日本を訪れる外国人観光客が増え続けています。9月の訪日外国人客は326万6800人で9月としては過去最多でした。2025年1~9月の累計は3165万500人で、前年同期に比べて17.7%増えています。2025年通年では4000万人を超えることが確実視されていて、高すぎるように思えた「2030年に6000万人」という政府の目標にも着実に近づいています。
ただ、外国人客が旅行に使う費用が日本の旅行会社の売り上げを押し上げる効果は小さく、日本の旅行会社にとっては日本人旅行客の国内旅行や海外旅行の伸びへの期待が大きくなっています。実際、夏休みの国内旅行は伸びましたし、日本人の出国者数も増えており、コロナ禍の苦境は脱しました。ただ、それでも円安などの影響で日本人の出国者数は過去最多だった2019年をまだ大きく下回っており、日本人の海外旅行需要が盛り上がっているとはいえない状況です。旅行業界が本格的に伸びていくには、日本人の海外旅行がカギになるでしょう。
(写真・訪日客でにぎわう銀座=2025年9月12日、東京都中央区/写真、図版はすべて朝日新聞社)
全国で1万を超える旅行会社がある
旅行業をしようと思うと、旅行業法に基づく観光庁長官または都道府県知事への登録が必要です。旅行業者の業界団体の日本旅行業協会(JATA)によると、海外旅行についても国内旅行についても企画販売できる第一種旅行業者は627社(2023年)あります。このほか、企画できる旅行が制限される第二種旅行業者や第三種旅行業者、代理で販売できる代理業者や旅行サービスを手配できる会社もあります。こうした業者はすべてあわせると全国で1万を超えますが、大手はひとにぎりでほとんどは中小業者という構造になっています。
実店舗を持つ会社とオンライン専門の会社
大手旅行会社には、実店舗を持つ旅行会社とオンライン専門の旅行会社があります。実店舗を持つ旅行会社で一般的に大手といわれるのはJTBグループ、日本旅行、エイチ・アイ・エス、阪急交通社、 KNT-CTホールディングスの5社です。このうち、売上高が圧倒的に大きいのがJTBグループで1兆円を超え、ほかの4社は3000億円台の売上高で2位グループを形成しています。この5社のほか東武トップツアーズとジャルパックは1千億円以上の売り上げがあり、大手に含める場合があります。オンライン専門の旅行サービスで有名なものは楽天グループの「楽天トラベル」、リクルートの「じゃらんnet」、LINEヤフーの子会社、一休の「一休.COM」などのほか、海外を拠点とする「Booking.com」や「Agoda」なども使われています。オンライン専門の会社は業績が伸びており、実店舗を持つ旅行会社もオンラインの取り組みに力を入れています。
JTBには半官半民の歴史があり、非上場企業
JTBは1912年に「ジャパン・ツーリスト・ビューロー」の社名で民間会社として誕生しました。敗戦後、財団法人の日本交通公社として再出発し、東京オリンピックの前年の1963年には株式会社化しましたが、社名はなじみのある日本交通公社のままとしました。1988年にはそれまで略称として使っていたJTBを正式な呼称とし、2001年には社名もジェイティービー(現在の社名はJTB)としました。JTBにはこうした半官半民だった歴史があることもあって、株式を公開していません。
日本旅行も1905年創業という古い歴史を持ち、今では旅行事業のほか中央省庁や地方自治体と一緒に社会課題の解決に取り組む事業にも力を入れています。エイチ・アイ・エスは1980年に安価な海外旅行を提供するベンチャー企業として設立され、現在も海外旅行に強みを持っています。阪急交通社は阪急電鉄(現・阪急阪神グループホールデイングス)の事業として出発した会社です。企業への販売やメディアを使った宣伝力に強みを持っています。KNT-CTホールディングスは、近畿日本ツーリストとクラブツーリズムが2013年に経営統合してできた会社で、それぞれのブランドを使った事業は今も残っています。
(写真・JTB本社ビル=2021年9月、東京都品川区)
お金を使わなくなった外国人観光客
訪日外国人客の増加は日本の旅行会社にとっても悪い話ではありません。ただ、課題もあります。ひとつは、オーバーツーリズムの問題です。外国人客が多すぎて公共交通機関が混雑したり、宿泊代が高騰したり、民泊による騒音やごみの不法投棄があったりと日本人観光客や地元住人に迷惑がかかることです。基本的には国や自治体が解決する問題ですが、旅行会社も対策を考えないといけません。また、外国人観光客が日本で使うお金が減っている現象も旅行業界と無関係ではありません。大手百貨店の2025年8月中間決算は減収減益傾向で、その原因は訪日外国人客の消費意欲が減退していることだと百貨店業界は分析しています。「爆買い」といわれた少し前の状態が異常だったとも言えますが、外国人客がお金を使わなくなれば、旅行会社にもマイナスの影響があると考えられます。
(写真・踏切近くで江ノ島電鉄の車両を撮影する観光客たち=2025年9月6日、神奈川県鎌倉市)
観光業界の人手不足も悪影響
観光業界の人手不足も旅行会社に悪影響を与えます。旅館、ホテル、飲食店、バス会社などではコロナ禍で従業員が離れたところが多く、その穴が埋まらないうちに外国人客が急増している状態です。旅館、ホテルなどでは人手不足のために宿泊を希望する客を断らざるを得ないこともあるそうです。デジタル技術の活用やロボットの導入、外国人労働者の採用などが対策としてあげられますが、一朝一夕に解決できることではありません。旅行会社も宿泊場所やバスの確保に苦労したり、旅行代金の値上げに追い込まれたりしています。
戦争や大災害で需要が急に落ち込むことも
旅行会社は旅行好きでコミュニケーション能力の高い人にとっては魅力的な仕事だと思います。そうした人は、旅行を企画したり、広告を考えたり、ツアーコンダクターをしたり、カウンターでお客さんに対応したりする仕事にワクワクする感覚を覚えるのではないでしょうか。また、官公庁や企業や学校などの法人に対して営業で回る仕事やサイトを運営したりする仕事も旅行好きでコミュニケーション能力が高い人だと苦にならないのではないでしょうか。一方、コロナ禍のような病気のまん延、戦争、大災害、航空機事故などによって需要が急に落ち込むことのある業界でもあります。また、旅行には様々なトラブルもつきものです。そうした逆境を乗り切らないといけない場合もあるでしょう。当たり前ですが、志望する人は楽しい仕事だけではないことも知っておきましょう。
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