業界研究ニュース 略歴

2020年06月19日

世界3位でも苦境…鉄鋼業界再生のカギは技術と海外戦略【業界研究ニュース】

素材

 鉄鋼業界が苦しんでいます。昨年から鋼材国際価格が下がって国内の鉄鋼メーカーは赤字 基調に転落していましたが、そこに新型コロナウイルスが追い打ちをかけて、大きな経営問題に直面しています。国内メーカーは、生産量を減らすために中核設備である高炉を止めることを次々に決めています。また、数千~数万人規模の社員を一時帰休にしたり、夏のボーナスを平均で25%も減らしたりしています。日本鉄鋼連盟の橋本英二会長(日本製鉄社長)は記者会見で、各社が生産の余剰能力を徹底的に絞る必要があるという考えを示しました。日本の鉄鋼業界はここ40年近くの間、再編合理化を進めてきましたが、もう一段の再編や合理化が必要になりつつあります。ただ、「鉄鋼業界は斜陽産業」という固定的なイメージで見るのも正しくないと思います。日本は今も生産量で世界3位の鉄鋼大国です。日本の鉄は品質の良さにも定評があります。確かに国内市場の伸びは期待できませんが、海外市場はまだまだ伸びる余地があります。日本の鉄鋼業界が再び成長軌道に乗る可能性も十分にあると思います。

(写真は、2023年に閉鎖することが決まった日本製鉄の呉製鉄所=2020年2月5日、広島県呉市、朝日新聞社ヘリから)

高炉メーカーと電炉メーカー

 鉄鋼メーカーには、大きく分けて高炉メーカー電炉メーカーがあります。高炉メーカーは、高炉を使って鉄鉱石から鋼材をつくります。電炉メーカーは、鉄くず(スクラップ)を電気炉で溶かして鋼材をつくります。日本では高炉でつくられる鋼材と電炉でつくられる鋼材の比率は3対1くらいです。日本の高炉メーカーは現在、日本製鉄(にっぽんせいてつ)、JFEホールディングス神戸製鋼所の3社です。日本鉄鋼連盟に入っている鉄鋼メーカーは52社あります。残りの多くは電炉メーカーですので、電炉メーカーは高炉メーカーに比べて規模が小さい会社だということが分かります。

(写真は、東京鋼鉄小山工場の電炉=栃木県小山市、同社提供)

日本も日本製鉄も世界で3位

 世界の粗鋼生産量は右肩上がりになっています。2019年は前年比3.4%増えて、約18億7000万トンでした。トップは中国で世界の53%を占めています。2位はインドで、3位が日本です。メーカーとしては、2018年の世界トップはアルセロール・ミッタルというルクセンブルクの会社ですが、中国の宝武鋼鉄集団が伸びていてミッタルに肉薄しています。日本製鉄は3位、JFEホールディングスは8位、神戸製鋼所は57位でした。

(写真は、2023年度をめどに休止が決まったJFEスチール東日本製鉄所京浜地区の第2高炉=川崎市、同社提供)

「鉄は国家なり」と君臨

 日本の鉄鋼メーカーは昭和の時代までは産業界に君臨する存在でした。「鉄は国家なり」という言葉があり、経団連の会長にも鉄鋼メーカーのトップが就任することがよくありました。しかし、昭和の終わりあたりから低成長時代になり、鉄の需要が伸びなくなりました。それとともに鉄鋼メーカーは再編や合理化を迫られるようになり、産業界での地位も落ちていきました。高炉メーカーは20世紀末には6社ありましたが、今は3社になっています。新日本製鉄と住友金属工業が合併し、その後日新製鋼を子会社化して、今の日本製鉄となりました(図)。NKKと川崎製鉄は合併してJFEホールディングスになりました。神戸製鋼所は独立を守っています。

危機感強まる日本メーカー

 2020年3月期の高炉メーカーの決算は3社とも最終赤字でした。2021年3月期の見通しは3社とも「見通せない」として白紙にしました。新型コロナウイルスにより、国内の鉄鋼需要は大幅に落ち込んでいます。4月の国内の粗鋼生産量は前年同期より24%少ない658万トンでした。一方、感染拡大がおさまった中国では5月の粗鋼生産量が9227万トンと多くなっています。日本メーカーはコロナからの出口が見えずにもがいていますが、中国メーカーはフル稼働に近い状態になっているのです。このため高炉メーカーの危機感は強くなっています。日鉄は国内の高炉15基のうち6基の休止や3万人の従業員の一時帰休を発表、JFEも3基の高炉の休止や1万5千人の従業員の一時帰休を発表しました。神戸製鋼所も数千人規模の一時帰休を発表しています。電炉メーカーも苦しいことに変わりはありません。

技術力や海外戦略も視野に

 コロナのダメージがどれくらいになるのか、まだよくわかりませんが、ダメージが長く続くようなら、鉄鋼メーカーのさらなる再編も考えられます。ただ、日本から鉄鋼メーカーがなくなることは考えられません。薄くて丈夫な自動車用の鉄や、深海でも水圧に耐えられるパイプなどは日本の鉄鋼メーカーが得意とするところです。また、さまざまな鉄の製造に関わる特許を持っていたり、樹脂と鉄を貼り合わせた複合素材を開発していたり、日本の鉄鋼メーカーの技術力は高いものがあります。日本製鉄は昨年末、ミッタルと共同でインドの鉄鋼4位のメーカーを買収しました。伸びゆく新興国市場を見据えた海外戦略も進めています。日本の鉄鋼業界はこれまでも何度か苦境に立ちましたが、その都度乗り越えてきた歴史があります。業界の将来を悲観的に見過ぎないで、楽観的な要素も視野に入れるといいと思います。

(写真は、日本製鉄君津製鉄所の圧延工程=2019年11月、千葉県君津市)

◆人気企業に勤める女性社員のインタビューなど、「なりたい自分」になるための情報満載。私らしさを探す就活サイト「Will活」はこちらから。

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから

アーカイブ

業界別

月別