人事のホンネ

株式会社オリエンタルランド

2020シーズン【第1回 オリエンタルランド】(前編)
「TDRで働きたい」だけではミスマッチ!ビジネスとして捉えて

人事本部人事部マネージャー 中村浩司(なかむら・こうじ)さん

2018年08月21日

 人気企業の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」の2020シーズンがスタートしました。初回は、4年前にも登場していただいたオリエンタルランドです。やはり「ディズニー大好き」でイメージ先行の志望者が多いそう。では、そこから抜け出すにはどうしたらいいのでしょう。「ビジネス目線」がポイントのようですよ。(編集長・木之本敬介)

■2019卒採用ふり返り
 ──2019年卒採用をふり返って、学生に特徴はありましたか。
 「売り手市場」のためか、例年と比較して学生の動きは活発ではなく、じっくり時間をかけて企業を選んでいる印象を持ちました。内定を出した後は期限を設けずに待つのですが、承諾をもらうまでに時間がかかった学生もいました。「気になる会社があるので受け切らせてください」という学生もいて、ポリシーを持って活動しているようにも感じました。
 また、インターンシップが定着して、インターン慣れ、グループディスカッション(GD)慣れしている学生が目立ちました。「働き方改革」の影響で働き方を気にする人も増えましたね。

 ──インターン、GD慣れはどんなところで感じましたか。
 GDにそつなく対応する学生が多かったですね。我々としては学生の「素」が見たいのですが……。聞いてみると、インターンは弊社が10社目、20社目という学生もいました。

■採用実績と職種
 ──2019年卒の内定者数を教えてください。
 全職種合わせて100人程度です。前年は92人だったので少し増えました。

 ──職種は、大きく分けて「総合職」「テーマパークマネジメント職」「専門職」の三つですね。
 はい。テーマパークマネジメント職には、テーマパークの施設管理者である「スーパーバイザー職」と、ステージの公演進行を務める「ステージマネージャー職」があります。専門職もいわゆる建築、電気・電子などの技術系と、IT系、服飾系、調理系、デザイン系などがあります。
 総合職が40人くらい、テーマパークマネジメント職のスーパーバイザー職が30人くらい、ステージマネージャー職が20人くらい、専門職が20人くらいですね。
 技術系は学部卒、院卒が半々くらい。推薦はなくすべて公募です。

 ──総合職とテーマパークマネジメント職はどちらが人気ですか。
 総合職が第1志望の人が多いですが、多くの人が併願で受けてくれています。ただ、両方ともに社員としての採用なので処遇面の差はありません。入社後、テーマパークマネジメント職は「スーパーバイザー」を目指し、現場管理者としてのキャリアを極めます。総合職も最初はスーパーバイザーをしますが、その後はさまざまな部署で経験を積み「ゼネラリスト」として成長していきます。

 ──4年前の「人事のホンネ」では、2014年卒採用が39人で「これから増やす」とうかがいましたが、ぐっと増えましたね。
 当時契約社員だったテーマパークマネジメント職を3年前に正社員にしたので、その分増えました。パークの立ち上げから関わってきた社員が定年で退社していることもあります。2022年に向けた大規模開発を控え、新卒だけではなく経験者の採用も増やしています。

 ──2020年卒の新卒採用はさらに増やす予定ですか。
 今年と同じくらいの予定です。

 ──テーマパークマネジメント職を正社員化したのは?
 2020年に向けた中期経営計画でハード面・ソフト面の強化を掲げています。ハード面では、新エリアをオープンしたり、アトラクションを増やしたりする予定です。ソフト面では、キャスト(アルバイト)のホスピタリティー向上のため、安心して働き続けられる制度や職場環境整備、育成強化に取り組んでいます。その人財力強化の一環で、テーマパークのオペレーションを担当する社員の処遇の改善を行いました。
 中期経営計画は採用ホームページ(HP)にも載せているので、ぜひ目を通してください。

1年目からキャスト200人マネジメント、成果も求められる

■「ディズニー好き」
 ──内定者の男女比は?
 技術職は男性が多いなど職種によって差はありますが、エントリー段階では男性3対女性7、内定者は男性4対女性6ですね。「男性がよい」「女性がよい」ということはなく、男女バランスを考えて採用しているわけではありません。

 ──課題は何ですか。
 「ディズニーに関わる仕事をしている会社」という目線で受ける人が多いことです。単なるイメージや憧れだけで受けに来る人が多いという課題です。
 もちろん「東京ディズニーリゾート(TDR)が好きだから採用する」「嫌いだから採用しない」ということはありませんが、好きだけでなく「オリエンタルランドが提供している価値や企業理念」にしっかりコミットしていることが大事です。テーマパークをビジネスとして捉える視点を持っている学生に来てもらいたいですね。

 ──志望者は「東京ディズニーリゾートが好き」な人ばかりですか。
 そんなことはありません。パークに2~3回しか来たことがない人でも、弊社の「夢・感動・喜び・やすらぎの提供」という企業理念と自分の価値観が合致したということで受けてくれる人も増えています。

 ──「東京ディズニーリゾートが好き」な人は、総合職よりテーマパークマネジメント職がやりたいのでは?
 そういう視点で受ける人もいますが、最前線でお客様(ゲスト)に接するキャストの仕事と社員の仕事は役割が違います。社員は入社1~2年目から100人、200人のキャストをまとめるリーダーになり、チームをマネジメントしてしっかり成果を出すことが求められます。単に「東京ディズニーリゾートで働きたい」人はミスマッチになります。

 ──内定者には「東京ディズニーリゾートが大好き」の人は少ない?
 いえ、大好きな人もいます。「大好きと言うと落とされる」と思って黙っていたけれども、あとあと聞くと年間パスポートを持って毎月4~5回来ていた学生がいました。ただ、「オリエンタルランドの事業をビジネスとして捉えているか」が大事です。

■インターンシップ
 ──インターンについて教えてください。
 ここ2~3年、技術職は3年生の夏にインターンを行っています。1週間程度、実際の現場で働き、仕事への理解を深めてもらいます。

 ──総合職のインターンは?
 総合職は2017年から実施しており、2018年が2回目でした。1月下旬から2月にかけて3日間のインターンを3セット実施しました。1回50人くらいなので計150人ほど参加。数千人の応募者からエントリーシート(ES)とグループディスカッションで選考しました。
 就業体験というより企業理解を深める内容です。座談会や説明会でたくさんの社員と会って、いろいろな仕事について理解を深めてもらいます。もう一つはグループワーク。「オリエンタルランドの未来とは」「今後、テーマパークでできること」といったテーマについて考えて会社への理解を深めてもらいます。

 ――総合職インターンの成果は?
 ここ数年、「オリエンタルランドの仕事のイメージが湧かない」、「社員と出会う機会が少ない」といった学生からの声が多く、その打開策として始めたところ、参加学生の満足度、弊社への志望度が高まりました。「いろいろ仕事があるんだ」と分かるようです。結果的にですが、インターン参加者からも多くの内定者が出ました。

ビジネスモデルに共感してくれる学生歓迎

■エントリーシート
 ──プレエントリー、本エントリーの人数は?
 前回インタビュー時と同じで詳しい数字は非公表ですが、プレエントリーは万単位、本エントリーは数千です。プロモーションを強化したこともあり、志望者数は前年度より若干増えました。

 ──今年からESの設問や選考方法を変えたそうですね。締め切りはいつでしたか。
 「チャレンジシート」と呼ぶESは職種によって設問は違いますが、総合職は4月初め、テーマパークマネジメント職は4月中旬ごろに締め切りました。提出した人は総合能力検査(適性検査)をテストセンターで受けてもらい、通過者はグループ選考に進みます。

 ──ESの志望動機欄では何を求めますか。
 弊社の事業をイメージだけで捉えていないか、ビジネスとしてコミットできているかを確認します。

 ――総合職のESには「学生生活において、リーダーシップを発揮した経験の中で一番苦労したこと」、テーマパークマネジメント職には「チームで成果を上げた経験」の欄があります。総合職は「リーダーシップ」、テーマパークマネジメント職は「チーム」がポイントということですか。
 総合職、テーマパークマネジメント職ともに最初の配属は現場の管理者である「スーパーバイザー」を目指し、100~200人のキャストをまとめるマネジメントを担当します。個々の能力の高さも大事ですが、どの部署でも、チームで仕事をしたり他部署を巻き込んで仕事をしたりするのでリーダーシップは必要です。

 ──総合職の「リーダーシップ経験」については、「あなたの役割」「取り組んだ時期」「エピソード」のほか「組織の人数」の欄があります。あえて具体的に書かせるんですね。
 こちらも読みやすく、エピソードをイメージしやすくするためです。

 ――評価のポイントは?
 役割や規模感です。たとえば「コミュニケーションをはかった」のが、ただ飲み会をしていただけなのか、ちゃんと何か目的があったのか知りたい。小学校時代の話を書く人もいますが、直近の話題のほうが伝わりやすいですね。

■ビジネスモデル
 ──採用HPに売り上げ、コスト、利益などオリエンタルランドのビジネスモデルの説明がありますね。
 弊社らしさを伝えるモデルだと思っています。「ディズニーランドだけ」「レジャー施設」の会社ではありません。利益をストックするだけでなく新たな「夢・感動・喜び・やすらぎ」を創出するための元手として新しい施設やイベント開発、人財育成に投資し、それがゲスト満足につながり、さらに新たな入場者を呼ぶ――というビジネスモデルです。このビジネスモデルに共感して、単なるディズニー好きではない学生が「面白そうだな」と思って受けに来てくれます。「人に喜びを与えたい」「しっかりビジネスをやりたい」と考えている人が、「自分でこういうビジネスを回していけるんだ」と共感してくれるパターンが多いですね。

 ──ESの中身を変えた理由は?
 たくさんの学生がエントリーしてくれるのですが、弊社で活躍できる学生を見落としてしまっている可能性を感じたためです。加えて総合職には、AI(人工知能)を活用してスマートフォンで友人からも多面評価してもらうシステム「GROW360」も取り入れ、登録を必須にしました。より多角的な面から学生の情報を収集することで、出会いの可能性を広げたいという思いで導入しました。
後編に続く)
(オリエンタルランドのビジネスモデル)

(2016シーズン「人事のホンネ」オリエンタルランド 「『ディズニー好き』だけではNG!やり抜く信念と広い視野を」はこちら

(写真・岸本絢)

みなさんに一言!

 企業をしっかり見て自分の価値観が合致する会社を選んでほしいですね。「人生100年」の時代に「新卒で入る会社選びにそこまで時間をかける必要があるのか」とも言われますが、会社選びは大事です。生涯の中でも仕事が占める時間は長く、特に若い時代の業務経験は自身のキャリアを形成するうえでの基盤となることから、新卒で入社する会社はしっかり見極めてほしいと思います。
 学生と話していると、「働き方」や「自分の成長」を大事にしていると感じます。確かに「働く環境」や「自己成長」は大切ですが、それ以上に企業が持っている価値観や想いと、自分の価値観が合致するかどうかを大切にしてください。仕事を通じて自分は何を提供したいか、その企業が何を提供しているかをよく考えたうえで、会社選びをしていただきたいと思います。

株式会社オリエンタルランド

【レジャー・アミューズメント】

 1960年7月に「国民の文化・厚生・福祉に寄与すること」を目的に創設された当社は、浦安沖の埋め立てから事業をスタートしました。コア事業である東京ディズニーリゾートは、 1983年4月15日の東京ディズニーランド開園に始まり、ひとりでも多くの人に「夢・感動・喜び・やすらぎ」を提供すべく、数々のチャレンジを重ね、今日に至っています。現在では、二つのテーマパーク合計で年間3000万人を超えるゲストを迎えています。「テーマパークは永遠に完成しない」というように、私たちの挑戦に限界や完成形はありません。オリエンタルランドグループでは、これから50年、100年先も「夢・感動・喜び・やすらぎ」を提供し、一つでも多くの笑顔を生み出していけるよう、挑戦を続けていきます。