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2022年03月11日

ウクライナ侵攻で原油高騰 石油元売り業界の課題は「脱石油」【業界研究ニュース】

エネルギー

 ロシアによるウクライナ侵攻により、原油価格が急騰しています。リーマン・ショックがあった2008年の過去最高水準に近づいています。それにともなってガソリン価格も上がっていて、政府は石油元売り会社に補助金を出して、ガソリン価格を少しでも抑えようとしています。その石油元売り会社の業績は好調です。価格上昇で在庫評価益などが増えたためです。ただ、こうした好業績は一過性のものです。地球温暖化問題が石油元売り会社に重くのしかかっています。温暖化の原因である温室効果ガスの最大の排出源は、石油などの化石燃料です。化石燃料からの脱却は世界的課題になっており、国内でも石油製品の需要は2040年には今の半分になるとみられています。何もしなければ石油元売り会社の経営が行き詰まることは間違いなく、「脱石油」による生き残りが必要です。そのため業界は、クリーンエネルギーとされる水素アンモニアに関わる事業、風力や太陽光などの再生可能エネルギー事業、電気自動車(EV)や蓄電池に関わる事業などに力を入れています。こうした事業が成功して石油製品の落ち込みをカバーできるかどうか、業界は正念場を迎えています。

(北海道の苫小牧東部国家石油備蓄基地=2021年11月、朝日新聞社機から)

原油を製油所で精製

 日本は石油のほとんどを中東などの海外から輸入しています。石油元売り会社は原油を輸入して、それを製油所でガソリンナフサ軽油灯油ジェット燃料重油などの石油製品に精製します。そしてガソリン、軽油、灯油は主に系列のガソリンスタンドに、ナフサは化学会社に、ジェット燃料は航空会社に、重油は船会社や漁業者などに卸しています。石油製品には会社による品質の違いはほとんどなく、系列のガソリンスタンドの数や場所、製油所の立地、価格戦略などにより、業績に差が出ています。

(写真は、ENEOS大分製油所=2021年11月、大分市、朝日新聞社ヘリから)

ENEOS、出光、コスモが大手3社

 日本の大手石油元売り会社としては、ENEOSホールディングス、出光興産、コスモエネルギーホールディングスの3社があります。かつては大手といわれる元売り会社は10社以上ありましたが、1985年以降合併、統合を繰り返し、現在は3社に集約されました。大手3社で国内の9割以上のシェアを持っています。このほかに太陽石油キグナス石油がありますが、規模はぐっと小さく、大手とはよばれません。3社にも規模の違いはあり、2021年3月期の売上高で見ると、ENEOSを10、出光が6、コスモが3という規模感です。2022年3月期はまだ見通しの段階ですが、原油価格の上昇により在庫評価益が高まったり利益幅が大きくなったりして、3社とも売上高も純利益も前期より大幅に増えると見込んでいます。

(写真は、ガソリン価格の表示板=2022年3月2日、東京都中央区)

事業のスクラップ&ビルド

 ただ、業績好調にもかかわらず、各社は事業のスクラップ&ビルドを進めています。最大手のENEOSは、2021年9月に石油化学製品をつくる知多製造所(愛知県知多市)を停止したほか、2023年10月をめどに和歌山製油所を閉鎖すると発表しました。人口減少、脱炭素化の流れ、車両の電動化などの構造的な要因による石油製品の内需減少は避けられず、生産拠点の統廃合で効率化を進めているのです。また、子会社で道路舗装大手のNIPPOの株式を約1900億円で売って非上場化。舗装用のアスファルト合材をつくる過程で大量の二酸化炭素が出ることが経営課題になっていました。さらに北海油田で原油生産を手掛ける英国子会社も約1900億円で手放すことにしました。

(写真は、閉鎖が決まったENEOSの和歌山製油所=2017年5月、和歌山県有田市初島町浜)

再エネ、EV、アンモニアなど

 ENEOSは一方で、再生エネ大手のジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)を約2000億円で買収すると発表しました。JREは国内や台湾で太陽光や風力など計60カ所の発電所を手掛けています。ENEOSは再生エネや水素などの成長分野に2020~22年度で8600億円を投資する計画です。こうした新しい事業への投資は、出光やコスモも積極的です。出光は超小型EVの量産を目指しています。開発するのは従来の軽自動車より一回り小さい4人乗りの乗用車。家庭用のコンセントで充電でき、最高速度は時速60キロ。全国に約6400ある給油所を拠点とした定額制での利用やカーシェアリングを主に想定しています。コスモは2022年1月、アラブ首長国連邦(UAE)の再生エネ事業者と洋上風力や燃料アンモニアの分野などで協業を検討すると発表しました。コスモは風力発電に力を入れてきましたが、非石油事業をさらに拡大しようとしています。

(写真は、出光興産が開発している超小型EV=同社提供)

ガソリンスタンドは多様化

 石油元売り会社の「脱石油」の取り組みとしては、ガソリンスタンドの多様化もあります。ガソリンだけでなく、EVの充電や水素の充填もできるようにする方向です。カーシェアリングの拠点とする構想もあります。さらに、付加価値を高めて長時間滞在してもらうサービスを併設することも考えています。ガソリンスタンドのネットワークを社会インフラとして活用するイメージです。「石油元売り会社」という呼び方も「ガソリンスタンド」という名称もそのうちなくなり、別の呼び名になるかもしれません。

(写真は、エネオスの水素ステーション=2021年5月、東京都中央区)

大化けの可能性も

 脱炭素は多くの業界が取り組んでいる課題ですが、石油製品を主力とする石油元売り業界の取り組みはより強力にならざるを得ません。しかし、ピンチはチャンスでもあります。新しい成長分野の主導権を握れば、大化けする可能性もあります。考えようによっては、業界はとてもやりがいのある時期に差しかかっているといえます。

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