人事のホンネ

アシックス

2022シーズン⑨ アシックス《前編》
職業観・やりたいこと、悩んで決めて 逆質問10分で好奇心見る【人事のホンネ】

人事総務統括部 人事企画部 採用チーム マネジャー 萩原保(はぎわら・たもつ)さん

2021年01月06日

 人気企業の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」の2022シーズン第9弾は、アシックスです。国内トップのスポーツ用品メーカーですが、有力校の出身でなくてもスポーツが好きな人なら歓迎だそうです。面接では「逆質問」を10分間も。「ちゃんと悩んでいるか」がポイントです。(編集長・木之本敬介)

■採用実績
 ──コロナ禍での採用は大変だったと思います。振り返っていかがですか。
 3月中旬に東京と神戸本社で行う予定だった会社説明会ができそうにないと早めにジャッジし、すべてZoomによるWEB説明会に切り替えました。面接もWEBで行いましたが、最終面接だけは対面にしました。WEBメインになって地方の学生が受けやすくなったほか、時間や費用の面で効率的だという発見もありました。

 ――応募者数に変化はありましたか。
 昨年と比較して微増でした。

 ──採用実績を教えてください。
 2021年春の本社の入社予定は24人です。文系が17人、理系が7人で、うち1人は高専生です。男女比は男性15人、女性9人です。
 2020年入社は23人。文系が19人、理系が4人で、高専生が1人。男性13人、女性10人でした。
 例年だいたい25人プラスマイナス2人くらいで、2022年卒採用も同程度の予定です。

■WEB面接
 ──WEB面接はどんな形式ですか。
 エントリーシート(ES)での書類選考の後、例年なら1次面接はグループディスカッション(GD)でしたが、今回初めてオンデマンド型の面接システムを使いました。1次は人数が多くZoomの面接では物理的にこなせないためです。
 事前に用意した質問に対する答えを学生が録画する方式です。「学生生活を振り返って一番やり切ったこと」や「困難に直面したこと」を聞きました。学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)で、どう工夫して乗り切ったかを語ってもらいます。あとは「アシックスに入ってやってみたいこと」、自己紹介などです。

 ──初めてやってみていかがでしたか。
 学生の皆さんは思ったよりもこのような面接形式に慣れているという印象です。ロジカルな説明をしてくれる学生もいれば、多少つたなくても自分の言葉でしっかり話してくれる学生もいました。GDと遜色ない選考ができたと思います。
 また、地方の学生の皆さんに対して、間口が広がったことも見逃せません。説明会は東京でも開いてきましたが、面接は神戸本社で行うので地方の学生には負担という意見は以前からありました。そのようなリクエストに応えられたこともよかったと考えています。

■2次面接
 ――2次はどんな面接ですか。
 2次面接はリアルタイムのWEB面接です。経営幹部候補生の社員が面接しました。年代は若手から中堅までさまざまです。面接官2人対学生1人で30分。20分間面接をして、残り10分は質問を受けました。

 ──「逆質問」の時間が10分も!?
 けっこう長いですよね(笑)。当社では面接をお互いを理解する場と位置付けているので、なるべく長く学生からの質問を受けるようにしています。アシックスやスポーツ業界、また職業観や自分がやりたいことなどについて、きちんと考えを深めているのかを見ています。就活は大きな転機ですから、ちゃんと悩んでいるかは大事です。

 ──学生から「逆質問で何を聞いたらいいかわからない」とよく聞かれます。
 疑問に思ったこと、極端に言えば「採用ホームページ(HP)にはきれいごとが書いてあるけど、実際どうですか」とか。本当に興味や「入りたい」という気持ちがあれば、何か引っかかったり迷ったりすることがあるはず。入社後も「これってどうなんだろう」という好奇心が仕事の基本となると考えています。

 ──悩んだ結果、内定したという人もいますか。
 ボストンキャリアフォーラムに「カナダでフィールドホッケーをやっています。アシックスが好きなんです」という学生が来ました。アシックスに就職するか、カナダで1年間ワーキングホリデーをするか悩んでいたので、「どうぞ悩んでおいで。競合他社含めいろいろなメーカーをリサーチして、それでもアシックスがいいと思ったら来てね」と。翌年また来て内定し、2020年4月に入社しました。

 ──WEB面接をやってみて、対面面接との違いはどんなところでしょう?
 仕草や表情がわかりにくく、やりづらさはありました。コンマ何秒ですが、会話のズレもあります。だから最終は対面にしました。
 ただ、WEB面接については例年参加しているボストンキャリアフォーラムなどで経験はあったので、問題なく対応できたかと思います。ボストンキャリアフォーラムでは、現地でブースを構え、面接してその場で内定を出す「ウォークイン」に参加しています。その際に、事前にWEB面接を行っているので、今回も問題なく対応できました。

目標を立て、主体的に考え行動してきたかを見極める

■対面面接
 ──対面の最終面接はどんな形式ですか。
 少人数のグループ面接となります。2次面接を通った学生にSPIの適性検査を受けてもらい、通過者が最終面接に進みます。私が司会で入って、面接官は私の上司と人事の統括部長の2人なので、3人対学生5人くらいで40分ほどです。

 ──質問は主に志望動機ですか、それともガクチカ?
 志望動機を深く聞いたり、幹部候補としてやっていく自信や覚悟があるのかを見極めたりします。BtoC(消費者向けビジネス)のスポーツメーカーなので「履いていた」「着ていた」が入り口になるのはありがたいのですが、スポーツ産業にもいろんな業種があります。情報収集して、何が自分に合っているのかよく考えてほしいですね。

 ──スポーツ経験者がたくさん受けますよね。
 やはりスポーツをきっかけに志望する学生が多いのですが、最近は当社のグローバルビジネスに興味のある人、優れたCSR・サステナビリティの取り組みに共感する人など、志望動機も多様です。

 ──「〇〇大会優勝」の学生は有利ですか。
 「優勝経験者じゃないとだめ?」と思われがちですが、全くそんなことはありません。スポーツが好きなら弱小校でも構いません。学生時代の活動を通して、自分から働きかける経験をどのくらいしてきたか、面接で聞きます。

 ──面接でニュースや興味関心について聞きますか。
 聞くのは、一つは弊社やスポーツへの興味関心。もう一つは最近はやっていること、はまっていること。好きなブランドや消費財については「最近、一番いいと思ったイノベーションは何ですか」など、職種によっては深く聞くケースもあります。

■ES
 ──ESについて教えてください。語学成績の欄がありますが、売り上げの7割以上が海外というグローバル企業ですから重視するのでしょうね。
 海外販社とのコラボレーションも重要な業務となりますので、英語力、とくにコミュニケーション能力は重視します。

 ──「目標と目標を達成しようとした理由」「目標達成のために行ったこと」「得た教訓」とあります。なぜ「目標」を聞くのですか。
 何かを達成するために、目標を設定して、自分が主体的に何をなすべきかを考える、それが学生時代に行動ベースでできているかを知りたいからです。学生時代は自由な時間がたくさんあるので、その中でどう主体的、自立的に考えてきたのか、また自分で考えた上で工夫できるのかを見極めたいと考えています。

 ──スポーツ経験のない社員もいますか。
 スポーツ経験が無くても、スポーツが純粋に好き、スポーツを通じて社会に貢献したいなどさまざまな社員がいます。

面接で何を期待されているか ニーズを探る力は仕事でも大事

■求める人財
 ──改めて「求める人財像」を教えてください。「健全な身体に健全な精神があれかし(Anima Sana In Corpore Sano)」が創業哲学で、社名の由来でもあるんですね。
 はい。求める人財像は三つあって、そのビジョンに共鳴してくれる人、そして達成志向と顧客志向です。採用HPにも書いていますが、物事を粘り強くやる力と、お客様のニーズをしっかり把握して期待以上のものを常に提供しようとする。それこそ我々が来てほしい人財です。
 たとえば面接でも、企業が自分にどういう期待感をもっているかを考えるなど、相手のニーズを探るのは大事だと思います。

 ──面接への準備、対応が顧客ニーズをつかむことに通じると?
 通じると思います。僕はもともと営業でしたが、顧客の潜在的なニーズを捉えるという点では同じだと思います。また困難なときに1人で解決しようとせず、周りを巻き込んでいける学生と、そうでない学生では、ニーズをつかむ力に差があるように思います。

 ──内定者には関西出身者が多いのですか。
 特定の地域に偏っているということはありません。海外から来る学生もいます。

■職種
 ──職種について説明してください。
 「総合職」採用ですが、「ビジネス総合」「研究」「デザイン」の職種別に募集します。研究は理系、デザインは美大生が対象です。
 ビジネス総合職のうち最初のキャリアが営業かマーケティングの人は、入社してすぐグループ会社のアシックスジャパンに転籍してスタートしますが、処遇などはアシックス本社勤務者とまったく同じです。

 ――グループ会社のアシックスジャパンの採用は別ですか。
 お店の販売員の「リテール職」は、アシックスジャパンでの別採用となります。将来的には店長として、アシックスのリテールビジネスを牽引することを期待しています。
後編に続く

(写真・MIKIKO)

みなさんに一言!

 僕が就活した2000年と比べると、今の就活は頑張れば結果が絶対についてきます。選べるという機会を最大限にいかして、自分の可能性や視野を広く持って取り組んでいただければと思います。

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【スポーツ用品製造・販売】

 1949年創業。「スポーツでつちかった知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」のビジョンのもと、世界の人が健康で幸せな生活を実現できる製品やサービスの提供を使命としている。主力のスポーツ用品に加え、「オニツカタイガー」ブランドでライフスタイル市場向けの商品を展開するほか、フィットネスアプリやレース登録サイトの運営などのサービスも提供している。現在、海外売上高比率は7割を超える。