就活生に人気の高い総合商社は、国際性のある大きな仕事ができることに加え、報酬の高さも魅力です。ただ、その業績は世界経済の影響を大きく受けるため、浮き沈みがあります。今、アメリカのトランプ大統領が推し進める「トランプ関税」といわれる高関税政策が世界経済にどのくらいの影響を与え、商社業界の業績にどう影響するのかが注目されています。5月初め、2025年3月期の決算発表で各社のトップが発言する機会がありましたが、「影響は限定的で、増益を見込んでいる」(伊藤忠商事)と強気の見通しをするところと、「状況が不透明なため、保守的な構えとしている」(三井物産)と慎重な見通しをするところに分かれています。一方、日本の5大商社株を保有しているアメリカの著名投資家であるウォーレン・バフェット氏はここにきて商社株を買い増しています。どの見方があたるかわかりませんが、いずれにしても商社の就活人気は依然として高いと思われます。
(写真・会見する伊藤忠商事の石井敬太社長=2025年5月2日/写真はすべて朝日新聞社)
大手の総合商社と中小の専門商社
商社の仕事の中心は売り手と買い手を仲介することで、仲介料が売り上げになります。そうした基本の仕事を発展させる形で、事業や会社に投資したり、会社経営に直接かかわったりもしています。商社は大きくわけて総合商社と専門商社があり、総合商社は国内はもちろん世界のすみずみまでビジネス相手としますし、ビジネスの範囲もあらゆる分野に及びます。総合商社と呼ばれるのは数少ない大手商社ですが、専門商社とよばれる比較的規模の小さい商社はたくさんあります。鉄鋼、繊維、食料など専門的な商材を扱うところや、中国、韓国、ロシアなど特定の国や地域を対象にしているところがあります。
三菱、三井、住友は財閥系
総合商社の代表は「5大商社」と呼ばれる三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅の5社で、売上高や社員数などの規模では三菱商事、三井物産、伊藤忠商事の3社がほかの2社をやや離しています。5大商社に豊田通商、双日を加えて7大商社といういい方もあり、7大商社は財閥系と非財閥系に分かれます。三菱商事、三井物産、住友商事が財閥系で、それぞれの財閥系グループ会社の貿易や海外展開などにかかわることが強みになっています。ほかは非財閥系で、伊藤忠商事と丸紅は関西を地盤とする同じ繊維商社にルーツを持ちます。豊田通商はトヨタグループとのつながりが強く、双日は戦前に大きな商社だった鈴木商店の流れをくむ会社です。
(写真・記者会見する三井物産の堀健一社長(左)=2025年5月1日)
伊藤忠は国内の企業経営にも強み
総合商社にはそれぞれ強みがあります。三菱商事は鉄、銅、液化天然ガス(LNG)などの金属資源・エネルギー分野を最大の強みとしています。三井物産も原油などの金属資源・エネルギー分野が強いのが特徴です。伊藤忠商事はルーツである繊維事業のほか、ファミリーマートやウイカーズ(元ビッグモーター)など国内での企業経営にも力を入れています。住友商事は不動産開発やメディア関連などに強いのが特徴です。丸紅は食料、電力インフラなどに強みを持っています。豊田通商は自動車分野が圧倒的に強く、地域的にはアフリカに強いのも特徴です。双日は民間航空機の輸入やリースの分野に強みを持っています。
(写真・会見する三菱商事の中西勝也社長=2025年5月2日)
エンタメ・コンテンツに力を入れる
ここにきて、商社が力を入れているのが「エンターテインメント・コンテンツ」の海外展開です。日本のアニメやキャラクターが海外で人気が高いことに目をつけ、海外に広くネットワークを持つ商社の強みを生かすねらいです。住友商事は集英社グループと、丸紅は小学館と組み、アニメなどの輸出を手がけています。また、三菱商事は吉本興業ホールディングスと業務提携し、「お笑い」コンテンツの海外展開などを進めています。日本のエンタメ・コンテンツは世界で高い評価を受けていますが、まだまだ市場を拡大する余地があるとみて取り組んでいます。
待遇改善や働き方改革で人材確保めざす
商社の力の源は「人」にあります。そのため、待遇改善にも力を入れています。伊藤忠商事は2025年度の社員の平均年収を前年度比で約10%増やすと公表しました。とても大きな増加ですが、三菱商事などとの差を縮めるためとしています。これらの大手商社では社員の平均年収が2千万円を超えるところもあります。また、働き方改革もおこなわれています。丸紅は配偶者の転勤や親の介護といった事情を抱える社員に対し、遠隔地に転居して完全なリモートワークを認める制度を導入しました。経験を積んだ社員に休職や退職をせずに働き続けてもらう制度です。商社員は海外勤務が多く、仕事内容もハードです。そうした仕事にみあった待遇にしたり、働きやすい環境を整えたりして、優秀な人材を確保しようとしているのです。
(写真・会見する住友商事の上野真吾社長=2025年5月1日)
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