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2022年04月22日

ビール大手4社、安定の中の変化と違い…飲めない人もOK?【業界研究ニュース】

食品・飲料

逆風の中でも、安定の4社体制が続くビール業界

 業界地図は、短期間で大きく変わる業界もあれば、長く大きな変化のないところもあります。ビール業界はあまり変化のない業界のひとつです。1963年に洋酒メーカーのサントリーが参入し、大手4社体制になりましたが、それから約60年たった今も同じ4社体制が続いています。1980年代後半から1990年代にかけて、業界4位だったアサヒビールが「スーパードライ」の大ヒットで、一気に首位争いをする位置まで上がったという順位変動はありましたが、それが唯一の大きな変動と言えます。ビール好きには飲みなれたブランドがあり、消費者が一気に動くような新商品が生まれにくいことや、全国規模のビール会社を立ち上げるには工場や販売網に膨大な投資が必要なため大型の新規参入がむずかしいことなどが、大手4社体制が続いている理由です。ただ、だからといって4社が安穏としていていいわけではありません。人口減少や健康志向の高まりなどから国内のビール市場は少しずつ小さくなっています。新しい領域を開拓しなければジリ貧になるのは目に見えています。そのため、4社は低アルコールやノンアルコールのビールに力を入れたり、海外事業にシフトしたり、健康医薬分野に大きな投資をしたりしています。

(写真は、キリンビールの「本麒麟」など第3のビール売り場=同社提供)

キリン、アサヒ、サントリー、サッポロが大手

 国内のビール系飲料を製造している事業所は全国に数百か所あります。多くは、クラフトビール地ビール)の製造業者の事業所で、中小企業がほとんどです。大手ビール会社はビール酒造組合という業界団体をつくっていて、キリンビール、アサヒビール、サントリービール、サッポロビールオリオンビールの5社が会員です。このうちオリオンビールは沖縄に本社を置き、沖縄地方を中心に販売しているメーカーです。規模の大きいのは残る4社で、この4社を大手とよんでいます。

(写真は、アサヒビールの新しい「スーパードライ」=2022年1月6日、東京都中央区)

ビール系のシェアはキリンとアサヒが首位争い

 2021年12月期の大手4社の決算を見ると、売上高が最も大きいのはサントリーホールディングス(HD)で、2兆5592億円でした。2位がアサヒグループHDで2兆2360億円、3位がキリンHDで1兆8215億円、4位がサッポロHDで4371億円でした。ただ、サントリーはウイスキーなどビール以外の分野が大きく、ビール系飲料(ビール・発泡酒第3のビール)のシェアにしぼると、キリンとアサヒが30%台で首位を競っており、サントリーが10%台後半、サッポロが10%台前半とみられています。

国内の出荷量は17年連続減

 ビール系飲料の消費量は年々減っています。キリンビールによると、国内のビール系飲料の2021年の出荷量は前年比約5%減で、17年連続で縮小しています。2021年はコロナ禍の影響で「家飲み」が増えましたが、飲食店向けの落ち込みを補えませんでした。ただ、大手4社の2021年12月期決算をみると、3社が増収でした。国内は落ちたものの海外で伸ばしたためです。キリンは、政情不安のミャンマーから撤退することを決めて損失を計上したことなどもあり、減収減益となりました。

本格的ビールに力入れる

 国内のビール系飲料の落ち込みは今後も続くとみて、各社とも対策をとっています。そのひとつが本格的ビールの復活です。ビール系飲料はこれまでビール、発泡酒、第3のビールの三つのジャンルに分かれていました。酒税の税率が違ったためです。しかし、税率を別々にする合理性がないという意見が強く、2020年10月にこれまで高かったビールの税率が下がり、低かった第3のビールの税率が上がりました。2023年10月にはさらにその差が縮まり、2026年10月にはこの3ジャンルの税率が同じになる予定です。そうなると価格差がぐっと縮まるため本格的なビールが消費者に選ばれるとみているのです。たとえば、アサヒはかつて販売していた「アサヒ生ビール」を復活させて、新たな定番商品として売り出しています。サッポロは、高級ブランドの「エビスビール」をてこ入れすることにしています。

「ノンアル低アル」戦略

 また、アルコール度数が低めやゼロのビール風味の飲料にも力を入れています。「ノンアル低アル」戦略です。こうした飲料はこれまで「ビールが飲めないときの代替品」というイメージでしたが、「リフレッシュしたいときに好んで飲むもの」へとイメージを変えようとしています。アルコールに弱い人にも市場を広げたいという考えです。また、健康に悪影響を及ぼす可能性のあるアルコールについては、世界保健機関(WHO)の警告で各国が規制を強化する動きが出ることも考えられ、それを警戒して先手を打つ意味もあるようです。

(写真は、「ノンアル低アル」飲料を取りそろえたバーの東京・渋谷への出店を発表したアサヒビールの松山一雄専務〈左端〉ら=2022年4月20日、東京都墨田区)

サントリーやアサヒは海外比率が半分に

 海外事業の強化にも力を入れています。各社はこの十数年、海外の飲料メーカーを買収したり、海外に自社工場をつくったりしてきました。サントリーやアサヒは、今や売上高に占める海外比率が50%前後に達しています。海外市場はまだまだ開拓の余地があるため、今後も新たな海外展開を進めるとみられています。ただ、キリンはこれまで、買収したブラジルのメーカーの経営が悪化して1140億円の特別損失を計上したり、ミャンマーからの撤退で680億円の減損損失を計上したりしています。海外事業はその国の政治情勢や国際情勢に左右されやすく、国内の事業以上にリスクがあるため、大胆かつ慎重に投資判断をしなければならないことを示しています。

お酒を飲めないといけないのか

 大手ビール会社はどこも伝統のある大企業で、経営は比較的安定しています。会社名とブランド名が同じということもあって、高い知名度もあります。働きやすそうで就職したいと思う人は少なくないと思います。ただ、気になるのは、「お酒(ビール)を飲めないといけないのか」ということです。ずいぶん前ですが、わたしが経済記者としてビール業界を担当していた時は、取材先に飲めない人はほとんどいませんでした。でも、今は「ノンアル低アル」の時代です。ビールメーカーとはいえ職場はいろいろありますし、飲めないことがむしろプラスに働くケースもあるのではないでしょうか。お酒(ビール)を飲めないけれども働きたいという人は、志望企業の人に正直に聞いてみるのがいいと思います。

 少し前の記事ですが、こちらも参考にしてください。
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