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2021年04月02日

宅配3社の荷物が過去最多 デジタルで人手不足カバー【業界研究ニュース】

運輸

 宅配便業界がコロナ禍で伸びています。巣ごもり需要が追い風となって、2020年度の大手3社の取り扱い個数は過去最多になりそうです。受け取りのハンコを必要としない置き配や受け取る場所の広がりなどで、ドライバーの配達効率も上がっています。ただ、課題もあります。ドライバーなどの人手不足が解決するめどはたっていません。コロナ禍で仕事が減った飲食業などからの転職者は増えていますが、個数も増えているため、忙しさは変わりません。また、大型免許の保有者が高齢化しており、長距離運送への対応が難しくなっています。各社は人手を補う設備投資を増やして、乗り切ろうとしています。IT技術を使った最新鋭の仕分けをする中継施設を新設したり、配達効率を高めるデジタル技術を開発したりすることに力を入れています。さらに将来の自動運転トラックを見据えた構想も練っています。社会のデジタル化が進んでも、リアルなモノがいらなくなることはありません。逆にデジタル化に伴ってますますモノを運ぶ仕事は増えると考えられます。

(写真は、宅配便の中継施設。荷物を自動で振り分ける=東京都江東区、佐川急便提供)

ヤマトは年間20億個超に

 宅配便業界は、ヤマト運輸佐川急便日本郵便の大手3社が大きなシェアを占めています。コロナ禍で2020年度に取り扱う荷物数は過去最多を更新したとみられています。見込みでは、最大手のヤマト運輸が16%増の20億8400万個、2番手の佐川急便が6%増の13億9400万個といずれも過去最多の個数を想定しています。日本郵便は見通しを明らかにしていませんが、2020年4月から2021年1月までの「ゆうパック」の累計が前年同期比14%増の9億2400万個になっています。各社とも自宅ポストで受け取れる小型荷物の伸びが特に大きくなっています。

自動配達ロボットを実験

 業界では、ドライバーを疲弊させる再配達を減らすことが課題でした。コロナ禍で直接対面しない受け取りが顧客から求められ、玄関前などに置いておく置き配が進みました。今のところ大きな問題もなく、ドライバーの配達の効率化に役立っています。また、受け取り場所を広げる動きもあります。ヤマト運輸は電子商取引サイトで購入した荷物を全国の百貨店やドラッグストアなどで受け取れるようサービスを拡大しています。日本郵便はオートロックのマンションの中に自動配達ロボットを置いて、そのロボットが配達する仕組みの実用化を目指して実験しています。

(写真は、郵便物を積んで横断歩道を渡る配送ロボット=2020年10月7日、東京都千代田区)

日本郵便は楽天との提携に動く

 3番手の日本郵便は他社との提携買収によって、上位2社に迫りたい考えです。3月には親会社の日本郵政楽天資本業務提携すると発表しました。日本郵便は郵便事業の成長が見込みにくいため、宅配事業に力を入れようとしています。国内のネット通販アマゾンと並ぶ2強の楽天と組んで共同の物流拠点を設けたり効率的な配送システムを構築したりして、取扱個数を増やそうとしています。また、日本郵政は海外企業の買収もしました。2015年にオーストラリア物流大手のトールを買いました。ただ、トールの赤字体質は変わらず、今はオーストラリアとニュージーランドで宅配便などを展開する「エクスプレス事業」を売却する方針を打ち出しています。この買収は迷走気味で日本郵便の戦略が成功しているとはいえない状況です。

(写真は、資本業務提携を発表した日本郵政の増田寛也社長〈右〉と、楽天の三木谷浩史会長兼社長=2021年3月12日、東京都千代田区)

デジタル技術や人工知能がカギ

 宅配便の需要はコロナが収束しても落ちることはないとみられています。一方でコロナが収束すれば、景気が過熱し人手不足感はさらに強まりそうです。そこを見越して、デジタル技術を使った仕分けやドライバーの配達効率の向上にさらに投資していく必要があります。トラックの無人運転の実用化も近づいています。2月には国土交通省経済産業省が、新東名高速道路でトラック3台による隊列走行実験に成功しました。先頭のトラックはドライバーが運転しますが、続く2台は無人運転で高速道路を走りました。将来、ドライバーのいないトラックが公道を走るようになる第一歩です。宅配業界は人手に頼る業界でしたが、これからは先端のデジタル技術や人工知能(AI)をいかに取り入れることができるかがカギになると思います。

(写真は、無人隊列走行の実験の様子。後ろ2台のトラックには運転者がおらず先頭車を追走している=豊田通商提供=画像を一部加工)

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