半導体の不足が世界的に続いています。社会の電子化が一段と進んで半導体の需要が膨らむ一方、コロナ禍や自然災害などにより生産能力や流通能力が落ちて供給が追いつかないためです。国内では半導体の生産を増やす動きが活発になっています。国内最大手のキオクシアホールディングス(HD)は3月、 NAND(ナンド)型フラッシュメモリーを生産する北上工場(岩手県北上市)で2棟目の製造棟を建てると発表しました。追加の投資総額は1兆円規模になります。ほかにも半導体の基板材料、シリコンウェハー大手の SUMCO は1月、佐賀県伊万里市に新工場を建設する協定を県や市と締結しました。また政府は4000億円の補助金を投じて世界的半導体メーカー、台湾積体電路製造(TSMC)の工場を熊本県に誘致することにし、ソニーグループとデンソーも出資して2024年の稼働に向けて動き出しています。日本の半導体メーカーは1980年代には世界で最も大きなシェアを持っていましたが、その後の高性能化に後れをとり、今や世界の上位は米国、韓国、台湾のメーカーが占めています。経済産業省は「半導体・デジタル産業戦略検討会議」を立ち上げ、日本の半導体産業の立て直しに取り組み始めており、半導体産業の活発化を後押ししています。ただ、日本は半導体製造装置や半導体材料の分野ではまだ世界のトップクラスにあります。広い意味の半導体産業は今も日本の主要産業といえます。世界的な激しい競争が繰り広げられている成長分野として、日本メーカーがどこまで巻き返せるかが注目されます。
(写真は、スマホや自動車などに使われる半導体=日清紡ホールディングス提供)
「産業のコメ」から「産業の脳」に
半導体とは、電流を通す「導体」と電流を通さない「絶縁体」の中間の性質のある物質のことです。電流や電気を制御するスイッチのような働きをします。スマートフォンやパソコンだけでなく、自動車など多くの製品に欠かせないため「産業のコメ」と言われます。最近は半導体が高度化しているため「産業の脳」と言う人もいます。一般的には、集積回路(IC)など半導体を使った部品も広い意味で「半導体」と呼んでいます。半導体を製造する工程は、設計、製造の前工程、製造の後工程の3段階に分かれます。かつては設計から製造までのすべての工程を1社で完結する垂直統合型が一般的でしたが、今は3段階を別々の会社が担当する水平分業が盛んになっています。
トップ10からキオクシアが消える
半導体はかつて日本の得意分野でした。1988年の半導体売上高では日本が世界の50%を超えていました。そのころはNEC、東芝、日立製作所、富士通などが世界の売上高トップ10の常連でした。ところがその後、日本のシェアは徐々に下がり、2019年の世界シェアは10%にまで落ちています。日本メーカーが強かったのはコンピューターのデータを記憶するメモリーの分野だったのですが、メモリーは量産品となり、コンピューターの演算処理をこなす中央演算装置(CPU)などの「ロジック」とよばれる半導体が主役になってきたためです。アメリカの半導体市場調査会社がまとめた2021年の世界の半導体メーカー売り上げランキングでは、トップは韓国のサムスン電子で、2位はアメリカのインテル、3位は韓国の SKハイニックスです。日本勢では、電源を切ってもデータが記憶されているナンド型フラッシュメモリーを得意とするキオクシア(旧東芝メモリ)が2020年には9位に入っていましたが、2021年にはトップ10から消えました。このランキングでは半導体の受託生産会社は除かれていますが受託生産会社を含めると、世界最大手の受託生産会社であるTSMCは上位に入るとみられています。半導体に細かい回路を書き込む技術では他の追随を許さず、世界で最先端を走る半導体メーカーとして今最も注目されているメーカーです。
製造装置や材料では日本勢が上位
日本の半導体メーカーには、キオクシアのほかにも得意分野を持っているところがあります。ルネサスエレクトロニクスはNEC、日立製作所、三菱電機の半導体部門が合流して2010年にできた会社ですが、自動車用のマイコンでは世界の約3割のシェアを持ち、首位に立っています。また、ソニーグループはスマホのカメラや車の自動運転に欠かせない画像解析用の半導体のイメージセンサーで世界シェアの約5割を握っています。半導体をつくるための半導体製造装置は日本メーカーがまだ世界の上位にいます。アメリカの市場調査会社の調べでは、2020年の半導体製造装置メーカーの売上高の上位15社に日本メーカーが7社も入っています。東京エレクトロンが4位、アドバンテストが6位、 SCREENが7位、日立ハイテクが9位、 KOKUSAI ELECTRICが11位、ニコンが12位、ダイフクが15位に入っています。半導体材料の分野では、基板になるシリコンウェハーは信越化学工業が世界でトップのシェアを持っていて、SUMCOが2位です。フォトレジストとよばれる感光材はJSRや東京応化工業などの日本メーカー5社が世界シェアをほぼ占有しています。
成り立ちや強みを調べよう
半導体は米国と中国との対立の火種にもなっています。中国はIT分野で技術力を伸ばしていますが、その部品である半導体は決して強くありません。米国の市場調査会社によると、中国の半導体生産能力は世界シェアの16%程度です。しかも、最先端の半導体の生産能力は弱く、中国経済の弱点になっています。米国はそこをついて、半導体や半導体製造装置の中国への輸出規制を強化しています。中国は自前で作る方向にかじを切り、動き出しています。米中のはざまにいる日本も半導体産業の立て直しに動きはじめました。ここにきて半導体をめぐって世界がしのぎを削る状況になっています。それだけ半導体産業がこれからの社会で重要になってくるとみられているのです。ただ、半導体産業と一口に言っても、幅広い分野があります。それぞれの企業の成り立ちや、どの部分を担っていて、どこに強みがあるのかをよく調べることが大切だと思います。
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