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2021年01月22日

電通本社ビル売却へ、正念場の広告業界【業界研究ニュース】

マスコミ・出版・印刷

 日本の広告業界最大手の電通グループが東京都港区汐留にある本社ビルを売る検討をしています。2002年に完成した高さ210メートルの巨大ビルで、汐留のランドマークのような存在だけに驚きが広がっています。直接的な理由は、コロナ禍在宅勤務が広がって使われていないオフィススペースが大きくなったためです。売却したうえで賃借して小さな本社として再出発しようというものです。加えて大きな背景としては、業績がよくないことがあります。マスメディアに出す広告からインターネット広告へのシフトが起きていて、テレビをはじめとするマスメディアに強い電通は苦しくなっています。業界全体を見ても、伝統のある大手は苦戦をし、ネット広告に特化している会社は伸びている状況です。電通は海外企業を買収して市場を世界に広げようとしたり、国内ではイベント事業や政府の委託事業に活路を見いだそうとしたりしていますが、先行きは不透明です。大手でも順風満帆とは言えませんが、就職人気は今もそれなりに高い業界です。クリエイティブで派手で高給というイメージがあるのだと思います。そうしたイメージをこれからも維持できるかどうか、業界は正念場を迎えています。

(写真は、電通グループが売却を検討している本社ビル=東京都港区)

広告主とメディアをつなぐ仕事

 広告業界の主な仕事は、広告を出したい企業(広告主)と広告を消費者に伝える媒体(メディア)との間をつなぐことです。具体的には、企業への営業、広告内容の提案と制作、媒体のスペースや放送時間の確保といったことです。こうした仕事全体を請け負う会社を広告代理店といい、代理店から委託を受けて広告内容を制作する会社を広告制作会社といいます。ほかにも、さまざまなイベントを企画したり、政党や政府の仕事を請け負ったりもしています。

ネット広告がついにテレビを抜く

 日本の広告費の総額は、電通の調べによると2019年で6兆9381億円になります。前年に比べて1.9%多く、8年連続で増えています。ただ、媒体別に見ると、大きな変動があります。インターネット広告が2009年に新聞を抜き、2019年にはついにテレビを抜いてトップになりました。テレビ、新聞、雑誌、ラジオのマスメディア4媒体の事業者がネット以外から得た本業の広告費は5年連続で前年を下回りました。つまり、ネット広告ひとり勝ちが続いているわけです。2020年はコロナ禍と東京オリンピック・パラリンピックの延期により、広告費総額はマイナスになったとみられていますが、ネットと4媒体の差はさらに広がっていると予想されています。

(グラフは、国内の媒体別広告費の推移。2019年、ネット広告費が初めてテレビを抜いた)

サイバーエージェントが3位に

 日本に広告会社はたくさんありますが、大手と言われるのは、電通、博報堂ADK(アサツーディ・ケイ)です。いずれも、ネットが登場する前から日本の広告業界をリードしてきた会社です。ただ、最近はネット広告に特化しているサイバーエージェントが伸びていて、売上高では電通、博報堂に次いで3位になっています。今や大手4社と呼んだ方がいい状況になっています。株式市場では時価総額でサイバーエージェントが電通を抜いているほどです。媒体の変化が、広告会社の勢力図も塗り替えています。

モーレツ型からの転換

 広告業界の働き方は深夜勤務もいとわないモーレツ型と言われていました。しかし、今はだいぶん変わっています。転機は2016年に発覚した電通女性社員の過労自殺でした。電通は社会的な批判を浴び、働き方を変えました。午後10時以降は一切仕事をしないことなど、ワークライフバランスを重んじるようになっています。コロナ禍でいち早く在宅勤務に切り替えたのもそうした意識の変化のあらわれです。電通の変化は業界全体に伝わっています。とはいえ、楽な仕事と考えると間違いです。広告の仕事は企画力、営業力、言葉やデザインのセンスなどが必要です。また、動きの速い時代ですので、変化への適応力も必要です。能力とやる気のある人にとっては、おもしろくてやりがいのある仕事だと思います。

(写真は、新入社員〈当時24〉が過労自殺し労災認定されたことを受け、午後10時の一斉消灯を始めた電通本社ビル=2016年10月24日午後11時58分、東京都港区)

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