クルマの概念が変わる!
「100年に一度のクルマ革命」の続編は「自動運転」です。一部はすでに実現しています。我が家は最近、車を買い替えたのですが、前を走る車を自動追尾する機能が装備されているため、高速道路でも街中でも、機能をセットすれば、アクセルもブレーキも踏まずに走れます。今までの「車を運転する」のとはなんだか違う感覚です。うちの車の場合、カーブでのハンドル操作は必要ですが、新型車の中には自動で車線を維持してくれるものも出ています(今の法律ではハンドルから手を離すことはできません)。近い将来、「完全自動運転」が実現すれば、車は人が運転するものではなくなり、単なる「人が移動するための箱」になる時代がやってくるでしょう。今、自動車の概念すら変わりかねない「クルマ革命」が進行しているのです。自動車は日本経済の根幹を支える産業ですし、移動や輸送に無関係な業界はほとんどありません。自動運転が自分の志望業界にどんな変化をもたらすか、新しいビジネスはできないか。みんなが考えなければなりません。
(写真は、自動運転バスを使った実証実験=7月18日)
2020年代前半に「レベル4」
自動運転には5段階あります(表参照)。自動ブレーキや車線をはみ出したときの警告といった「レベル1」は今や当たり前で、日産自動車は「レベル2」の技術を搭載した「セレナ」「エクストレイル」をすでに販売し、ヒットしています。トヨタ自動車は2020年をめどに高速道路で追い越しや合流ができる自動運転の実現を目指してきましたが、2017年7月、歩行者や交差点がある一般道も自動で走れる「レべル4」を2020年代前半に導入する方針を発表しました。技術開発を急ぐため2016年には自動運転に欠かせない人工知能(AI)を研究する子会社を米国に設立。2018年5月には自動運転に強い米半導体大手エヌビディアとも提携しました。ただ、欧米企業の目標はもっと早く、米国のフォード・モーターやドイツのBMWは「レベル4」以上にあたる「完全自動運転」を2021年までに投入するとしています。
「愛」はいらない…IT企業が有利?
電気自動車(EV)の回で車づくりに電機メーカーやIT企業が参入していると書きましたが、自動運転には高度なAIが不可欠です。インターネットとのつながりも欠かせません。この分野はIT企業がかなり先行している分野です。実際、米国のグーグルやアップル、日本のDeNA(ディーエヌエー)が自動運転車の開発に乗り出しています。「100年に一度のクルマ革命」によって、車づくりの主役は自動車メーカーからIT企業にとって変わられるかもしれないのです。たくさんのセンサーやカメラ、モーターも必要ですから、電機や電子部品のメーカーも大いに関わります。
最近、トヨタの豊田章男社長が助手席に俳優の佐藤健さんを乗せてレーシングカーを運転するコマーシャルが放映されました。豊田社長は「数ある工業製品の中で『愛』が付くのは自動車だけ。自動運転は交通事故をゼロにしたり、すべての人にFUN TO DRIVEを、そのために技術を使うことなんじゃないかと思う。自動車会社はそこへのこだわりを持っていたい」と、車への愛とモノづくりへのプライドを熱く語っています。ホンダの副社長も「(IT企業にとっては)ある意味で運転することが『悪』なんです。ホンダは運転する楽しみを大事にしていて、行き着くところが違う。ハンドルがない車なんて考えていない」と言います。
自動車メーカーは「車を運転する喜び」を追求し、人が運転することに価値を見いだしてきた会社です。一方で、IT企業に「運転」への愛着はありません。いかに楽で便利に移動できるかをドライに追求し、最初からハンドルも運転席もない車を目指しています。もしかすると、完全自動運転に向けては、IT企業のほうが有利と言えるのかもしれません。
(写真は、シリコンバレーを走るグーグルの自動運転実験車)
社会はどう変わる?
完全自動運転が実現し普及すると、世の中はどう変わるのでしょう。
◆人の不注意や居眠りなど人為的な事故はなくなり交通事故が劇的に減る
◆高速道のトンネルや坂道で発生する自然渋滞や事故渋滞が減り、車での移動が効率的になる
◆運転手の人件費がかからないため、タクシー料金が安くなる
◆長距離トラックが何台も連なって走る「隊列走行」などで輸送効率が良くなり、運送料が下がる。多くの商品の値段が下がる可能性も
◆トラックの運転手不足が解消
◆高齢者や身体が不自由な人が自由に移動できるようになる
◆公共交通機関を維持できない過疎地の移動手段を確保できる
◆移動中の車内が娯楽の場になり、車中でのエンターテインメントが盛んに
ざっと思いつくだけでも、こんなにあります。事故が減れば、損害保険会社の主力商品である自動車保険のあり方も根本的に変わりますよね。みなさんも関心のある業界・企業への影響を考えてみましょう。面接で語れますよ。
事故起きたら誰の責任?
完全自動運転の実現には高いハードルもあります。まず法整備です。事故が起きたら誰の責任なのか。車の利用者か、所有者か、メーカーか。今の法律では想定していない事態です。
どんな状況でもシステム全体が正常に動く精度も求められます。道路情報などがインターネットを通じてやりとりされます。もしサイバー攻撃でシステムが狂えば、大惨事も起きかねません。こうした事態を防ぐところにもビジネスチャンスがあります。課題についても考えてみてください。