流通大手のセブン&アイ・ホールディングス(HD)は2023年2月期決算で売上高が前年比35%増の11兆8113億円になりました。日本の小売業で売上高が10兆円を超えるのは初めてです。流通大手のイオンも2023年2月期決算で、売上高が前年比4.6%増の9兆1168億円と過去最高になったことを発表しました。小売業界にはスーパーマーケット、コンビニエンスストア、百貨店、ドラッグストア、ホームセンターなどの業態がありますが、この2社の売上高は飛び抜けて大きく、今や小売業界の「2強」の地位を確立しています。イオンは4月25日、首都圏で食品スーパーを展開する「いなげや」を連結子会社にすることも発表し、売上高をさらに伸ばす勢いです。2強とはいえ、その中身は異なり、セブン&アイはコンビニが中心で、イオンはスーパーを中核にした大型ショッピングモールが主体です。しかし、小売業という広い意味では競合していて、今後も2強がお互いを意識しながら、デジタル対応や海外展開に力を入れて日本の小売業の拡大を図っていくものとみられます。
就活ニュースペーパーはゴールデンウィークの間、新規掲載をお休みします。これまでの記事はすべて読めるので、企業名を検索窓に入れたり、テーマ別や業界別のアーカイブなどから興味のある記事を探したりして読んでみてください。5月8日の「週間ニュースまとめ」から再開する予定です。
(写真・セブン&アイ・ホールディングスの本社が入るビル=東京都千代田区〈左〉と、イオンの看板)
売上高はスーパー、コンビニ、百貨店の順
小売りの市場規模でもっとも大きいのはスーパーマーケットです。日本チェーンストア協会の発表では、2022年の全国のスーパーの売上高合計は13兆2656億円です。これは既存店ベースで前年比1.9%増でした。次に大きいのがコンビニで、日本フランチャイズチェーン協会の発表では、2022年の全国のコンビニの売上高合計は11兆1775億円でした。こちらは前年比3.7%増でした。2022年の全国の百貨店の売上高は、日本百貨店協会の発表によると4兆9812億円で、前年比13.1%増でした。スーパーはコロナ禍の巣ごもり需要により2021年は伸びましたが、それも一段落して小さな伸びにとどまっています。コンビニはコロナ禍で一時的に売り上げが落ちましたが、回復し順調に伸びています。百貨店は訪日外国人客が戻ってきはじめたことなどから大きな回復をみせています。
いなげやを傘下にしてスケールメリットを
イオンは、2024年11月をめどにいなげやを完全子会社にする予定です。いなげやは東京、神奈川、埼玉、千葉の4都県で食品スーパー133店、ドラッグストア143店を展開しており、2022年3月期の売上高は2514億円に上ります。こうした売り上げがイオングループに加わるだけでなく、商品調達やシステム開発など様々な分野でスケールメリットを享受することができるとイオン側はみています。ただ、スーパー業界全体の市場は伸び悩んでいます。全体の市場規模はおおむね横ばいが続いています。人口が減少していることが背景にあります。特に衣料品なども扱っている総合スーパーでは、安価なアパレルチェーンに押されたり、ネット通販に押されたりして苦しんでいます。イオンとしては拡大していくためには、既存のスーパーを買収して傘下におさめていかざるを得ないという事情もあります。
ヨーカドーは首都圏と食品に集中
セブン&アイHDは海外のコンビニ事業が好調で、売上高も利益も伸ばしています。ただ、傘下の総合スーパー「イトーヨーカドー」の経営は順調ではありません。スーパーの競争力が落ちていることに加え、仕入れ価格が上がっていることや電気代などの経費が高騰していることによって経営が苦しくなっています。そのため、セブン&アイHDは、イトーヨーカドーの店舗を今後3年間で32店減らす方針を発表しています。店舗を首都圏に集中させるとしているため、閉店するのは首都圏以外の店舗になると見られています。また、イトーヨーカドーとして運営する衣料品事業からは撤退し、食品事業に集中することも明らかにしています。
(写真・2022年1月に閉店したイトーヨーカドー日立店=茨城県日立市)
物価高の中、PB商品に力を入れる
スーパーは生き残りのために、プライベートブランド(PB)の商品の強化に取り組んでいます。PBはスーパーが自ら企画、開発した商品で、計画的な生産ができるほか、広告宣伝費もかからず、大手メーカーの同種の商品に比べて割安なのが特徴です。イオンはPBの「トップバリュ」について約5000品目のうち約半分をリニューアルしたり新商品に切り替えたりすることにしています。物価高が続く中、消費者もPBを求める動きが強まっていて、サラダ油、マヨネーズ、スパゲティなどではPBの比率がはっきりと高まっています。
(写真・イオンが販売するPBの発泡酒「トップバリュベストプライス バーリアルグラン」)
深刻な人手不足のため、パートの処遇引き上げ
小売業界では、人手不足が深刻なため、パートなどの非正社員の処遇を引き上げる動きが強まっています。イオングループで総合スーパーを展開するイオンリテールは売り場の責任者を務めるパート社員について、同じ業務に就く正社員との待遇差を完全になくす制度を3月から始めました。基本給や手当から賞与(ボーナス)、退職金に至るまで、1時間当たりの支給額をそろえます。イオンリテールの従業員約12万人のうちパート社員は約7万3000人います。こうした動きは業界全体に波及するとみられています。
ネットスーパーやキャッシュレス決済
デジタル対応もスーパー業界の課題になっています。ネット通販が広がる中、ネットで注文を取り宅配するネットスーパーのニーズも高まっています。各社は届け時間の短縮や配送料の引き下げなどで顧客の獲得を競っています。また、キャッシュレス決済への取り組みも進めています。お金のやり取りが少なくなることで、時間短縮になったり、データの集計が簡単になったりするメリットがあります。
時代の流れを思うふたりの創業者の死
スーパーは20世紀後半に新しい小売りの形態として急速に発展しました。その発展に寄与した功労者ふたりが昨年末から今年にかけて亡くなりました。ひとりは大手スーパー「ライフ」の創業者で日本チェーンストア協会会長などを務めた清水信次さん。もうひとりはイトーヨーカドーの創業者でセブン&アイ・ホールディングス名誉会長の伊藤雅俊さんです。ともに戦後、小さな商店から出発し、アメリカで発達したスーパーという業態の経営に乗り出し、日本を代表するスーパーをつくった人です。百貨店全盛だった時代にスーパーを小売りの主役に押し上げましたが、スーパーは今や後発のコンビニやネット通販に押されています。おふたりは再びスーパーが小売りの主役になることを願っていたのではないかと思いますが、どうなるでしょうか。