爆発的に増えるデジタルデータ
「ビッグデータ」の活用分野が広がっています。インターネット上で日々生まれるデジタルデータが爆発的に増え、それを瞬時に分析する人工知能(AI)も発達したためです。新型コロナウイルスによる感染防止策にも利用されています。ビッグデータは一人ひとりの個人情報の積み上げですから、使い方によってはプライバシーの侵害や人権問題になりかねません。とはいえ、これからのビジネスの世界では、ビッグデータを活用しないという選択肢はありません。リスクの存在も意識したうえで、これからどんな業界のどんな分野にいかされるようになるのか、新たなビジネスチャンスを考えてみてください。(編集長・木之本敬介)
(写真は、「データソリューションサービス」を発表したヤフーの川辺健太郎社長〈右端〉ら=2019年2月13日、東京都千代田区)
ヤフー検索ワードからヒット商品
三越伊勢丹が2019年秋にECサイトで発売した小柄な女性向けのロングスカートがヒットしました。ヤフーの検索ワードや質問サイト「ヤフー知恵袋」の書き込みなどの統計データをAIで解析したところ、小柄な女性はロングスカートへの関心が高い一方、着こなしや抱っこひもとの合わせ方に悩んでいることがわかり、子育て中の女性の意見を取り入れて開発した新商品です。
このヒット、ヤフーが同年に始めたビッグデータを企業の商品開発にいかす新サービスから生まれました。ヤフーのサイトでの検索やネット通販、地図情報などの利用で大量に集められたデータを外部の企業も使えるようにし、商品開発に生かしてもらう新たなビジネス「データソリューションサービス」です。ヤフーがもつ匿名化した情報を顧客企業がもつデータと組み合わせ、商品企画や混雑・需要などの予測、生産や物流の最適化に生かします。2020年3月までに、小売り、保険、食品、日用品、アパレルなどのメーカーやサービス業、自治体、大学など、目標の倍の200社が導入しました。
キャッシュレス決済もビッグデータ
最近、○○ペイによるスマホ決済が一気に普及していますよね。クレジットカードも含めたキャッシュレス決済は、単なるお金のやりとりではありません。購買や移動履歴などの情報が記録として残るからです。ほかにも、みなさんが日々使うネットの検索ワード、SNSでのつぶやきなど、あらゆる行動記録が日々蓄積されてビッグデータとなっています。たとえばローソンは、どこの誰がいつ何を買ったという購買履歴を分析して新商品を開発しヒット商品を生んでいます。いまや、データは「現代の金脈」。商品開発、新規サービス展開の裏側にはビッグデータがあります。総務省の情報通信白書によると、世界で流通しているデジタルデータ量は、2014年の月間60エクサ・バイトから、2021年には319エクサ・バイトと5倍以上に増えると予想されています(エクサは、10の18乗=100京倍)。大容量、超高速の新通信システム5Gの普及でさらに加速するのは間違いありません。
データサイエンス学んだ学生なら即採用?
2019年10月に開かれた早稲田大学との朝日教育会議で、みずほ銀行の藤原弘治頭取はこう語りました。
「銀行にとってデータサイエンスの必要性は極めて高い。就職活動の面接で『データサイエンスを勉強していた』という学生がいたら、すぐに内定を出したいくらいだ。日本は(少子高齢化などの)課題先進国。データやテクノロジーを活用して世の中に役立てるという仕事はますます増えていくと思う」
ビッグデータの活用が、これからの企業が生き残りと成長の鍵を握っているということです。
(写真は、「データサイエンスをいかに社会実装すべきか」をテーマに開いた朝日教育会議で話す早稲田大学の田中愛治早朝、みずほ銀行の藤原頭取、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションの塚本良江社長=2019年10月14日、東京都中央区)
新型コロナ対策にも
中国や韓国で、人々の移動情報などが新型コロナ対策に活用されたことが話題になりましたね。日本政府も携帯電話やIT大手など企業が持つデータの提供を各社に呼びかけています。特定の場所にどの年代の人が集まるといった傾向をつかむことで、外出自粛要請や、人との接触を避ける「社会的距離の確保」など感染拡大の防止策の有効性を確かめるために使います。携帯大手3社は、スマホの位置情報から性別や年代別に特定の地域での人の移動や分布などを把握しています。利用者の許諾を得て取得し統計的に処理したデータを企業に販売、マーケティングや防災などに活用されています。政府の求めに対し、携帯電話大手は個人情報には結びつかないデータに限定して提供する方針です。
JCB(ジェーシービー)は4月1日、新型コロナの感染が広がった2月後半から3月前半にかけて、遊園地や鉄道旅客サービスの消費額が急減する一方、スーパーや酒屋は前年より増えたとするデータを発表しました。JCBの決済ビッグデータの分析でわかったものです。
医療と健康に注目
いま注目されているのが、医療や健康分野への活用です。いま注目されているのが、医療や健康分野への活用です。全国の病院に保管されている診療録(カルテ)、血液検査結果、CT(コンピューター断層撮影)の画像データ、内視鏡写真など膨大な「医療ビッグデータ」を集めてAIで解析し、診断を補助したり見落としを防いだりする研究が進んでいます。病気の早期発見、新たな治療法や新薬の開発、健康維持などでの成果が期待されています。
「日本一の短命県」返上をめざす青森県の弘前大学が進める健康増進プロジェクトには、40超の企業が共同研究に参加しています。プロジェクトでは、約1000人のアンケートや検便・採血、体力測定などを駆使し、労働環境や経済力といった社会科学分野からゲノムなどの遺伝学分野まで2000項目に及ぶ大量のデータを集めていて、企業が自らのテーマを加えれば即座に2000項目との関連を調べられます。サントリーは水分摂取、ライオンは歯科・口腔衛生、花王は内臓脂肪、カゴメは野菜関連……など、ビッグデータを健康食品などの開発にいかそうとしているわけです。
金融、防犯にも
金融機関の利用も広がっています。みずほ銀行は、ソフトバンクと折半出資で貸金業「Jスコア」を運営。顧客に学歴やローン残高など最大約170項目を尋ねて「信用スコア」を算出し、その数字に応じた金利で融資しています。ビッグデータやAIを活用するため、審査にかかる人件費を減らすことができるからです。みずほ広報は「コストを削減した分、低金利で融資できる傾向にある」と話します。新生銀行も2019年、NTTドコモが信用スコアをもとに提供する融資可能額などのデータを活用した融資を始めました。信用スコアには、ヤフーやLINE、メルカリといったIT企業も参入しています。
SOMPOホールディングスは2019年11月、ビッグデータ分析を手がける米パランティア社と共同出資会社をつくり、ビッグデータの解析事業に参入すると発表しました。顧客企業が持つデータを活用し、リスク管理や業務効率化につなげるサービスを展開します。SOMPOは損害保険や生命保険事業で得られるデータを使って事故を防いだり、病気を予防したりするサービスの実現をめざしています。
警察が防犯や捜査、警備にビッグデータを活用する動きも本格化しています。警察庁は2019年度からAIの実証実験を開始。街頭犯罪の発生を予測して効果的にパトロールしたり、人混みでのテロを防いだりといった使われ方が進みそうです。2019年夏に発覚したリクナビによる就活生の内定辞退率の予測販売のように、ビッグデータは使い方を誤ると大きな問題につながります。ビッグデータによるビジネス展開には、常にプライバシー侵害のリスクがあることを忘れてはいけません。
●リクナビ「内定辞退予測」問題って? 個人情報ビジネスの功罪【2019年8月9日のイチ押しニュース】参照
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