人気企業の採用担当者インタビュー「人事のホンネ」2022シーズン第９弾、アシックスの後編です。ランニングビジネスも新型コロナの影響を受けていますが、アシックスは世界中のランナーがネット上でつながるイベントを開くなど、ITを活用してスポーツの可能性を広げています。スポーツや生活に密着した仕事ならではのやりがいとは？（編集長・木之本敬介）

（前編はこちら）

■インターンシップ
　──インターンシップについて教えてください。
　今年からオールWEBで、「総合職」「研究」「デザイン」「フットウェア開発」の４コースを設定しました。

　──採用では「総合職」に含まれる「開発」をインターンではなぜ分けたのですか。
　「開発」は技術職ではなく企画的な位置づけです。うちのコアなビジネスなので、インターンで引きつけたほうがいいんじゃないかと。「シューズの開発」というと、この本社で靴をトントンつくっていると思われるんですが、海外の工場への技術指導やコストの計算管理など、モノづくりのプロデューサー的な仕事なんです。
　「開発」はモノをいじらないと分からないので、開発部の協力を得て、材料を工場から取り寄せて参加者の自宅に送り、組み立ての実習を初めてWEBでやりました。

　──材料が届いて、各自が家で靴を実際に作るのですか。
　はい。材料や足型を自宅に届けて、講師と一緒にシューズを開発していく工程を体験するプログラムです。リモートでやるのは初めての試みでしたが好評でした。

　──「総合職」のインターンはどんなものですか。
　夏の職場体験です。３カ月かけて、２週間に一度くらい、企画、研究、開発、デザイン、生産、EC（電子商取引）、販売とバリューチェーンごとに講義とプロブレム・ベースド・ラーニング（問題解決学習）をしています。 講師に仕事のやりがいや難しい点を講義してもらいながら、仕事に対する理解を深めます。その後、問題を出して「あなたはどう解決しますか」とグループワークで考えます。最後に人事総務統括部長に新規事業の提案をします。
　「研究」もバイオメカニクス、デジタル、材料と３コースに分けて、12月に実施しました。

　── 参加者数はどのくらいでしょう？
　総合職、研究職は30～40人程度。開発、デザインは10人程度です。

　──本採用につながることもありますか。
　プログラムを通じてアシックスを知ってもらうということが目的ですので、採用という形ではありません。

■社風
　──ずばり、アシックスはどんな会社ですか。
　スポーツで世の中を良くしたいという理念が好きで、それを体現したいメンバーが集まっている会社です。

　──先ほど拝見しましたが、本社の真ん中が体育館でコートになっている会社は初めてです。
　素晴らしい環境です。私も会社のバスケ部に所属しており、休みの日はここで練習していました。今はコロナウィルスの影響で使用できなくなっていますが、再開に向けて個別でトレーニングしています。

　──コロナでスポーツイベントが中止になる一方、ランニングやウォーキングをする人は増えました。
　我々のビジネスの強みは約５割を占めるランニングビジネスにあります。コロナで外に出にくくなりましたが、逆に運動の価値は上がっています。ただ、みんなで一緒には走れないし、１人だとモチベーションが上がらないときもあるので、アシックスが提供しているネット上でランナーがつながれるフィットネスアプリ「ASICS Runkeeper」も人気です。
　11月にRunkeeper上で「ASICS World Ekiden 2020」があり、179カ国以上、５万人以上から参加申し込みをいただきました。全世界の人が駅伝チームを組んで42.195キロを走るイベントです。私も会社の同僚と一緒に参加しました。今後もバーチャルでランニングを楽しめる場や環境を提供して、ランナーの心身の健康に貢献していきます。

　──デジタル人材が必要ですね。
　採用チームの宿題です。デジタル、AI（人工知能）人財は超売り手市場になっています。デジタル領域でもアシックスにしかできない価値を打ち出して、それに共鳴する人財に来てもらえるような採用活動が必要だと考えています。

　──海外駐在の社員は何人くらいですか。
　50人くらいです。最近は若手も増えています。

■やりがいと厳しさ
　──アシックスの仕事のやりがいと厳しさを教えてください。
　仕事のやりがいは、お客様が当社の商品を使用しているところを目にする機会が多いところだと思います。スポーツシーンだけではなく、さまざまなお客様の生活シーンの中で当社の製品が使われているところを見るととても嬉しくなります。社員はまず足元に目をやり、「おっ、アシックス履いているな」と見ちゃいます（笑）。お客様の喜んでいる姿とか、バスケの試合でうちの靴を履いて悔しがっている姿や本気でやっている姿を見ると感動します。中学生が「この靴を履いて勝った」と語っている姿は何物にも代えがたい。テレビでも靴を見たり、アシックスのユニフォーム着ていると頑張れ！と応援したりしています。
　厳しいところは、お客様のニーズの変化にスピーディーに対応していかなくてはならない点だと思います。

　──東京五輪への期待は？
　アシックスは鬼塚喜八郎が創業し、オリンピックの機会をいかしながら大きくなってきた会社です。
　五輪でイノベーションを起こして、「世界のオニツカ」「世界のアシックス」になってきたので、どんな形にせよスポーツの祭典を東京でやるからには成功させたいと、社員一丸となって活動しています。

■萩原さんの就活
　──萩原さんの就活について教えてください。
　入社は2000年です。大学３年生のときに１年間ニュージーランドに留学して、帰って来たら未曾有の不景気で就職氷河期。本当に大変で心が折れました。一番行きたかった教育関係は採用ストップしていました。今思えば軸もブレブレで、IT、SE（システムエンジニア）、銀行などの合説に行っていました。

　──どういう経緯でアシックスに？
　３月ごろから就活しましたが全然受からず、気晴らしにバッシュでも買おうと、なじみの専門店に行きました。アシックスの靴があって、仲のいい店長が「アシックスに行ってみたら？」と。電話したら１週間後に説明会があると分かり、試験と面接を受けて運良く通りました。OBに言われるがままに銀行も受けたんですが、心の底からやりたいとは思っていなかったんでしょうね。自分のやりたいことは何だろう、とバスケ専門店の店頭で考えさせられました。今でも店長とは仲良くしています。

　──「そうか、アシックスがあるじゃないか！」と、はたと気づいたのですか。
　いえ、大学では体育会系でバスケをやっていましたが、強い大学ではありません。「アシックスはバリバリじゃないと入れなさそう。どうせ無理だろうな」と思っていたら、店長がアシックスの営業の人に「どんな人がいますか」と聞いてくれたんですよ。「僕みたいな弱小校でも行けるのかな？」と思って受けました。出会いというか縁ですね。

■印象的な仕事
　──これまでどんな仕事をされてきたのでしょう？
　営業に配属され、７年くらいどっぷりはまりました。でも、やっぱりバッシュをつくりたい、バスケに関わりたいと思い、社内のエントリー制度でバスケットボールシューズのマーケティング部に配属になりました。 2010年から2013年までアシックスアメリカに出向し、ロサンゼルスの社員たちと一緒にランニングシューズの企画開発をしました。帰国して再び営業を挟んだ後に, 2017年から人事です。

　──もっとも印象に残っている仕事は？
　バスケットシューズの企画担当だったときの仕事が印象に残っています。ミニバスケットシューズ開発のためにサンプルをもって実際の練習にお邪魔したときのことですが、小学生が「歩けない、もうバスケはいやだ」と言い出し、親御さんも「（他社の）この靴だと靴ずれするから、もうやめさせようと思う」と言っていました。「試しにうちのを履いてくださいよ」とサンプルを持っていったら、「これ、めっちゃいい」と。靴ずれが治ってバスケも続けてくれたんです。ささいなことですが、いまだに忘れられません。

　──ご自分で開発したのですか。
　私の役割としては、デザイナー・開発がサンプリングしたシューズを実際のミニバスケットのユーザーの元に持っていって、フィードバックをもとに改善していくというものでした。契約選手のマーケティングやデザインだけじゃなく、「アシックスが持つ技術的な資産をいかしたモノづくりなら勝てる！」と確信しました。

（写真・MIKIKO）