランド「ジャヌ東京」を2023年に開業する予定です。また、名門である帝国ホテルの建て替えも話題になっています。帝国ホテルは1890年に竣工し、現在の本館は1970年に開業しました。老朽化してきたため周辺の再開発にあわせて建て替えると伝えられています。新しい本館は2036年度に完成するといわれています。こうした「攻めているホテル」はいずれも「コロナ禍は遠くないうちにおさまり、その後は需要が戻ってくる」とみています。

(写真は、帝国ホテル東京=2021年2月、東京都千代田区)

営業やめる名門ホテル

 一方で営業をやめるホテルもあります。東京都千代田区にあるホテルグランドパレスは6月いっぱいでの営業終了を決めました。プロ野球のドラフト会議が開かれていた名門ホテルですが、外国人客の比率が高くてコロナの打撃を受けたことや老朽化したことが原因だそうです。このほか、広島市のホテルニューヒロデン、富山市の富山第一ホテル、鹿児島県霧島市の霧島国際ホテルなど、地域の名門ホテルも老朽化対策をする体力がなく、今年に入って閉館したり閉館を決めたりしています。

(写真は、今年6月末で営業を終えるホテルグランドパレス=2021年2月、東京都千代田区)

夢の高級ホテル暮らし

 今の苦境をしのぐため空き部屋を活用する新サービスを打ち出しているホテルもたくさんあります。ホテルニューオータニ大阪ではテレワークに使ってもらおうと、午前8時から午後8時まで30日連続で税込み30万円というプランを提供しています。帝国ホテル東京では、朝食付きで2人まで宿泊できる30泊36万円のプランを提供しています。夢の高級ホテル暮らしが今ならできるということで、人気が高いそうです。

(写真は、ホテルニューオータニ大阪の客室。30日間連続で使える定額制を始めた=同ホテル提供)

長期的な将来性は変わらず

 日本は観光立国を打ち出し、2020年には訪日外国人客を4000万人、2030年には6000万人という目標を立ててきました。大学には観光学部が新設されるところも目立ちます。ホテルは就職先としても関心を持たれてきましたが、ここにきて業界の短期的な将来性は不透明と言うしかなくなりました。しかし、日本の魅力はこの先も変わらないはずですから、長期的には将来性のある業界であることは変わらないと思います。

(写真は、大阪・心斎橋に開業したホテル「W Osaka」の入り口=マリオット・インターナショナル提供)

◆人気企業に勤める女性社員のインタビューなど、「なりたい自分」になるための情報満載。私らしさを探す就活サイト「Will活」はこちらから。

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから

アーカイブ

業界別

月別