業界研究ニュース 略歴

2021年02月19日

旅行会社がワクチン接種業務…コロナ乗り切れば成長産業【業界研究ニュース】

旅行・ホテル

 旅行業界は新型コロナウイルスによる打撃を強く受け、厳しい冬の時代を送っています。2019年までは訪日旅行客の増加などで順調に成長し、就職人気も高い業界でしたが、2020年のコロナ禍で一変しました。大手は各社とも赤字決算に追い込まれ、希望退職を募集したり店舗を削減したりするリストラ策を強化しています。それに伴い大手では2022年度の新卒採用を見送るところが多くなっています。コロナ禍が終息すれば、旅行需要は間違いなく盛り上がると考えられますが、終息の時期が見通せないのがつらいところです。問題はこの厳冬期をどうやって耐え忍ぶかというところで、各社は、ワクチン接種などの省庁の事務局業務、飲食、物販、人材派遣など旅行以外の事業に力を入れようとしています。耐え忍ぶことができれば、春は必ずやってくるでしょう。旅行業界に関心のある人は可能性を捨てずに情勢を見ていてください。

(写真は、観光支援策「Go To トラベル」事業が停止され、閑散とした浅草・仲見世通りの商店。ポスターは貼られたままだった=2020年12月28日、東京都台東区)

旅行を企画販売するのが旅行業

 旅行業界とは、旅行業法で旅行業と旅行業者代理業をすることを認められた会社の集まりをいいます。言葉からは観光や宿泊に関わればすべて旅行業のように思うかもしれませんが、一般的には旅行を企画したりそれを販売したりする事業を旅行業と呼んでいます。業界団体の日本旅行業協会に入っている会員は正会員と協力会員をあわせて約1500社あります。大企業から小企業まで規模には幅があります。売り上げが最も大きいのはJTBで、次いでエイチ・アイ・エス(HIS)、3位が「近畿日本ツーリスト」などを展開するKNT-CTホールディングスです。

(写真は、JTBの店舗=2015年8月、名古屋市)

大手の業績は惨憺たるもの

 各社とも2020年度の業績は惨憺たるものになっています。最大手のJTBは2020年度上半期売上高が前年同期比81.1%減の1298億円でした。海外旅行の需要は蒸発し、頼みの国内旅行も前年同期の15%しかありませんでした。下半期もこうした状況は続いており、通期経常損益は1000億円の赤字とみています。エイチ・アイ・エスも上半期で純損益が250億円の赤字になりました。KNT-CTホールディングスはさらに厳しく、2020年12月末時点で34億円の債務超過に陥りました。債務超過とは、負債総額が資産総額を上回る状態で、会社のすべての資産を売っても負債がまだ残ります。この状態が続けば上場廃止となります。

オンライン型に押される流れ

 各社が手をつけているのがリストラ策です。JTBは人員と店舗をそれぞれ2割削減、エイチ・アイ・エスは海外人員の3割削減と国内店舗の4割削減、KNT-CTホールディングスは人員の3割強削減と国内店舗の6割強削減を打ち出しています。ただ、こうした流れは突然出てきたものではなく、コロナ禍前からある程度予想されていました。旅行業界大手はたくさんの店舗を抱えて対面で旅行商品を販売する店舗型が主力の旅行会社です。こうした大手は、店舗を持たずインターネットで販売する楽天トラベルじゃらんnetのようなオンライン型旅行会社に押される流れにあり、店舗型からオンライン型への移行が迫られていました。コロナ禍はその流れを一気に進めるきっかけになったともいえます。

そば店の経営を始める

 生き延びる策として、リストラだけでなく旅行業以外の事業に力を入れ始めています。新型コロナのワクチン接種事務はそのひとつです。旅行会社が持っている予約の管理や接客ノウハウを生かそうという狙いです。大手の日本旅行は数十の自治体から予約システムの構築・管理やコールセンターの運営などの業務を受託しました。JTBやKNT-CTホールディングスも自治体から接種業務を受託しています。エイチ・アイ・エスは2020年10月に「満点ノ 秀そば」というそば店の運営を始め、将来的には100店舗の展開を目指しています。

(写真は、新型コロナワクチン集団接種の会場運営訓練=2021年1月27日、川崎市立看護大)

長い目で見れば成長産業

 旅行業界はコロナ禍を生き延びることができれば、再び成長軌道に乗るとみられています。民泊仲介サイト大手のアメリカのAirbnb(エアビーアンドビー)は2020年12月にアメリカの株式市場に上場しました。するとコロナ後を見据えた買い注文が殺到し、初値は売り出し価格の2倍以上がつきました。人々はワクチン接種が広がれば旅行需要も急回復するとみているのです。特にオンライン販売や個人が自由に設計できる旅行など、時代の流れに乗った旅行会社は一気に業績が回復する可能性があります。コロナ禍で改めて旅行ができる幸せを感じた人は多いはずで、旅行業界は長い目で見ればやはり成長産業だと思います。

(写真は、「Go To トラベル」でにぎわった浅草=2020年10月3日、東京都台東区)

◆人気企業に勤める女性社員のインタビューなど、「なりたい自分」になるための情報満載。私らしさを探す就活サイト「Will活」はこちらから。

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから

アーカイブ

業界別

月別