業界研究ニュース 略歴

2023年03月03日

水産大手はグローバル食品総合企業へ 極洋は初任給3割増【業界研究ニュース】

食品・飲料

 水産大手の極洋は約700人の社員の平均年収を約2割(130万円)引き上げて800万円にすると発表しました。新入社員の初任給は約3割(6万5000円ほど)上げて月27万円台にします。社員の年収や初任給を一気に2割も3割も引き上げるというのは、大企業としてはとても大胆で珍しいことです。同社は狙いとして、海外事業などを広げるための優秀な人材の確保を挙げています。極洋だけでなく水産大手はどこも海外事業を拡大しようとしています。水産業界は水産物を調達したり加工したりする食品関連業界です。そのため、人口が減る国内市場だけに頼っていては成長が見込めず、まだまだ成長の余地がある海外事業に力を入れているのです。業界ではほかにも、クロマグロ完全養殖などの「つくる漁業」や品質向上が著しいといわれる冷凍食品の開発製造などにも力を入れています。世界の食の担い手として、水産会社の可能性は広がっています。

(写真・いけすを泳ぐ完全養殖のクロマグロ=マルハニチロ提供)

大手はマルハニチロ、ニッスイ、極洋の3社

 水産業界の団体としては大日本水産会があり、全国で500余の会社や団体が会員になっています。その中で大手といわれるのはマルハニチロニッスイ(昨年末に「日本水産」から社名変更)、極洋の3社です。2022年3月期の売上高はマルハニチロが8667億円、ニッスイが6936億円、極洋が2535億円で、経常利益はマルハニチロが275億円、ニッスイが323億円、極洋が69億円となっています。この3社以外に売上高が1000億円を超えている水産会社はありません。また、東京証券取引所でもっとも上場条件が厳しいプライム市場に上場している水産会社もこの3社だけです。ただ、「マルちゃん」ブランドの即席めんで知られる東洋水産も社名の通り、水産物の取り扱いからスタートしています。今は即席めんが主体の総合食品メーカーですが、水産食品事業もおこなっていて大日本水産会の会員にもなっています。そのため、東洋水産を水産業界の会社とする場合もあります。東洋水2022年3月期の売上高は3615億円です。

冷凍食品メーカーのトップ競う

 水産会社の特徴的な仕事は大きく分けて三つあります。ひとつは水産物を確保する仕事です。いわゆる「獲る漁業」と「つくる漁業」です。海などに出て水産物を獲ることと養殖により水産物を育てることです。二つめは、水産物を売ったり買ったり流通させたりする仕事です。いわゆる商社の仕事です。三つめが食品メーカーとして冷凍食品や缶詰などの食品を開発し製造し流通させる仕事です。冷凍食品は冷凍技術の発達や調理時間短縮のニーズなどから、家庭用も業務用も伸びています。水産業界のニッスイとマルハニチロは日本の冷凍食品メーカーの売り上げトップを競っています。

(写真・松屋銀座の新たな冷凍食品売り場=2022年8月、東京都中央区)

クロマグロの完全養殖に成功

 「つくる漁業」で注目されているのが、クロマグロの完全養殖です。クロマグロの養殖と言えば、海で稚魚を獲ってきて育てるやり方でしたが、これでは資源が先細りになる恐れがあります。国際的にもクロマグロ漁の規制が始まっています。そのため、養殖クロマグロに卵を産ませ、卵から成魚に育てる完全養殖に切り替える必要に迫られていました。ただ、卵から育てるのは難しかったのですが、マルハニチロは2010年に民間会社として初めて完全養殖に成功しました。2015年には商業生産が始まり、今ではヨーロッパへの輸出も始めています。ニッスイや極洋もクロマグロの完全養殖に取り組んでおり、今後出荷量が増えることが期待されます。

世界の魚介類消費量は50年で2倍に

 世界では食用魚介類の消費量が増えています。水産庁がまとめている水産白書によると、世界の1人当たりの魚介類の消費量はここ50年で2倍になっていて、増加ペースは今も衰えていません。特に中国では約9倍、インドネシアでは約4倍になるなど新興国で増えています。世界の人のたんぱく源として水産物の重要性が増しているのです。このため、水産大手は海外事業の拡大を進めています。マルハニチロは19の国と地域に拠点を持ち、海外売上比率は2022年3月期で19.1%になっています。ニッスイの海外事業はもっと大きく、28カ国に拠点を持ち、海外売上比率は35.7%にのぼっています。極洋は2022年3月期の海外売上比率を公表していませんが、2021年3月期は9.1%とまだ多くありません。

遠洋漁業の打撃を乗り切る

 水産大手3社はいずれも歴史のある会社です。マルハニチロは2007年にマルハとニチロが経営統合してできた会社ですが、マルハは1880年に創業、ニチロは1906年に創業しています。ニッスイは1911年、極洋は1937年の創業です。いずれも戦前から戦後にかけて、南極海などでの遠洋捕鯨で成長しました。しかし、クジラの頭数が減ったことから1986年に国際捕鯨委員会(IWC)は商業捕鯨を禁止しました。また、国連海洋法条約で沿岸から200海里までの排他的経済水域(EEZ)が制定され、日本も1996年に条約の締約国になりました。それまでは外国の沿岸のすぐ近くまで行って漁業ができたのですが、近くまで行くことはできなくなりました。こうした海のルールの変更で、日本の遠洋漁業は打撃を受けましたが、代わりに海外との取引や養殖事業、冷凍食品事業などに力を入れて乗り切ってきました。

総合食品企業でありグルーバル企業

 水産会社は漁業を取り巻く情勢の変化に対応し、今や総合食品企業といってもいいくらい幅を広げています。さらに、海外との水産物の取引や海外市場への展開も進め、グローバル企業に近づいています。水産業界というと、男っぽく古臭いイメージを思い描く人もいるかと思いますが、今の実際の仕事内容はそうしたイメージと違っています。関心のある人は企業訪問をするなどして、確かめてみるといいと思います。

◆朝日新聞デジタルのベーシック会員(月額980円)になれば毎月50本の記事を読むことができ、スマホでも検索できます。スタンダード会員(月1980円)なら記事数無制限、「MYキーワード」登録で関連記事を見逃しません。大事な記事をとっておくスクラップ機能もあります。お申し込みはこちらから

アーカイブ

業界別

月別