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2023年03月31日

「安定」の生保業界、競争激化へ 商品多様化、海外進出も【業界研究ニュース】

銀行・証券・保険

 日本は生命保険大国といわれます。生命保険料の規模はアメリカ、中国に次いで世界で3番目の大きさです。戦後の日本では、「一家の大黒柱」を失うリスクが大きかったことに加え、女性外交員の販売力もあって、生命保険の契約をするのが当たり前の時代が続きました。しかし、家族構成や働き方が多様化する現代では、「一家の大黒柱」の存在は薄まっています。また、女性外交員に頼る販売方法も変わりつつあります。国内人口の減少という基本的な問題もあります。かつてのように、右肩上がりで契約数が増える時代ではなくなっています。このため、生命保険会社は、保険商品の範囲を、死亡保障から医療費や介護費の保障などに広げています。また、成長が期待されるアジアなどの海外市場への進出にも力を入れています。住友生命の高田幸徳社長が、朝日新聞のインタビューで、健康支援など保険以外の事業を強化する考えを示すなど、新しい動きもあります。これまでは比較的安定した業界でしたが、環境の変化に対応することを迫られています。

(写真・各社が加盟する業界団体、生命保険協会の看板)

日生、第一、明治安田、住友が大手4社

 生命保険商品を販売するには、金融庁の免許が必要です。国内で免許を取得している会社は42社あります。大手4社といわれるのが、日本生命第一生命ホールディングス明治安田生命、住友生命です。さらに、かんぽ生命大同生命太陽生命富国生命朝日生命を加えた大手9社、という表現もあります。42社の中には、外資系の会社も13社あります。メットライフ生命、プルデンシャル生命などです。

(写真・日本生命の看板)

多様化する販売手法

 保険商品の売り方は、会社によって違いがあります。伝統的な大手の会社は、販売外交員が顧客と対面で販売する方法を中心にしています。一方で、インターネットでの販売を中心にしている会社もあります。ライフネット生命、アクサダイレクト生命などです。また、 T&Dフィナンシャル生命、三井住友海上プライマリー生命などは、銀行の窓口での販売を中心にしています。

(写真・保険の代理店に並ぶ各社のロゴ)

大手に相互会社が多いことが特徴

 企業形態として特徴的なのは、大手に相互会社が多いことです。大手4社のうち、第一生命ホールディングスは株式会社になっていますが、ほかの3社は相互会社の形態をとっています。相互会社は、契約者が社員となり、会社の重要事項を決めるのは株主総会ではなく、社員の代表による総代会となります。これは生命保険会社の成り立ちの考え方が、助け合い(相互扶助)にあるためです。相互会社は利益を株主に配当せず、契約者(社員)だけに還元すればいいので、その点は契約者にとってはいい仕組みです。ただ、契約者のほとんどは、社員という意識のないため、総代は経営陣の意を受けた人になりやすく、経営をチェックする機能が効きにくいデメリットが指摘されます。また、株式会社は市場から資金を調達することができますが、相互会社は機関投資家と個別に交渉しなければならず、資金調達のハードルが上がります。また、相互会社は株式会社と合併したり株式会社を買収したりすることがむずかしく、業界の再編が進まない一因とされています。

(写真・東京の日比谷にある第一生命の建物)

市場に大きな影響を与える生保マネー

 生命保険会社は、契約者から預かった多額のお金を長期にわたって運用する機関投資家でもあります。資金は、他の企業への融資のほか、株、債券、不動産などで運用しています。その資金力の大きさから「生保マネー」といわれ、市場に大きな影響を与えています。一方で、金利の変動の影響を大きく受けます。2022年春からアメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が金利を引き上げています。債券の価格は、金利が上がると下がるので、生命保険会社は、米国債を中心に含み損が出ています。経営を左右するほどのものではないとされていますが、少し気になるところです。

成長が期待できる途上国に進出

 各社は、21世紀に入ったころから、海外進出に力を入れ始めました。人口が減る国内では成長の余地が小さいためです。アメリカ、アジア、オセアニアなどの生命保険会社を買収したり、出資したりしています。現在、日本生命は7カ国、第一生命ホールディングスは9カ国、明治安田生命と住友生命はそれぞれ5か国に進出しています。生命保険の契約者が伸びるのは、人口構成がピラミッド型の国とされているため、これからも途上国への進出が進む可能性があります。

遅れた業界再編 42社がひしめく

 生命保険業界は、バブル崩壊の影響から、20世紀末に一部の会社が破綻するなど苦難に陥りましたが、銀行や証券など他の金融機関に比べれば小さなダメージで乗り切りました。歴史のある大手には、分厚い資産があったためです。ただ、そのことは業界再編の遅れにもつながっています。大きくならない市場に42社がひしめき、競争は激しくなっています。「比較的安定した業界」というイメージは、変わっていくかもしれません。

(写真・1921年、大阪で撮影された野村生命のビル。戦後、東京生命保険となり2001年に経営破綻。その後、T&Dフィナンシャル生命保険として再建された)

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