日清食品は「カップヌードル」(写真)など約180品目の希望小売価格を、6月1日出荷分から5~12%引き上げると発表しました。輸入小麦の値段が上がっていることや、原油高の影響で輸送費や容器・包装代が値上がりしているためとしています。食品業界では今、値上げの発表が続いています。カップ麺だけでなく、しょうゆ、マヨネーズ、ケチャップ、ハム、ソーセージ、駄菓子など、値上げラッシュといってもいい状態です。ただ、消費者の値段を見る目は厳しく、スーパーマーケットなどでどこまで小売価格に反映できるかは不透明です。小売価格に反映できなかったり売り上げが落ちたりすると、メーカーの業績悪化につながります。食品業界はコスト上昇のほかにも、人口減少による国内市場の縮小、健康志向や環境問題への適応などの課題を抱えています。一方、海外での日本食品への需要の高まりや代替肉などの新しい食品への挑戦といった前向きな話題もあります。食品業界は比較的安定している業界ですが、時代の変化への対応は重要になってきています。
業界の規模はとても大きい
食品業界は大きく分けると、食品製造業、食品関連流通業、外食産業に分けられます。農林水産省の調べでは、この3分野をあわせた食品産業の国内生産額は約100兆円。企業数は約80万、従業員数は800万人を超えます。食は人間にとってなくてはならないものなので、業界の規模はとても大きくなっています。ただ、ひとつひとつの企業の規模は小さいところが圧倒的に多くなっています。
1兆円を超える企業が7社
食品業界という場合、一般的にイメージされるのは食品製造業だと思いますが、食品製造業もさらに三つに分類できます。日清食品のような加工食品、ビールメーカーのような飲料、製粉会社のような食品原料の3分野です。中小企業が多い食品業界ですが、食品製造業には大企業もたくさんあります。売上高が1兆円を超える会社は、サントリーホールディングス、アサヒグループホールディングス、キリンホールディングス、明治ホールディングス、日本ハム、味の素、山崎製パンの7社があります。こうした大きな食品メーカーは医薬品など食品以外の事業にも力を入れているところが多くなっています。
企業努力も限界にきて値上げへ
食品製造業が直面している課題がコストの上昇です。コロナ禍に対応するため世界各国が一段と金融を緩和したため、景気が過熱し、モノやサービスの需要が高まっています。一方で、コロナ禍は港などの物流拠点で働く人も直撃し、人手不足などからスムーズな輸送ができなくなっています。また、為替は輸入価格が高くなる円安に動いています。小麦、トウモロコシ、大豆などの食品原料や原油は需要が高まっているのに供給を増やせず、円安にも見舞われ、値段が上がっています。日本の加工食品は原材料を輸入に頼っているものが多く、包装材や輸送費は原油の値上がりの影響を受けます。日本の食品メーカーは企業努力で値上げを避けようとしていましたが、それも限界にきて各社が希望小売価格の値上げに踏み切っています。
グルーバル企業を目指す
食品業界の長期的な課題は人口減少により国内市場が縮小していくことです。1人の人が食べる量は限られますので、人口が減ることは量的には国内市場が縮小していくことにつながります。食品メーカーが成長するためには、質を向上させて単価を上げるか、海外市場を開拓するか、食品以外の分野を拡大するか、この三つの選択になります。ここ数年で目立っているのは、海外市場の開拓です。海外での生産を増やしたり、海外企業を買収したりする動きが激しくなっています。まだ大きくなっている世界の胃袋に期待する戦略です。大きな食品メーカーはグローバル企業を目指しています。
代替肉は大きな市場の可能性
健康や環境問題への対応も重要になっています。異物の混入や原産地などの表示の誤りは、企業の致命傷になりかねません。食品添加物や農薬の使用などを極力減らしたり、フェアトレード品を扱ったりする取り組みは、付加価値を上げることにもつながり、食品メーカーが目指す方向性を示しています。また、地球温暖化問題などの環境への配慮も重要になっています。畜産業は温室効果ガスを出したり水をたくさん使ったりして環境によくないという見方から、大豆などから作った代替肉の生産が徐々に増えています。日本の食品メーカーでも研究開発を進めていて、将来は大きな市場になる可能性があります。
(写真は、大豆などの植物由来のたんぱく質を使い肉の食感などを再現した日本ハムの商品)
将来の食の変化をとらえよう
食は保守的です。食の好みは長年培われたもので、なかなか変わりません。そのため、画期的な発明品が出たり、食習慣ががらりと変わったりすることはごくまれです。このため食品業界にはIT業界のような短期間の栄枯盛衰はあまりなく、業績やブランドイメージは比較的安定しています。食品メーカーにとっては目先の商品の売り込みや開発も大事ですが、より大事なのは長期的な見通しになります。世界の人口動態や環境問題の行方を考え、将来の人々の暮らし方や好みを推し量り、食の変化をとらえようとすることだと思います。
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