ハンバーガーや牛丼などのファストフード業界に追い風と向かい風が同時に吹いています。追い風は、コロナ禍による規制が緩み、外食需要が増えていることです。業界はコロナ禍で巣ごもり需要の恩恵を受けたところもありますが、収束はやはり追い風という受け止め方が大勢です。一方、ロシアによるウクライナ侵攻の影響や世界的な需要回復により、小麦や牛肉など原材料の値段が上がっていることは向かい風です。商品の値上げでは原材料費の高騰をまかないきれず、利益は圧縮される傾向にあります。ただ、長い目で見て、海外進出などのために優秀な人材を確保しようと、賃上げに積極的です。牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーホールディングス(HD)は月給を4月から平均3万2864円(9.50%)引き上げます。こうした給与水準改善の動きは、業界に関心を持つ就活生には追い風といえるでしょう。
(写真・東京都内にある「すき家」の店舗)
売上高トップはゼンショーHD
「うまい、やすい、はやい」という宣伝文句に代表されるファストフード業界は、ハンバーガーや牛丼を中心に成長してきました。売上高が最も大きいのは、ゼンショーHDで6585億円(2022年3月期)です。「すき家」に加えて、親子丼などの「なか卯」、ファミリーレストランの「ココス」、回転ずしの「はま寿司」などを幅広く展開しています。2位は日本マクドナルドホールディングス(HD)で3523億円(22年12月期)。1971年に日本最初のハンバーガー店を東京・銀座に開き、現在は約3000の店を全国に展開しています。3位は牛丼の「吉野家」を展開する吉野家ホールディングス(HD)で1536億円(22年2月期)です。コロナ禍で21年2月期は赤字になりましたが、その後回復しました。
(写真・東京・銀座の三越に出店しにぎわったマクドナルドの日本1号店。1977年撮影)
4位は讃岐うどんのトリドールHD
4位はトリドールホールディングス(HD)で、1534億円(22年3月期)です。その中心は「丸亀製麺」の名前で展開する讃岐うどんのチェーンです。ほかにもコーヒーショップや焼き鳥店などいろいろな業態の店舗があります。5位は「ケンタッキー・フライドチキン」で知られる日本KFCホールディングス(HD)で、975億円(22年3月期)。6位は牛丼の「松屋」を展開する松屋フーズホールディングス(HD)の944億円(22年3月期)で、7位は「モスバーガー」で知られるモスフードサービスの784億円(22年3月期)となっています。
丸亀うどん弁当が大ヒット
コロナ禍は業界に大きな影響を与えました。ハンバーガーは、巣ごもり需要を受けて持ち帰りが増え、業績は好調に推移しましたが、店舗で食べることの多い牛丼やうどんは大きな打撃を受けました。しかし、牛丼やうどんもテイクアウトやデリバリーに力を入れ、21年以降は回復してきました。牛丼はテイクアウト専門店をつくるなどし、一時はテイクアウトが主流という形になりました。また、うどんはテイクアウトが難しい商品でしたが、丸亀製麺の「丸亀うどん弁当」は大ヒットし、業績回復に大いに寄与しました。
(写真・ヒットした丸亀製麺の「うどん弁当」。袋に入っているつゆをかけて食べる)
ハンバーガーの値段は1.5倍超に
業界が今直面している問題はインフレです。パンやうどんの主原料となる小麦粉や、牛丼やハンバーグに使う輸入牛肉などの値段が上がっています。かつてマクドナルドや吉野家は「デフレの勝ち組」と言われましたが、インフレには弱さを見せています。マクドナルドの定番であるハンバーガーはここ1年以内で3度の値上げをし、1年前に比べると1.5倍超の170円になりました。また、鶏卵は鳥インフルエンザの流行が加わって確保することすら難しくなり、マクドナルドは卵を使った春の定番バーガー「てりたま」シリーズの販売を一部休止しました。今の状態が長く続くと、インフレやモノ不足が業績に打撃を与えることが予想されます。
ゼンショーはハンバーガー店も傘下に
ファストフード業界では、企業買収が盛んです。成長するために、ほかの業態のチェーンを買うことが手っ取り早いためです。最近では、2月にロッテホールディングス(HD)がハンバーガー店「ロッテリア」を運営する子会社をゼンショーHDに売却すると発表しました。ゼンショーHDは2009年に「ウェンディーズ」とのフランチャイズ契約が終了した後は、傘下にハンバーガー店がありませんでした。ゼンショーHDはまたひとつ重要な業態を増やしたことになります。
国際的な視野が欠かせない
業界はどこも海外展開に力を入れています。人口が減る日本国内では今後大きな成長は難しいとみて、海外の需要を取り込もうという狙いです。ゼンショーHDは「フード業世界一」を掲げて海外進出を進めています。世界全体の店舗数は10151店(22年9月末現在)にのぼり、このうちかなりの店舗が海外にあります。また、トリドールHDは全店舗数の約4割に当たる700店(23年1月現在)が海外にあります。アジアが494店、ヨーロッパが103店、アメリカが85店、中東・アフリカが18店となっています。さらに2028年には全世界で5500店舗という目標を掲げています。その段階では7割以上が海外店舗になる計画です。ファストフード業界で働く人には国際的な視野が欠かせなくなっているのです。
(写真・吉野家が2002年、米国・ニューヨークに1号店を開いたときのセレモニー)
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