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2024年01月04日

にぎわい取り戻した外食業界、課題は人手不足と海外進出【業界研究ニュース】

外食

 コロナ禍で一時は閑古鳥が鳴いていた外食業界ですが、いまはそのコロナ禍を乗り越え、活気を取り戻しています。年末年始の忘年会や新年会が復活し、外国人観光客もたくさん来店するようになりました。

 ただ、外食業界からは「売り上げは増えても利益は伸びない」という声も聞かれます。円安やエネルギー価格の高騰による物価高で、原材料費が上がっているためです。また、コロナ禍で離れていった従業員やアルバイトが戻ってこず、人手不足が深刻になり、人件費を増やさざるを得なくなっていることも原因のひとつです。さらに大きな時代の流れとして、日本の人口減少が今後も進むことは確実で、小さくなる国内市場を奪いあう状況が生まれています。このため、体力のある外食企業は海外進出を急いでいるのです。寿司、うどんといった日本食が海外で受け入れられることが実証されつつあり、海外市場への挑戦が競争を勝ち抜くポイントになってきています。これからの大手外食企業で働く人には、食や接客への関心だけではなく、国際化に対応する力も求められます。

(写真・PIXTA)

総合的な外食企業が成長

 外食産業は、家庭外での食事を提供する業態です。外食に関する業界団体の日本フードサービス協会によると、日本の外食の市場規模はコロナ禍前で約25兆円、働く人は約500万人いるとしています。多様な業態があり、同協会ではファーストフード、ファミリーレストラン、パブ・居酒屋、ディナーレストラン、喫茶の5つに分類しています。ただ、たとえばファストフードの中にも、牛丼、ハンバーガー、回転ずしなどいくつもの業態があります。かつては、こうした業態ごとに専門に提供する会社があって競争していましたが、最近はいろいろな業態をひとつの会社で抱える総合的な外食企業が成長しています。

すき家などのゼンショーが売上高トップ

 日本の外食企業でもっとも売上高が大きいのは、ゼンショーホールディングスです。牛丼のすき家、ファミリーレストランのココス、回転ずしのはま寿司、ハンバーガーのロッテリアなどを抱え、売上高は7799億円(2023年3月期)に上ります。次いでハンバーガーの日本マクドナルドが大きく、売上高は3523億円(2022年12月期)です。さらにファミリーレストランを中心に展開するすかいらーくホールディングスが3037億円(2022年12月期)、回転ずしのスシローなどを展開するFOOD&LIFE COMPANIESが3017億円(2023年9月期)、焼肉の牛角や回転ずしのかっぱ寿司などを展開するコロワイドが2208億円(2023年3月期)、くら寿司が2114億円(2023年10月期)、丸亀製麺などを展開するトリドールホールディングスが1883億円(2023年3月期)、イタリアンファミリーレストランを展開するサイゼリヤが1832億円(2023年8月期)、牛丼の吉野家が中心の吉野家ホールディングスが1680億円(2023年2月期)、喫茶店やレストランを経営するドトール・日レスホールディングスが1268億円(2023年2月期)と続きます。以上が売上高トップ10で、いずれも東京証券取引所に上場している企業です。

(写真・ゼンショーHDが展開する「すき家」の店舗=東京都内、2017年)

賃上げに積極的だが、値上げも

 外食企業は人手不足に悩まされています。日本では若年労働者がそもそも少なくなっているうえ、寿司職人などは日本で働くより海外で働いたほうが収入が増えるということで海外に出る動きがあります。企業としては人材確保のため、賃上げに積極的にならざるを得ない状況なのです。ゼンショーは2023年の春闘で9.5%の賃上げで労働組合と妥結しました。また、大卒の初任給を2万8000円上げて25万円としました。ほかの大手外食企業も、賃上げを進めています。
 こうした賃上げや物価上昇による原材料費の値上がりで、コストは上がっています。そのため多くの外食企業が利益を出すために提供する料理の値段を上げはじめています。全品均一の安い価格が人気の焼き鳥居酒屋チェーンの鳥貴族もコストアップには耐えきれず、一昨年、昨年と二度値上げをし、均一価格は298円から328円に上がりました。

(写真・鳥貴族の看板=2023年11月)

海外店舗数が国内の2倍以上に

 大手外食企業の多くは、海外出店を積極的に進めています。ゼンショーは「フード業界世界一」という目標を定めて、すき家を中心に中国などアジア各国やブラジルなど中南米の国などに出店を進めています。2023年3月期末に海外店舗数は5759店でしたが、2024年3月期末には1万店規模にする予定です。これは国内の店舗数の2倍以上になります。トリドールホールディングスはうどんの丸亀製麺の海外展開に力を入れていて、2023年3月期末に約700店だった海外店舗を2028年3月期末には4000店にするという目標を立てています。FOOD&LIFE COMPANIESはスシローの店舗をアジア中心に2023年9月末に135店出していますが、2026年9月末には400店にまで増やそうとしています。

食への関心に加え変化に気づく感性も必要

 日本は寿司やうどんといった独自の食を育んでいます。また、ラーメンに見られるように海外の食を取り入れて日本流にアレンジして発達させることも得意です。世界に類を見ないほどの多彩なメニューがある国で、外国人観光客も日本観光の楽しみとして食を挙げる人が多いと聞きます。こうした日本の食を発達させたのは、激しい競争を勝ち抜こうとする外食企業の知恵と頑張りだと思います。ただ、次々に新しいメニューや業態が生まれる変化の激しい業界でもあります。食に対する関心を持っていることに加え、変化に素早く気づく感性や素早く対応する行動力も必要だと思います。

(写真・ドライブスルーにも対応した丸亀製麺渋川店=2023年9月、群馬県渋川市)

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