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2023年04月14日

5大商社株を「投資の神様」が買い増し 「永遠に生き延びる」理由【業界研究ニュース】

商社

 「投資の神様」とも呼ばれるアメリカの大手投資会社バークシャー・ハサウェイの会長兼最高経営責任者(CEO)で、世界的な投資家のウォーレン・バフェット氏(92)が来日し、日本の「5大商社」の三菱商事三井物産伊藤忠商事丸紅住友商事への投資について、持ち株比率を2020年の5%超から7.4%まで高めたことを明らかにしました。また、商社は「これから約100年、そして永遠に生き延びるだろう」と話しました。この発言を受けて、商社の株価は急伸しました。バフェット氏が評価する通り、大手商社の業績は好調です。2022年9月中間決算では、大手7社のうち6社が過去最高益を更新しました。その後も好調を維持しており、三井物産は2023年3月期決算の純利益を上方修正し、初めて1兆円を超える見通しを出しました。三菱商事も純利益が1兆円を超える見通しとなっています。好業績の背景には、ロシアのウクライナ侵攻やコロナ禍からの回復などで資源やエネルギー価格が上昇したことがあります。資源やエネルギーの価格はここにきてやや下落してきましたが、商社のビジネスは幅が広いため、別の事業でカバーする体制ができています。そのため、バフェット氏が言うように、柔構造で耐久力がとても強い業界と言えます。今のようにビジネスチャンスがあれば何にでも食いついていくバイタリティーがある限り、商社はまだまだ発展する可能性がある業界だと思います。

(写真・朝日新聞のインタビューに答えるウォーレン・バフェット氏=4月11日、東京都内)

3大商社、5大商社、7大商社

 バフェット氏が買っているのは5大商社の株ですが、商社にはほかにも「3大商社」とか「7大商社」といった呼び方もあります。3大商社は、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事の3社で、収益や純利益でトップ争いをしている3社を表しています。5大商社はそれに丸紅と住友商事が加わり、7大商社となると、さらに豊田通商双日が加わります。7大商社はいずれも取り扱っている商品やビジネスの幅が広いため総合商社と呼ばれます。総合商社に対して専門商社と呼ばれる商社もあります。食品、鉄鋼、機械など特定の分野の商材を専門に扱う商社です。商社の集まりである日本貿易会には41社が正会員として加入していますが、その多くは専門商社です。鉄鋼の阪和興業、燃料の岩谷産業、化学の長瀬産業などは歴史のある独立系専門商社です。

(写真・伊藤忠商事の「人事のホンネ」。同社は、あさがくナビの就職人気企業ランキングで5年連続トップを続けている)

伊藤忠の「人事のホンネ」はこちら

財閥系は資源など、非財閥系は繊維などに強い

 大手7社は財閥系と非財閥系に分けることができます。三菱商事、三井物産、住友商事はその名の通り、財閥系です。伊藤忠商事と丸紅のルーツは明治時代に創業した同じ繊維問屋です。戦後、そこから分かれる形で丸紅が独立し、今の両社があります。豊田通商はトヨタグループの商社として誕生しました。トヨタ自動車が大きくなるとともに豊田通商の仕事も増え、商社の加商トーメンを吸収合併する形で大手総合商社の一角を占めるようになりました。双日は繊維商社をルーツとするニチメンと戦前の鈴木商店の流れをくむ総合商社日商岩井が2004年に合併して生まれた会社です。財閥系は主に資源、エネルギー、金属、不動産などに強く、非財閥系は主に繊維、生活用品、食料などに強いという特徴があります。

ローソンやファミマの経営も商社の仕事

 商社の仕事を大きく分けると、ふたつあります。ひとつはトレーディングで、日本語でいう商いです。モノやサービスを売ったり買ったりして利益を得る仕事です。もうひとつは投資です。資源開発など様々な事業に資金を投じて、そうした事業が利益を出すようになるとそこから配当を得る仕事です。投資すると経営に携わることになる場合が多々あります。たとえば、国内のコンビニ事業です。ローソンは三菱商事の子会社になり、ファミリーマートは伊藤忠商事の子会社になりました。ローソンの経営は三菱商事が、ファミリーマートの経営は伊藤忠商事が責任を負っている形です。セブンイレブンは総合商社と直接的な関係はありませんが、親会社のセブン&アイホールディングスには三井物産が出資しています。

 少し前の記事ですが、総合商社とコンビニの関係についてはこちらを読んでみてください。
商社とコンビニの熱い関係 三菱商事・ローソン、伊藤忠・ファミマ…

(写真・ローソンの竹増貞信社長は三菱商事出身)

サーモンも空飛ぶクルマも箏爪も

 商社の仕事の内容を伝えるのにかつて「ラーメンからミサイルまで」と言われましたが、今はその幅がもっと広がっています。最近の朝日新聞に載った記事だけをみても、「返品もお手軽 宅配ボックス パナ系と三菱商事」「サーモンの陸上養殖 大手商社が次々に参入」「食事付き学生マンションに商社などの大手企業続々参入」「大阪で空飛ぶクルマの有人飛行 丸紅が実験」「VRのゲームで弱視を治療 住商とベンチャーが治療用アプリ開発へ」「箏爪(ことづめ)、植物由来に 象牙の代替、極細繊維を活用 伊藤忠など」とあります。「こんなことまで」と思うことにも商社が関わっていることがわかります。ほかにも洋上風力発電や持続可能な航空燃料(SAF)など新エネルギー開発は商社の今の主戦場になっています。

丸紅は「2人に1人」女性採用を目標に

 採用の面でも変化が起きています。少し前まで商社といえば男性社員のイメージがありましたが、女性の採用を増やしています。丸紅は新卒総合職の採用について「2人に1人」を女性にする目標を掲げて実行中です。「環境変化に対応するには同質集団からの脱却が必要」という危機感からです。女性の役員がどのくらいいるかが投資の指標とされるようになり、女性の管理職や役員を増やすには採用から増やさなければ、という考えがベースにあります。海外勤務が想定される商社の総合職ですが、男女の区別はない時代になりつつあります。

(写真・丸紅が行った「空飛ぶクルマ」の実証実験=2023年3月14日、大阪市中央区)

タフさやコミュニケーション能力の高さ必要

 総合商社は他の国にはほとんどなく、日本特有の業態だといわれます。海外企業では商社の機能を会社の中に備えているのがふつうです。極東の島国である日本では、明治時代になって外国との貿易が盛んになりましたが、言葉や生活習慣などの違いが大きく、そうしたことを得意とする専門家集団が必要だったのです。戦後、国際化が進むと、たびたび商社不要論が出ましたが、総合商社は成長分野にいち早く挑戦することで生き残るだけでなく、大きく成長しました。そんな商社業界で働く人には当然、新しいことに挑戦するフットワークの軽さが必要です。挑戦には失敗もつきものなので、心身ともにタフであることも求められます。もちろん、語学力も含めたコミュニケーション能力も必須です。給与水準が高く、就職人気も高い商社ですから、その分求められる素養が多い業界といえそうです。

資源高で絶好調!7大商社に個性あり ウクライナ侵攻が影【業界研究ニュース】も読んでみてください

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