生命保険各社が、監督官庁である金融庁から問題を指摘されるケースが増えています。日本生命は外貨建て一時払い終身保険の「目標到達型」の販売をやめることにしました。外貨建て一時払い終身保険は米ドルや豪ドルなどの外貨で運用する貯蓄型商品で、海外の高い金利や円安によって元本が増えることが多く、人気になってきました。ただ、あらかじめ「元本の5%増」などといった到達目標を決める方式の商品をすすめることが多く、目標に到達すれば解約となります。そこで再び同じ商品をすすめ、購入時にかかる販売手数料を生保が何度も得るビジネスになっていました。この販売方式は顧客本位ではないと金融庁が問題視したことから、日生は販売をやめることにしたのです。
また、生命保険の乗り合い代理店に生保が広告を出稿したり、出向者を派遣したりすることなども、顧客に最適な商品を紹介するという趣旨をゆがめていると金融庁は問題視しています。生保がこうした顧客の利益を最優先しないやり方をとるのは、人口減少の日本では従来の生命保険の販売だけでは行き詰まるという不安があり、目先の利益に走っているためと考えられます。生保各社の業績は現在好調ですが、将来の不安は強くなっています。今後は目先の利益を追うのではなく、非保険分野や海外進出に力を入れることが求められそうです。
(写真・日本生命保険の看板/朝日新聞社)
金融庁の免許を持つ会社は41社
金融庁が免許を与えている生命保険会社は41社あります。日本の大手生保はかつては生保レディーとよばれた営業職員を多く抱え、一般的な掛け捨ての生命保険から貯蓄型商品まで幅広く取り扱っています。外資系の会社も多く、医療保険に強かったり通信販売に特化していたりする会社が多いのが特徴です。日本の中堅生保の中には、銀行の窓口などで売ってもらう貯蓄型商品の開発と卸しを主力にしている会社もあります。また、ネットなどによる通信販売に特化している日本の会社もあります。
(イラスト・iStock)
大手は日本生命、第一生命など8社
国内で大手といわれる会社は8社です。2024年3月期の保険料等収入の多い順に並べると、日本生命、第一生命ホールディングス、明治安田生命、住友生命、 T&Dホールディングス、ソニー生命、富国生命、朝日生命の順になります。2023年3月期には新型コロナで入院した人への給付金の負担が業績に影響していましたが、2024年3月期にはその負担がなくなった一方、円安などの影響で外貨建て一時払い終身保険が人気を集めるなどして、各社とも本業のもうけを示す基礎利益を伸ばしました。
多くは相互会社だが株式会社も
生命保険会社の業態は、相互会社と株式会社の二種類あります。相互会社というのは、生保にだけ認められているものです。契約者が社員となり、株式会社における株主総会にあたる決定機関は社員の代表による社員総会(総代会)になります。明治時代に生保は相互扶助の組織として誕生しており、その精神を受け継いだ組織の形になっています。相互会社の難点としては、多ければ1千万人を超える社員の意思を経営に反映させることがむずかしいことや、株式市場からの資金調達ができないことです。日本の生保の多くは相互会社ですが、第一生命は2010年に株式会社に移行しました。また、T&Dホールディングスも生保3社を傘下に持つ株式会社となっています。いずれも東京証券取引所のプライム市場に上場しています。
(写真・iStock)
福利厚生代行や介護などの会社を買収
日本の生保の課題は、非保険ビジネスを強化することです。人口の減る日本では、生命保険の加入者を今以上に増やすことはむずかしくなっています。第一生命は2024年3月に企業向け福利厚生代行会社ベネフィット・ワンに対し、株式公開買い付け(TOB)を実施し、完全子会社にしました。第一生命の菊田徹也社長は「新規のお客様との接点を獲得するには、非保険領域がカギだ」と述べています。第一生命では非保険事業の利益を現在の1%程度から10%に増やす目標を掲げています。日本生命は2023年末に介護最大手ニチイ学館の親会社ニチイホールデイングスを買収しました。また、住友生命は2023年に健康診断や運動量に応じてポイントがたまるサービス「バイタリティー・スマート」を始めました。これは保険の契約者でなくても利用できるサービスです。明治安田生命保険は、「明治安田生命」というブランドの通称を「明治安田」に改めています。これは、生命保険のイメージをもっと幅広いものにしたいという思いからだそうで、その先には非保険事業の強化があるとみられています。
明治安田は70歳定年を実施へ
少子高齢化に伴う人手不足は、生命保険業界でも問題になっています。明治安田生命は定年を現在の65歳から70歳に延長することを明らかにしています。2027年4月からの実施を目指しています。定年を70歳にするのは国内の大手金融機関では初めてで、ほかの業種を含めてもまだ極めて珍しい取り組みです。また、営業社員の確保もむずかしくなっているため、各社は大幅な賃上げを実施しています。日本生命は約5万人いる営業社員について2023年度、24年度と平均7%の賃上げを実施しました。
(写真・明治安田生命保険本社の看板/朝日新聞社)
安定志向から挑戦する意欲を持つ人へ
生保業界は明治時代からある古い業界です。戦後は日本人が長寿になった恩恵を受けて、保険料収入が保険料支払いを上回り、成長してきました。潤沢な資金や不動産を持ち、安定した業界として就職人気も高い業界でした。しかし、バブル経済崩壊により、大手は何とか乗り切ましたが、一部の生保が破綻するなどしました。今はまた安定を取り戻していますが、日本の人口減少はこれからかなりのスピードで進むことが想定されているため、先行きは不透明です。そのため、非保険分野や海外への進出という新しい挑戦を迫られています。求める人材も、安定志向ではなく挑戦する能力や意欲のある人材に変わりつつあります。
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