世界中で半導体不足
「半導体」がニュースに登場しない日はありません。新型コロナウイルスで大打撃を受けた世界や日本の経済が回復しつつある中、半導体が今後の成否を握っているからです。ビッグデータやAI(人工知能)、5G(高速通信規格)の普及に加え、コロナ禍でテレワークが増え、半導体需要が急増しました。コロナが落ち着いて経済回復が一気に進むと、さらに生産が追いつかなくなり、世界中のあらゆる業界で半導体が足りなくなり、「半導体ウォーズ」が起きているのです。ところで、「半導体」のこと、どのくらい知っていますか? 「産業のコメ」とも呼ばれますが、聞いたことはあっても詳しく語れる人は少ないと思います。みなさんが手放せないスマホにもたくさんの半導体が組み込まれています。ほんの数センチ、数ミリの小さな部品が世界や日本の経済の命運を握っているのです。デジタル化でいまや半導体と無縁の業界はないと言っていいほどですから、就活生も「知らない」ではすまされません。今日は、そもそもの「キホンのキ」から、今起きていること、これからどうなるかまで、半導体について学びます。業界研究・企業研究にも必須の情報ですよ。(編集長・木之本敬介)
(写真は、米スカイウォーター・テクノロジーの半導体製造工場の検査工程で、顕微鏡を通して見た半導体の電子回路=2021年5月)
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台湾TSMCとソニーが熊本に新工場
我が家の古いガスコンロを買い替えようと、業者に先日来てもらったのですが、「半導体不足で生産が滞っていて、いつ入荷できるか分かりません」と言われ、影響を実感しました。
国内企業の2021年9月中間決算発表で「過去最高益」を記録する企業が相次いでいます。コロナ禍からの回復で一気に需要が高まっているからですが、この足を引っ張っているのが「半導体不足」です。トヨタ自動車などでは半導体をはじめとする部品不足で注文に応じきれず、売り逃しが起きています。電機大手では、富士通、ソニーグループなど半導体や部品を「作る側」が好調なのに対し、日立製作所の自動車部品事業など「使う側」では半導体不足でマイナスの影響が出ています。
そんな中、世界的な半導体メーカーの台湾積体電路製造(TSMC[企業] )が新しい半導体工場を熊本県菊陽町に建設すると発表して大きなニュースになりました。大口取引先のソニーグループも新工場を運営する合弁会社に570億円出資します。TSMCの日本進出は政府の働きかけで実現したもので、投資額の8000億円のうち約半分を日本政府が補助する見通しです。工場はソニーグループの菊陽町にある半導体工場の隣につくり、2024年末までの生産開始を目指します。
(写真は、半導体の受託生産で世界一を誇るTSMC工場=2021年4月、台南)
そもそも半導体って?
半導体とは、電流を通す鉄、銅など「導体」と、通さないゴム、ガラスなど「絶縁体」の中間の性質がある物質のこと。温度が低いときは電流を通さず、高くなると通します。代表的な半導体物質であるシリコンを用いてつくられる集積回路(IC)など半導体物質を使った部品を広い意味で「半導体」と呼んでいます。①電気信号を大きくする ②電流の交流と直流を変える ③電流のオン・オフを切り替える ④光を電気信号に変える――などの機能があります。「半導体の処理能力は1年半~2年で倍になる」といわれ小型化と高機能化がどんどん進み、一つの半導体に微細なトランジスタが何億個も組み込まれています。電子化が進む自動車には、1台に数十個の半導体が使われています。
半導体は、回路の幅が細いほど多くの部材を詰め込むことができ、性能が上がります。その競争で製造分野での覇者がTSMCで、最先端半導体の回路幅は5ナノメートル。1ナノメートル(10億分の1メートル)は髪の毛の太さの10万分の1です。回路幅が10ナノ未満では世界生産の92%が台湾に集中し、残り8%は韓国サムスン電子です。TSMCが日本で計画しているのは回路幅が22~28ナノメートルの前世代型ですが、国内にこれを作る技術はありません。
経済安全保障の対象に
日本は1980年代には世界の「半導体王国」でしたが、20世紀末にかけて衰退。日立製作所、NEC、三菱電機の半導体事業を再編し「日の丸半導体」の2社に生まれ変わりました。記憶用半導体「DRAM」専業のエルピーダメモリと、機器の制御や演算に用いる「ロジック半導体」のルネサスエレクトロニクスです。エルピーダは海外勢の安値攻勢に勝てず2012年に経営破綻し米半導体大手に買収されました。ルネサスは自動車の走行を制御する半導体「マイコン」で世界シェアトップです。
半導体はいまや国の将来をも左右する戦略物資となり、米国、中国、韓国、欧州などが覇権争いを繰り広げています。岸田内閣で担当大臣を新設した「経済安全保障」のメインテーマの一つで、TSMCの工場建設は経済産業省の半導体振興策の成果でもあります。世界的なシェアを持つ半導体素材や半導体製造装置メーカーとの技術協力で、国際競争力アップを目指しています。
半導体に関わる日本企業は
東洋経済新報社と日本経済新聞出版の「業界地図2022年版」から、半導体関連の日本企業をピックアップします。
【半導体・マイコンなど】
キオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)、ルネサスエレクトロニクス、ソニーグループ、ソシオネクスト
【半導体製造装置など】
東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREENホールディングス、日立ハイテク、KOKUSAI ELECTRIC、ディスコ、東京精密、レーザーテック、ニコン、キヤノン
【半導体素材】
信越化学工業、SUMCO、富士フイルムホールディングス、住友化学、東京応化工業、JSR、田中貴金属工業、日本酸素ホールディングス、新光電気工業、イビデン、昭和電工、ステラケミファ、HOYA、AGC
知らない企業名も多いと思いますが、多くは世界的な企業です。興味のある人は個別に調べてみましょう。
半導体をめぐる最新事情についてもっと知りたい人は、
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