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2022年08月19日

ANA、JALの業績回復 航空業界の今とこれから【業界研究ニュース】

運輸

 コロナ禍で苦しんできた航空業界の業績が回復してきています。2022年4~6月期決算では、ANAホールディングス(HD)は純損益が3年ぶりに黒字となり、日本航空(JAL)も赤字幅が大きく縮小しました。両社はいずれも2023年3月期には3年ぶりの黒字を見込んでいます。国内線、国際線ともに旅客数が回復しているためです。2022年のお盆期間(6~16日)をみると、国内線はANAが前年の1.8倍の127万1000人、JALが2.1倍の110万5000人でした。国際線はANAが前年の4.4倍の12万8000人、JALが4.6倍の12万9000人でした。ただ、コロナ禍前の2019年と比べれば、4~6月期の旅客数はANAもJALも国内線は6~7割、国際線では2~3割ほどです。特に国際線の回復の足取りが鈍いのが気になります。政府は日本への入国者数の上限を3月から徐々に引き上げ、6月からは1日2万人としましたが、7月の入国者数は平均1万4000人ほどで上限にも達していません。中でも観光客はこのうちごくわずかしかいません。業績回復の傾向はこれからも続くと思われますが、そのスピードについてはまだ不透明といえます。

(写真は、全日本空輸と日本航空の機体=羽田空港)

ANAとJALが抜きんでた2社

 日本の航空会社(エアライン)では、ANAとJALが抜きんでた大手です。このほか、スカイマークスターフライヤーといった中堅会社、北海道が拠点のエア・ドゥや九州・沖縄が拠点のソラシドエアといった地域会社、ピーチ・アビエーションジェットスター・ジャパンジップエア、スプリング・ジャパンといった格安航空会社(LCC)などがあります。ただ、こうした会社も濃淡はあれANAかJALの傘下に入っています。スカイマーク、スターフライヤー、エア・ドゥ、ソラシドエア、ピーチ・アビエーションなどはANAの出資を受けていて、ジェットスター・ジャパン、ジップエア、スプリング・ジャパンなどはJALの出資を受けています。また、エア・ドゥとソラシドエアは10月にも経営統合することを公表しています。

(写真は、成田空港に並ぶLCCの機体=千葉県成田市)

かつては政府系だったJAL

 ANAとJALが日本の航空業界を二分する勢力になったのは、21世紀に入ってからです。それ以前は、JALが国を代表する政府系のエアラインだった名残から国際線に強く、経営規模も国内線中心のANAを上回っていました。しかし、徐々にそうした色分けが薄まり、経営規模も近づいてきました。さらに2010年にJALが会社更生法を申請して倒産したことで、ANAの国際線比率が上がり、売上高でJALを上回るようになりました。JALは経営再建後、経営体質が改善し、利益が出やすい構造になり、最近は再び拮抗した2大勢力といえる状況になっています。

復活するドル箱路線

 コロナ禍が始まって3年目に入り、航空業界にはコロナ禍前に戻る動きが出ています。たとえば、東京の羽田空港と韓国ソウルの金浦空港を結ぶ航空路線は6月末、約2年3カ月ぶりに再開されました。コロナ禍前は週84往復も運行されていた主要路線で、日韓の観光客やビジネス客の往来が増えることが期待されます。また、「空飛ぶウミガメ」の愛称で呼ばれるANAの超大型旅客機エアバスA380型機(520席)の成田-ホノルル線定期便運航が7月初め、2年4カ月ぶりに再開されました。この路線はドル箱路線といわれ、観光回復の兆しを示す再開となりました。世界の航空業界は日本より早く路線を再開し、業績が回復する傾向があり、コロナ禍の行方に関わらず日本発着の国際線の便数も今後増えていくとみられています。

(写真は、再就航するエアバスをペンライトを振って見送るANAグループ社員=2022年7月1日、成田空港)

廃食油やゴミから新燃料

 航空業界にはコロナ禍のほかにも課題もあります。ひとつは、航空燃料についてです。今のジェット燃料は石油から作られていますので、二酸化炭素(CO₂)を排出します。地球温暖化を防ぐためにCO₂を削減しなければなりません。そのための新燃料として検討されているのが「持続可能な航空燃料」(SAF)です。これは廃食油やごみを原料にして作るもので、ジェット燃料よりもCO₂の排出を抑えられます。ただ、膨大な原料をどうやって集めるかということや価格をどうやって抑えるかという課題があり、ANAやJALだけでなく幅広い業界にまたがって体制づくりが進められています。ほかにも、実用化が期待されている「空飛ぶクルマ」の開発、マイレージ(マイル)サービスの拡大、搭乗手続きの簡便化など課題はいくつもあります。

(写真は、国産SAFの普及をめざす有志団体「ACT FOR SKY」の設立会見に登壇した〈右から〉日本航空の赤坂祐二社長、全日本空輸の平子裕志社長〈当時〉ら=2022年3月2日、羽田空港)

落ち込みを克服してきた歴史

 ANAやJALは、コロナ禍前までは就職人気がとても高い会社でした。コロナ禍によって採用を中止したことや採用を再開してもまだ本格回復が見えないことなどから、かつての人気はまだ元に戻っていません。確かに先行きはまだ不透明と言わざるを得ませんが、長期的にみれば復活するはずです。航空業界の歴史を見ても、1985年の日航機墜落事故以降、2001年の9.11同時多発テロ、2002~03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行、2008年のリーマン・ショックなどのたびに利用者が減って業績が落ち込みました。しかし、落ち込みをその都度克服し、業界は成長してきました。コロナ禍はこうした落ち込みをはるかに上回る打撃を業界に与えていますが、今回も必ず克服するだろうとわたしは思います。

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