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2022年02月25日

資源高で絶好調!7大商社に個性あり ウクライナ侵攻が影【業界研究ニュース】

商社

 総合商社の業績が絶好調です。2021年4~12月期決算では、伊藤忠商事純利益が6788億円、三菱商事三井物産も純利益が6000億円を超えました。これまで日本の商社の純利益が通期で6000億円を超えたことはなく、歴史的高水準といえます。大手7社はそろって2022年3月期決算で過去最高の純利益を見込んでいます。好調の理由は資源高です。コロナ禍の人手不足によりモノの供給が不足している一方、我慢していたぶんを取り戻そうとするリベンジ消費により需要は増える傾向にあります。そのため、原油、石炭、鉄鉱石、銅などいろいろな資源が値上がりしています。それにつれ小麦やトウモロコシなどの食料、半導体などの電子部品なども値上がりしています。商社はこうした物資の国際的売買を仲介したり生産に関わったりしており、値上がりによって仲介料や配当が増え、利益が膨らんでいるわけです。ただ、資源の値段は上がる時があれば下がる時もあり、今の好業績を手放しで喜んではいられません。ロシアウクライナに攻め込み、戦争が始まったことも不安要素です。ロシアには大手商社も豊富な資源を求めて進出しています。日本への液化天然ガス(LNG)の輸出拠点となっている「サハリン2」では、三井物産や三菱商事が事業に参画しており、伊藤忠商事は東シベリアで石油の生産に携わっています。ほかにも商社がかかわるロシアやウクライナでの事業はあり、経済制裁や戦争の行方によっては業績に影響が出る可能性があります。安定した業績を上げるためには、生活関連など非資源分野の比率を上げていくことが課題となっています。総合商社の仕事は幅が広く、国際性があります。また、個人の創意工夫が生かされやすく、給与などの待遇もいい業界です。大学生の就職先として人気がありますが、競争が激しく、バイタリティーが必要な厳しい業界でもあります。志望する人は、仕事内容をしっかり研究して、自分に向いているかどうかをよく考えて臨むのがいいと思います。

(写真は、入社式の代わりに行われたサプライズイベントで飾られた桜の花と伊藤忠商事のロゴ=2021年4月1日、東京都港区)

総合商社と専門商社

 商社という業態は欧米にはほとんどありません。欧米の企業は貿易や投資の仕事を自前でするためです。日本では明治期以降、輸出入を専門にする商社が発達しました。商社には総合商社と専門商社があります。総合商社はかつて「ラーメンから航空機まで」といわれたように、世界を相手に幅広い分野の事業をする商社です。専門商社は、鉄鋼、非鉄金属、機械、繊維、食料、エレクトロニクス、化学、紙・パルプなど特定の物資に特化したり、特定の国や地域に特化したりしている商社です。企業規模は専門商社より総合商社のほうが大きくなっています。総合商社は現在、一般的に7社とされています。伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事丸紅豊田通商双日がその7社で、「7大商社」といわれます。このうち豊田通商、双日を除いた5社を「5大商社」とよぶ場合もあります。商社の業界団体である日本貿易会の正会員は41社ですので、専門商社のほうが多いことがわかります。このほかにも日本貿易会に加盟していない小規模な専門商社はたくさんあります。

流通、金融、情報の三つの機能

 商社の機能は大きく分けて三つあります。「流通」と「金融」と「情報」です。「流通」は、貿易をしたり国内でモノを売り買いしたりすることです。仲介料や利ザヤを受け取ります。必要なところにモノが届くためにはなくてはならない機能です。「金融」はお金を投資したり運用したりする機能です。商社は国内外を問わず、事業や金融商品に投資して収益を得ています。お金を動かして事業を発展させる機能です。「情報」は世界中に張り巡らせた支店のネットワークを通じて、政治や経済の情報を得て、それを活用することです。海外に進出したり海外企業と取引したりする企業にとって、商社の情報や人脈は貴重なものになります。

財閥系と非財閥系

 7大商社を大きく分けると、財閥系と非財閥系に分かれます。財閥系は三菱商事、三井物産、住友商事の3社です。三菱、三井、住友のそれぞれのグループ企業との関係が強いので、安定した顧客を持っているといえます。豊田通商は財閥系ではありませんが、トヨタ自動車の関連会社であり、トヨタグループに関係する事業が柱になっています。トヨタ系商社と言っていいと思います。伊藤忠商事と丸紅はもともと近江商人伊藤忠兵衛がつくったひとつの繊維商社で、戦後に分かれました。双日は日商岩井ニチメンが合併して2003年にできた会社です。伊藤忠商事、丸紅、双日の3社はいずれも関西にルーツを持つ非財閥系会社です。

(三菱グループ創業150周年記念式典で、グループの基本理念「三綱領」を前に記念撮影する〈左から〉三菱商事の小林健会長、三菱重工業の宮永俊一会長、三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行会長〈当時〉=20220年11月24日、東京都港区)

「組織の三菱」と「人の三井」

 7社にはそれぞれ特徴があります。純利益でトップに立つ伊藤忠商事は、エネルギッシュな社風といわれます。もともと「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」をモットーにする近江商人の流れをくんでいるので、消費者に近いところのビジネスが得意です。傘下のファミリーマートによるコンビニ事業のほか、アパレル事業、食料事業など非資源系事業に力を入れています。三菱商事は「組織の三菱」といわれます。総合力が強く、商社の中では固いイメージを持たれています。三井物産は「人の三井」といわれます。採用では個性のある人材を求めています。金属資源分野が強いため、そのぶん業績に波があるのが課題です。最近は非資源系の健康・医療事業にも力を入れています。住友商事は、「浮利を追わず」の住友の事業精神を掲げており、堅実な社風です。戦後に商社活動を始めた会社のため、メディア事業やデジタル事業など新しい分野に強みを持っています。丸紅の特徴は食料と電力に強いことです。穀物の輸入や海外での電力事業が得意分野です。豊田通商はトヨタ自動車関連、双日は宇宙航空分野やベトナムに強みを持っています。

(写真は、三井物産の看板=東京都千代田区)

脱炭素に力を入れる

 総合商社が将来を見越して力を入れている分野が、地球温暖化問題にかかわる脱炭素の分野です。三菱商事は2030年度までに再生可能エネルギー分野などに総額約2兆円を投資するとしています。その本気度は、2021年に行われた秋田県沖2カ所と千葉県沖の洋上風力発電所を建設するための入札にあらわれました。入札にはそうそうたる企業がつくるグループが参加したのですが、3区域すべてを三菱商事のグループがとりました。しかも提示した発電コストは関係者が驚くほどの安さでした。三菱商事だけでなく、ほかの総合商社も脱炭素の分野には力を入れています。二酸化炭素(CO₂)を出さないエネルギーとして注目されている水素アンモニアの製造や流通、蓄電池の開発などにもいろいろな商社がかかわろうとしています。本物の肉の代わりになる代替肉培養肉の開発にも注目しています。畜産はCO₂を大量に出すことや水資源を大量に使うことなどから地球環境によくないという声が強まっており、大豆からつくる代替肉や動物の細胞からつくる培養肉の将来性が見込まれています。このように総合商社は地球規模の時代の流れに敏感に反応しています。商社で仕事をする人は、社会の動きにたえず目を向けていることが必要になります。

(写真は、洋上風力発電所の事業者に決まり、銚子市長を表敬訪問した三菱商事エナジーソリューションズの岩崎芳博社長〈右〉=2021年12月28日、千葉県銚子市)

伊藤忠商事の採用担当者直撃インタビュー「人事のホンネ2023シーズン」はこちら
三菱商事の採用担当者直撃インタビュー「人事のホンネ2022シーズン」はこちら
日鉄物産の採用担当者直撃インタビュー「人事のホンネ2020シーズン」はこちら

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