新型コロナウイルスの影響でアパレル業界が苦しんでいます。人口減少などにより市場が徐々に縮んでいたところに、外出自粛などで需要がさらに落ち込んだためです。5月に大手のレナウンが民事再生法を申請して倒産するなど、アパレル業界の新型コロナ関連倒産は、東京商工リサーチの6月3日時点のまとめで24件に上っています。業界別では宿泊、飲食に次ぐ多い倒産件数です。一方で、こんな状況でも業績が伸びているアパレル会社があります。作業服大手のワークマンです。5月の売上高(既存店)は前年同月比で19.4%も増えています。「安くて高機能」が支持されています。他では買えない商品をそろえると逆風にも強いことが分かります。また、コロナ禍により、多くのアパレルではネット通販が伸びる傾向にあります。コロナ後も消費者のネットへのシフトが進むことが予想されます。アパレルは特徴のある商品づくりとデジタル化が生き残りのカギとなっています。
(写真はワークマンプラスの店内。アウトドア向けの商品も多い=川崎市、ワークマン提供)
老舗アパレルが苦戦
アパレルの国内市場の規模は徐々に小さくなっています。矢野経済研究所の調べでは、バブル経済がピークだった1991年には15兆3000億円でしたが、2018年には9兆2000億円にまで減っています。人口が減っていることと消費者の低価格志向が強まっているためです。ここしばらく苦しんでいるのが、老舗アパレルといわれる伝統のある大手です。倒産したレナウンは、かつては総合アパレル最大手でした。ファッションブランドの「23区」や「組曲」などを展開するオンワードホールディングスは4月、国内外で700店ほどを2021年2月末までに閉店する方針を明らかにしました。2020年2月末までの1年間でも約700店を閉めており、2年連続の大量閉店。来春時点の店の数は一連の閉店前から半分ほどの約1600店となります。老舗アパレルの三陽商会は2020年4月期決算で4期連続の赤字になりました。2015年に英国ブランド「バーバリー」のライセンス契約が切れてから、赤字基調が続いています。不採算店の閉店を検討しています。
ビジネスモデルが行き詰まる
こうした老舗アパレルは百貨店に店を出して売るスタイルが中心でした。しかし、百貨店の集客力が1990年代前半を境に落ちています。特に価格に厳しい若い消費者が離れています。老舗アパレルの百貨店頼みのビジネスモデルは行き詰まっていて、オンワードや三陽商会は百貨店の売り場を閉鎖の対象にしています。かわりに強化するのがインターネット通販と直営店です。
ユニクロも打撃受けるがまだ黒字
ユニクロを展開するファーストリテイリングは日本最大のアパレルです。世界で伸びているファストファッションの一角で、世界に店舗を展開して大きく業績を伸ばしてきました。ここにきて新型コロナの感染拡大で海外事業の収益が大幅に悪化していますが、それでも2020年8月期決算では営業利益、純利益とも黒字を予想しています。銀座に新たな旗艦店を作ったり原宿に8年ぶりに店を構えたり、今は国内の強化に動いています。ユニクロに代表されるファストファッションも新型コロナの逆風を受けていますが、老舗アパレルほど強い風ではないようです。
(写真は、東京・銀座で6月19日にリニューアルオープンする「UNIQLO TOKYO」の内装イメージ=ユニクロ提供©Herzog & de Meuron)
ワークマンの勢いはまだ続きそう
アパレルの中で最も元気のあるのがワークマンです。ワークマンは全国に869店舗あります(5月末現在)。5月はコロナのために多くの店で時短営業や休業を余儀なくされましたが、それでも客数は17.1%伸びました。売り上げは今年3月まで17カ月連続2ケタ増。緊急事態宣言の出た4月は5.7%増と鈍りましたが、ほかのアパレルが大幅マイナスの中、増えただけでもすごいことでした。ワークマンがこれほど伸びている理由は二つあります。ひとつは価格です。価格は同業他社の半額以下の安さを掲げています。中国などの海外工場で閑散期に大量に生産するため、生産コストを抑えられるのが秘密のようです。もうひとつは機能性が高いことです。もともとワークマンはプロ用作業着を専門に売っていたのですが、一般用のアウトドア衣料にも広げてきました。風を通さない防寒着がライダーに、作業員向けのカッパが釣り人に、厨房用の滑りにくい靴が妊婦さんに人気が出るなど、ファッション性より機能に着目されている点が特徴です。ワークマンの勢いはまだ当分続くとみられています。
個別企業には伸びる可能性
日本のアパレル業界全体を見ると、市場規模の縮小傾向が示すように成長産業とは言えません。ただ、個別の企業を見ると、大きく伸びる可能性はあります。ファーストリテイリングのように、まだまだ伸びる世界の市場を相手にするやり方もありますし、ワークマンのように「高機能で安いアウトドア衣料」という新しい分野を切り開くやり方もあります。さらにこれからはデジタル技術を使った新しいネット通販の可能性が広がっています。衣料は人間が生きていく限り必要なものです。時代の少しだけ先を予想しながら、デザイン、機能、価格といった要素を組み合わせる面白い仕事だと思います。倒産件数の多い産業といった暗いイメージに引きずられることはありません。
(写真は、ワークマンの新業態「ワークマンプラス」の店=川崎市、同社提供)
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