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2022年12月16日

防衛費増で注目の防衛産業 「プライム企業」は7社、IT・宇宙にも【業界研究ニュース】

自動車・輸送用機器

 防衛費が2027年度までの5年間で計43兆円に膨らみます。現行の5か年計画の1.5倍以上の規模です。防衛費が増えるのに伴い、「防衛産業」の仕事が増えることが見込まれます。敵基地攻撃能力(反撃能力)を持つとなると射程の長いミサイルがたくさん必要になりますし、情報収集のための衛星もたくさん打ち上げなければなりません。また、次期戦闘機を日本、イギリス、イタリアの3カ国で共同開発する計画も発表されました。継戦能力を高めるために弾薬や銃などの補充も求められています。日本の防衛産業にとっては追い風が吹いている格好です。ただ、足下の国内の防衛産業では撤退する企業が相次いでいます。納入先が防衛省に限られ、利益率が悪く、「うまみ」が乏しいためです。政府は「防衛産業は防衛力そのもの」として危機感を募らせていて、防衛産業を積極的に育成・強化しようとしています。日本の防衛産業がどこまで大きくなるのか、注目されます。

(海上自衛隊の国際観艦式で岸田文雄首相が乗艦した護衛艦いずもなど=2022年11月6日、神奈川県の相模湾、海自ヘリから)

三菱重工業など7社が大手

 財務省などによると、日本の防衛産業の市場規模は約3兆円です。「プライム企業」とよばれる大手の下に何千社もの下請け企業が連なります。戦闘機なら約1100社、護衛艦なら約8300社にも上ります。防衛産業はすそ野の広い産業といえます。防衛産業の業界団体である日本防衛装備工業会の正会員企業は2022年6月現在で130社です。同会が設立された1988年以降、会長を務めた会社は7社あります。3回務めたのが三菱重工三菱電機川崎重工IHIの4社で、2回務めたのがNEC東芝日本製鋼所の3社です。この7社が防衛産業界の大手といえます。

(写真・敵基地攻撃にも使える射程の長い「スタンド・オフ・ミサイル」の一つ「12式地対艦誘導弾」の能力向上型=防衛白書に掲載された三菱重工提供写真)

防衛部門は全体の一部

 7社のうち三菱重工業、川崎重工業、IHIの3社は航空機や艦船・潜水艦の建造を主に担当しています。三菱電機はミサイル、レーダー、情報システムなどを担当しており、NECと東芝は防衛関連システムなどを担当しています。日本製鋼所は各種の火砲を製造しています。ほかにも小銃をつくっている豊和工業、飛行艇やドローンをつくっている新明和工業などが防衛関連企業としてよく知られています。とはいえ、どの企業も主力は民生部門で、防衛部門は全体の一部です。

(写真・イージス艦の「はぐろ」による迎撃ミサイル発射=防衛省海上幕僚監部提供)

輸出に高いハードル

 日本の防衛産業の特徴は、顧客が防衛省にほぼ限られることです。仕様が特別なため、民生品に転用することは難しいうえ、禁止されていた武器の輸出については2014年に条件付きで認められることになりましたが、実際に輸出されたのは、三菱電機がフィリピン国防省にレーダーを納入した1件だけです。条件による制約があることや「死の商人」というイメージを持たれる心配があることなどがハードルになっています。このハードルをさらに低くするよう政府は武器輸出の運用指針の改定を検討しています。

(写真・フィリピン向けレーダーのベースとなった航空自衛隊の固定式警戒管制レーダー=防衛装備庁提供)

撤退する企業が相次ぐ

 また、防衛装備品には市場価格がないため、防衛省は一定のもうけを上乗せする原価計算方式をとっています。このため、2020年度の利益率は平均7%超で製造業の3%超を大きく上回っています。しかし、それでも仕様変更などの追加コストがあったり発注が少量だったり不安定だったりして、「うまみ」は少ないといわれます。また、アメリカ政府の要請によってアメリカから買う装備品が膨らんでいることも日本企業にとって「うまみ」が少なくなっている要因のひとつです。このため、ここ数年、防衛産業から撤退したり事業譲渡したりする企業が相次いでいます。

日英伊で次期戦闘機を開発

 防衛費の大幅増加に伴って、大きなプロジェクトが動き出しています。ひとつは、航空自衛隊 F2戦闘機の後継となる次期戦闘機の開発です。機体は三菱重工とイギリスのBAEシステムズが主体となり、イタリアのレオナルドも参加します。エンジンはIHIとイギリスのロールスロイスが中心となり、イタリアのアビオも加わる見通しです。2035年ごろに初号機を配備する計画で、日本は100機程度を調達する見込みです。もうひとつは「衛星コンステレーション」という計画で、ミサイル防衛のため多数の小型人工衛星を一体的に運用して情報収集するものです。そのために約50基の人工衛星の打ち上げを防衛省が検討しています。どちらも防衛産業界にとってはビッグビジネスになります。

防衛の範囲は宇宙やサイバーに広がる

 太平洋戦争後、日本は「専守防衛」を国是にして、最小限の防衛能力を基本としてやってきました。防衛産業もアメリカやヨーロッパの軍需産業に比べるとずっと控えめに活動してきました。しかし、ロシアのウクライナ侵攻や中国、北朝鮮などとの緊張の高まりがあり、政府は防衛力強化に一気にかじを切っています。その範囲は宇宙に広がり、航空自衛隊は「航空宇宙自衛隊」に名称を変える方向です。また、サイバー防衛も課題になっています。これからの防衛産業には宇宙ビジネスに取り組む企業やIT企業などの参入も予想され、より幅が広がっていくと考えられます。こうした流れの是非については議論があるでしょうが、社会から防衛産業がこれまで以上に求められようとしていることは事実です。関心のある人は、防衛装備工業会の正会員企業のホームページを見るなどして調べてみてください。

(写真・航空自衛隊が2022年10月に新設した「宇宙作戦群」のホームページ)

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