業界研究ニュース 略歴

2023年05月19日

「ハリポタ」来月開業 活気戻ったテーマパーク業界、課題も【業界研究ニュース】

レジャー・アミューズメント

 コロナ禍がようやく終わり、テーマパークがにぎわっています。千葉県浦安市の東京ディズニーリゾート(TDR)や大阪市のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)はコロナ前の活気がよみがえっています。さらに6月16日には、東京都練馬区の遊園地「としまえん」跡地に建設されていた「ハリー・ポッター」がテーマのエンターテインメント施設「ワーナーブラザーススタジオツアー東京 メイキング・オブ・ハリー・ポッター」がオープンします。2022年11月には愛知県長久手市でスタジオジブリの世界観をテーマにした公園「ジブリパーク」が開業しています。日本のテーマパークは今のところTDRとUSJが2強となっていますが、新しいテーマパークはその一角に食い込もうと集客を図っています。こうしたテーマパーク業界の活況を受けて、学生の就職人気も高まっています。学情の2024年卒大学生の就職人気企業ランキングでは、TDRを運営するオリエンタルランドが前年の33位から9位に上昇しました。テーマパーク側は人手不足に悩んでいて、採用数を増やそうとしているので、志望する学生にとっては好都合です。競争の激しい業界ですが、人を楽しませることが好きな人にはやりがいのある仕事だと思います。

(写真・「ワーナーブラザーススタジオツアー東京 メイキング・オブ・ハリー・ポッター」内の「ダイアゴン横丁」のセット。細かい装飾まで再現されている=2023年5月16日、東京都練馬区)

コロナ禍で激減したが、あと一歩で完全回復へ

 テーマパーク業界は、新型コロナで大きな打撃を受けました。経済産業省の特定サービス産業動態統計によると、遊園地・テーマパークの売上高は2019年の7184億円から2020年には2638億円に激減しました。2021年には3055億円と少し回復し、2022年に6000億円にまで戻り、2023年になってからも前年同月を上回る月が続いています。訪日外国人観光客も増え、あと中国からの観光客がコロナ前に戻れば、テーマパーク業界は完全回復と言えそうです。

(写真・TDR開業40周年記念イベントには大勢の来園者がつめかけた=2023年4月10日、千葉県浦安市)

オリエンタルランドの入場者は8割弱まで回復見込む

 テーマパーク業界トップのオリエンタルランドは2023年3月期の連結決算を発表しましたが、売上高は前期比75%増の4831億円。営業利益は14倍の1111億円で、コロナ禍前の2019年3月期以来4年ぶりに1000億円を超えました。2024年3月期の売上高は前期比13%増の5439億円を見込み、入園者は2510万人と2019年3月期の8割弱まで回復すると予想しています。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが業界2位とみられますが、運営企業のユー・エス・ジェイは決算を公表していません。この会社は株式会社ではなく合同会社という形をとっています。合同会社は経営に直接関与する人同士で出資している形態の会社で、株式会社と違って決算を公開する義務はありません。そのため、売上高や入場者数などの詳しい数字はわかりませんが、オリエンタルランドと同じような回復の推移をたどっているものとみられます。

ハウステンボスは香港の会社に売却される

 長崎県佐世保市にあるハウステンボスも人気のあるテーマパークですが、コロナ禍の影響により経営者が変わる事態になりました。旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)が経営していたのですが、コロナ禍で本体の業績が悪化し、2022年に香港の投資会社PAGに売却しました。ハウステンボスの業績はその後回復傾向にあるとみられます。長崎県はハウステンボスの敷地内にカジノを含む統合型リゾート(IR)を誘致しようとしていますが、運営主体が変わったことも影響しているのか、まだ決まっていません。

(写真・香港の投資会社に売却されたハウステンボス=2022年8月、長崎県佐世保市、朝日新聞社ヘリから)

深刻な人手不足で賃上げ進める

 落ち込みからの急回復をみせているテーマパーク業界ですが、課題もあります。もっとも大きい課題は人手不足です。少子化により日本全体が人手不足になっているのに加え、テーマパーク業界はコロナ禍により人員を大幅に減らしたところが多く、人手不足に拍車がかかっています。そのため、各社とも賃上げに動いています。オリエンタルランドは4月からパートやアルバイトを含む従業員の賃金を平均約7%引き上げました。ユー・エス・ジェイは3月から正社員で平均約6%、パートとアルバイトも平均約7%引き上げました。また、4月から入社初年度の年次有給休暇の付与日数を10日から15日に引き上げました。ハウステンボスは2023年に約6%賃上げしましたが、2024年7月からさらに約6%の賃上げをすると発表しました。待遇改善により人手を確保しようという狙いです。

(写真・USJの新アトラクション「SPY×FAMILY シークレット・ミッション」=2023年2月、大阪市此花区)

古くからあるところは厳しい環境続くか

 業界全体から見ると、古くからある遊園地・テーマパークの経営がむずかしくなっているという課題もあります。最近でも2020年8月に「としまえん」が閉園したり、2021年9月には神奈川県三浦市の「京急油壷マリンパーク」が閉館したりしました。競争が激しくなる中、特徴があり、設備投資をし続けることができなければ、じり貧になっていく現実があります。2017年に名古屋市に「レゴランド・ジャパン」、2022年に「ジブリパーク」が開業し、まもなく「ハリー・ポッター」の施設がオープン。さらに沖縄北部では2025年開業を目指して新しいテーマパークの建設が始まっています。新しいテーマパークの開業が続き、古くからある遊園地・テーマパークにはますます厳しい環境になりそうです。

(写真・ジブリパーク内の「エレベーター塔」=2022年11月、愛知県長久手市)

情報をしっかり把握することが大切

 テーマパークの経営や運営はおもしろそうだと考える人は少なくないと思います。ただ、そうした漠然とした印象で志望すると実際の仕事とのギャップに悩む可能性があります。就職するのはテーマパークではなく、運営する会社です。TDRを運営するオリエンタルランドは上場会社なので情報が公開されていますが、USJを運営するのは合同会社なので情報はあまり公開されていません。ハウステンボスは香港の投資会社が運営しています。また、「ハリー・ポッター」の「ワーナーブラザース スタジオ ジャパン合同会社」は外資系の合同会社です。こちらも簡単には情報にアクセスできません。こうした会社を志望する際には、わからないことを採用担当者にしっかり質問し、会社の概要や仕事の内容をしっかり把握するようにするように心がけてください。

 以下は、「人事のホンネ・オリエンタルランド」のリンクです。少し前のインタビューなので採用情報等は古くなっていますが、求める人材などは大いに参考になると思います。ぜひ読んでみてください。
2020シーズン【第1回 オリエンタルランド】(前編)「TDRで働きたい」だけではミスマッチ!ビジネスとして捉えて

◆朝日新聞デジタルのベーシック会員(月額980円)になれば毎月50本の記事を読むことができ、スマホでも検索できます。スタンダード会員(月1980円)なら記事数無制限、「MYキーワード」登録で関連記事を見逃しません。大事な記事をとっておくスクラップ機能もあります。お申し込みはこちらから

アーカイブ

業界別

月別