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2021年03月05日

ビジネスモデル転換できるか百貨店業界【業界研究ニュース】

流通

 百貨店業界が苦しんでいます。もともとスーパーマーケット、コンビニエンスストア、インターネット通販などの新しい業態におされてじわじわと地盤沈下していましたが、コロナ禍によって、休業を余儀なくされたり、インバウンド需要がなくなったり、外出する人が少なくなったりという何重ものパンチを受けて、苦しさが増しています。経済産業省は百貨店にビジネスモデルの転換を求める研究会を作りました。今のままではじり貧は免れず、ビジネスモデルそのものを変えないといけないという認識です。一業界のビジネスモデルを考えるのに官庁が乗り出すのは、珍しいことです。かつて百貨店は街の真ん中にそびえ、よそ行きの服を着てワクワクしながら行くような場所でした。流行や文化を感じることができる大きな存在だったともいえます。かつては就活生にも人気のある業界でした。百貨店はその輝きをどうすれば取り戻せるのか、正念場を迎えています。

(写真は、マスクをつけた銀座三越のライオン像。三越の象徴的な存在だ=2020年8月1日午後、東京都中央区)

50年ぶりに200店きる

 日本百貨店協会によると、百貨店を経営している会社は全国に74社あり、店舗数は2020末時点で196店です。ただ、2020年は2019年に比べて12店も減りました。200店をきったのは1970年以来50年ぶりだそうです。1月には創業300年を超す山形市の大沼山形本店が営業を終了し、この時点で全国の県庁所在地で唯一百貨店のない市となりました。8月には徳島市のそごう徳島店が閉店し、こちらは全国で唯一県内に百貨店がひとつもない空白県となりました。こうした百貨店の閉店はアメリカでも起こっています。20年にはテキサス州の老舗百貨店のニーマン・マーカスJCペニー経営破綻しました。世界的に百貨店という業態が苦しんでいるのです。

(写真は、開店時刻を過ぎてもシャッターが閉まったままの大沼山形本店。周囲には報道陣も集まっていた=2020年1月27日午前、山形市七日町1丁目)

衣料品が食料品に抜かれる

 2020年の百貨店業界全体の売上高は前年に比べて25.7%減り、4兆2204億円でした。ピークだった1991年の9兆7130億円に比べると半分以下で、1975年以来の低い水準となりました。コロナ禍によって、訪日外国人のインバウンド需要が80%以上も減ったことに加え、4、5月の緊急事態宣言中に休業したことや外出する人自体が減ったことが影響しています。百貨店でもっとも売り上げが大きいのは衣料品でしたが、2020年は31%も減ったため、16%減にとどまった食料品に抜かれました。巣ごもりでよそ行きの衣料品が売れなくなったことが打撃となっています。2021年もコロナ禍はおさまっていないため、厳しい状況は続くとみられています。

(グラフは、コロナ禍で急減した百貨店の売上高)

オンラインのサービスを強化

 現在、百貨店で大手とされるのは、三越伊勢丹ホールディングス大丸松坂屋Jフロントリテイリング阪急百貨店阪神百貨店エイチ・ツー・オーリテイリング高島屋そごう・西武の5社です。各社が状況を打開しようと強化しているのがオンラインのサービスです。客は専用アプリをダウンロードすれば商品を自宅で品定めでき、さらに予約をすれば販売員からリモートで商品の説明を受けることができます。これまで対面でしていたサービスをオンラインでしようというわけです。また、日本の製品を中国など海外のネット通販で売る事業も好調だそうです。ほかにも三越伊勢丹ホールディングスは全国の地方都市に小型店を多数出店し、小さな投資額でオンラインを活用して成長しようとしています。Jフロントリテイリングは完全子会社化したパルコと連携して若者向けの店作りをしています。

(写真は、画面越しにボディークリームについて説明する伊勢丹新宿本店の化粧品の販売員=2020年11月25日、東京都新宿区)

未来への答えを考える

 百貨店の苦境については、短期と長期を分けて考える必要があります。短期の問題はコロナ禍です。打撃は大きいのですが、いずれ終息すると考えられます。終息すれば、消費は一気に回復し、インバウンド需要や高級品需要も戻ってくることが期待できます。長期の地盤沈下という問題のほうがより深刻です。豪華な建物、丁寧で上品な接客、信頼できる品ぞろえなどはどこまで必要でどこまで必要でないのか。新たに加えるべき価値や魅力は何なのか。ショッピングモールやネット通販にはない買い物の楽しみや満足感を与えられれば、まだまだ百貨店の未来はあるはずですが、それができるかどうか、答えは出ていません。答えを一緒に考えたいという人は挑戦してみてください。

(写真は、コロナ禍でスーツが売れない中、紳士服売り場フロアに新設された化粧品コーナー=2021年2月26日、横浜市のそごう横浜店)

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